【童話】たぬきのポン吉、異世界に転生する(上)
文字数 4,611文字
01 ぼくはポン吉
たぬきのポン吉が目をさますと、目の前におじさんの顔がありました。鼻の下にりっぱなひげのある顔。ピカピカのよろいを着た、大きな体のおじさんです。
「うわあ!」
ポン吉はおどろいて立ち上がりました。
「人間だ! 人間がいる!」
ポン吉がさけぶと、おじさんは黒いひげをなでながら、
「変なことを言うなあ。きみだって人間じゃないか。そんな道ばたで寝転んで。どうしたんだい?」
えっ!?
ポン吉は、じぶんの手や足を見て、またびっくり。
ふさふさの毛はすっかりなくなって、人間みたいにつるんとしていました。けれども、代わりに服を着ているので、ちっとも寒くはありません。そう、人間の男の子のかっこうです。
「ぼく、人間になっちゃったみたい」
森の中でお昼寝していたはずなのに、おかしいなあ……。
「どうしちゃったんだろう」
ポン吉が首をひねると、
『ピコーン』
音がしました。
すると……あれあれ? 目の前に、光る文字があらわれました。
【種 族】人間(たぬき)
【性 別】男(オス)
【クラス】無職
【魔 法】
・火 Level 1
・水 Level 1
・風 Level 2
・土 Level 3
・光 Level 1
・闇 Level 1
・毒 Level 1
・変身 Level 99
・飛行 Level 1
【固有魔法】
・緑の覗き魔
・虹の架け橋
「なんだろう、これ?」
よく分かりません。
おじさんの頭の上にも、同じような文字が見えます。
『ピコーン』
【種 族】人間
【性 別】男
【クラス】騎士団長
【魔 法】
・火 Level 82
・水 Level 56
・風 Level 12
・土 Level 23
・光 Level 99
・闇 Level 10
・毒 Level 5
・変身 Level 9
・飛行 Level 37
【固有魔法】
・破邪の黄光剣
……やっぱり、よく分かりません。
ポン吉の話を聞くと、おじさんは、
「不思議なこともあるもんだ」
と言って、「ううん……」うなってしまいました。
「ぼく、森に帰りたいんです」
ポン吉が言うと、
「森かい? 森ならあっちだよ」
おじさんは、太陽がのぼってくる方向を指さしました。
「ありがとう、おじさん」
「気をつけるんだよ」
ポン吉はおじさんに手をふって、教えてもらった道を、えっちらほっちら歩いていきました。ううん、人間の2本足は歩きづらいなあ。
しばらく行くと、川を渡ったところに大きな森がありました。けれど、ポン吉の暮らしていた森とは違うようです。ポン吉は、がっかりしました。
すると、
「きゃああ――!」
という女の子の声が、森の奥から聞こえてきました。
02 森の中から
「どうしたんだろう?」
悲鳴のしたほうにポン吉が走っていくと、女の子が座りこんでブルブルとふるえていました。金色の髪をしたきれいな女の子です。
「がるるるるるる!!」
犬だ!
大きな犬が、口をパッカリ開いています。ふと~いキバがギラギラ。今にも女の子にかみつきそうです。熊よりも大きな犬。しかも……、頭が3つもあるではありませんか! これはこわい!
3つのおっきな口からは、よだれがダラダラ、ダラダラと。
『ピコーン』
【種 族】ケルベロス
【性 別】オス
【クラス】地獄の番人
【魔 法】
・火 Level 42
・水 Level 7
・風 Level 10
・土 Level 29
・光 Level ―
・闇 Level 65
・毒 Level 59
・変身 Level ―
・飛行 Level ―
【固有魔法】
・冥王の紫炎
「どうしよう、あの子を助けないと。でも、こわいなあ……」
ポン吉はすっかりおびえてしまいました。女の子はさけびます。
「助けて、助けて!」
「ああ、食べられちゃう。ううん……」
ポン吉はすこし考えて、
「そうだ!」
ぽこん!
おなかをたたいて、ひらめきました。
「犬よりも、もっと強いものに化ければいいんだ!」
ポン吉の頭には、ピカピカのよろいを着た、ひげ面(づら)のおじさんが思いうかびました。うん、おじさんはすごく強そうだったぞ。
「えいっ、おじさんに変身っ!」
ぼわわわわん――
白いけむりがもくもく、もくもく……。するとポン吉は、あっという間にひげ面のおじさんに変身しました。
「よおし、これなら犬なんてこわくないぞ!」
ポン吉は、ケルベロスに向かって、腰につけていた剣をふりかざしました。
ピカー!
まるで太陽みたい。まぶしく光ります。
「きゃうん! きゃうん!」
3つ頭の犬は、おどろいて逃げ出しました。
「助けてくれてありがとう」
もとの姿にもどったポン吉に、女の子はお礼を言います。きらきら光る金色のかみと、とがった長い耳。宝石みたいな目。緑色のひらひらした服を着ています。
「あなたのお名前は?」
「ぼくはポン吉だよ」
ポン吉は、おなかをひとつ、ぽおんとたたいて、
「たぬきだよ!」
「たぬきさん? わたしには人間の男の子に見えるわ」
「ううん……ほんとは、たぬきなんだけどなあ……」
ポン吉は首をかしげます。
「気がついたら人間のかっこうになっていたんだ」
「変なたぬきさん」
女の子は笑って言います。
「わたしはアンリ。エルフなの」
「えるふ? ってなあに?」
「森に住むとっても長生きな生き物よ。わたしのお父さまは、エルフの王さまなのよ」
「へええ!」
ポン吉はおどろきました。まん丸な目を、もっと丸くします。
「アンリはお姫さまなんだね」
「ええ、そうなの」
『ピコーン』
またあの音がしました。アンリの頭のうえに文字があらわれます。
【種 族】エルフ
【性 別】女
【クラス】王女・弓兵
【魔 法】
・火 Level 9
・水 Level 89
・風 Level 41
・土 Level 33
・光 Level 48
・闇 Level ―
・毒 Level 26
・変身 Level 3
・飛行 Level 8
【固有魔法】
・守人の水弓
……ううん。
ポン吉は人間の文字が分からないので、頭をひねるばかりです。
まあいいや。ポン吉は女の子に、
「ぼくも森に住んでいたんだ。でもここじゃあなくって。アンリ、なにか知らないかな?」
「ポン吉さんが住んでいたのは、どんな森なの?」
「おいしい柿がたくさんできるんだ」
「他には?」
「うーんと、野イチゴもすっぱいけどおいしいんだよ」
ああ、口いっぱいにほおばりたいなあ……そう思ったら、おなかから、グゥウ――という音がしました。
「うふふ、ポン吉さんって、食いしんぼなのね」
アンリはくすくす笑います。
恥ずかしいなあ。
「ポン吉さんの森はわからないけど、わたしのお家にあそびに来ない? 助けてくれたお礼に、おいしいパンでもいかが?」
うわあい。
ポン吉は、おなかをたたいてよろこびました。
03 エルフの村へ
森の奥に、エルフの村がありました。その中でも一番大きなお屋敷に、エルフの王さまはいました。アンリによく似た、とてもすてきな男の人です。
「やあポン吉くん。むすめを助けてくれてありがとう」
金色のかみはハチミツみたいにつやつや。赤いマントを着た、エルフの王さま。
『ピコーン』
【種 族】エルフ
【性 別】男
【クラス】王・槍兵
【魔 法】
・火 Level 33
・水 Level 56
・風 Level 90
・土 Level 89
・光 Level 61
・闇 Level ―
・毒 Level 37
・変身 Level 12
・飛行 Level 23
【固有魔法】
・青生樹の槍
と、光る文字。
しかしそんなことより、ポン吉はテーブルの上が気になります。
「ここのところ、ケルベロスは暴れてばっかりでね。困っていたんだよ。まあこれにこりて、すこしは大人しくなるだろう。さあ、お礼に、たあんと食べておくれ」
そこには、焼きたてのパンやケーキが並んでいました。
「わあ、おいしそう! いただきます!」
とろーりクリームの入ったパンに、ソーセージをはさんだ香ばしいパン。ぱくり。ぱくり。ああ、お砂糖いっぱいのドーナツもあるぞ。ううん、どれもこれもおいしいなあ。
「うふふ、ポン吉さんたら、そんなにあわてなくてもいいのに」
アンリは笑って、
「ミルクティーもいかが?」
「うん、ありがとう!」
ごくごく。
ふう、お腹もいっぱいだ。
「ごちそうさまでした」
「ところでポン吉くん」
エルフの王さまが言いました。
「きみはたぬきなんだって? どうしてそんな人間のかっこうをしているんだい? たぬきお得意の変装かな?」
「ええっと、ぼくにもよくわかりません。目がさめたら、こうなっていたんです。もとの姿には戻れなくって」
「そうかい」
王さまはちょっとだけ困ったような顔をして、
「できるだけ、人間の姿で森に入らないほうがいいぞ」
「どうして?」
「エルフと人間は戦争をしているんだ」
「戦争? ケンカしてるの?」
「ああ」
王さまはゆっくりうなずきます。
「人間たちは、この森を切りひらこうとしているんだ。向こうの町へ行くために、大きな道を作るつもりなんだよ。でもここには、たくさんの生き物が住んでいる。わたしたちエルフもそうだし、鳥や鹿、熊にリス……植物だってそうだ」
「お父さま」
アンリは心配そうな声でつぶやきました。王さまは続けて、
「木を切って、花をつむ。そうすると、動物たちは住めなくなってしまう。人間は、そうして森をこわそうとしているんだ」
「それはひどい!」
ポン吉は顔をまっ赤にしました。
ポン吉だって、こことは違う森の中で育ったのです。友だちもたくさんいました。鹿のお姉さんや、熊のおじさん。キツネの女の子とはケンカもしたけれど、とても仲良しでした。どっちが早く一本松にたどり着くか、よく競争したっけ……ポン吉は思い出します。
「ぼく、人間の王さまに、やめてもらうよう話してみるよ」
「できるのかい?」
「だってぼく、人間のかっこうをしているから、きっとお話を聞いてもらえるよ」
「そうか! ありがとう、ポン吉くん」
「ポン吉さん、ありがとう!」
アンリに手を握られて、ポン吉はまた顔を赤くします。野イチゴみたいにまっかっか。
「じゃあ、いってきます!」
ポン吉は、もと来た道をもどっていきました。
たぬきのポン吉が目をさますと、目の前におじさんの顔がありました。鼻の下にりっぱなひげのある顔。ピカピカのよろいを着た、大きな体のおじさんです。
「うわあ!」
ポン吉はおどろいて立ち上がりました。
「人間だ! 人間がいる!」
ポン吉がさけぶと、おじさんは黒いひげをなでながら、
「変なことを言うなあ。きみだって人間じゃないか。そんな道ばたで寝転んで。どうしたんだい?」
えっ!?
ポン吉は、じぶんの手や足を見て、またびっくり。
ふさふさの毛はすっかりなくなって、人間みたいにつるんとしていました。けれども、代わりに服を着ているので、ちっとも寒くはありません。そう、人間の男の子のかっこうです。
「ぼく、人間になっちゃったみたい」
森の中でお昼寝していたはずなのに、おかしいなあ……。
「どうしちゃったんだろう」
ポン吉が首をひねると、
『ピコーン』
音がしました。
すると……あれあれ? 目の前に、光る文字があらわれました。
【種 族】人間(たぬき)
【性 別】男(オス)
【クラス】無職
【魔 法】
・火 Level 1
・水 Level 1
・風 Level 2
・土 Level 3
・光 Level 1
・闇 Level 1
・毒 Level 1
・変身 Level 99
・飛行 Level 1
【固有魔法】
・
・
「なんだろう、これ?」
よく分かりません。
おじさんの頭の上にも、同じような文字が見えます。
『ピコーン』
【種 族】人間
【性 別】男
【クラス】騎士団長
【魔 法】
・火 Level 82
・水 Level 56
・風 Level 12
・土 Level 23
・光 Level 99
・闇 Level 10
・毒 Level 5
・変身 Level 9
・飛行 Level 37
【固有魔法】
・
……やっぱり、よく分かりません。
ポン吉の話を聞くと、おじさんは、
「不思議なこともあるもんだ」
と言って、「ううん……」うなってしまいました。
「ぼく、森に帰りたいんです」
ポン吉が言うと、
「森かい? 森ならあっちだよ」
おじさんは、太陽がのぼってくる方向を指さしました。
「ありがとう、おじさん」
「気をつけるんだよ」
ポン吉はおじさんに手をふって、教えてもらった道を、えっちらほっちら歩いていきました。ううん、人間の2本足は歩きづらいなあ。
しばらく行くと、川を渡ったところに大きな森がありました。けれど、ポン吉の暮らしていた森とは違うようです。ポン吉は、がっかりしました。
すると、
「きゃああ――!」
という女の子の声が、森の奥から聞こえてきました。
02 森の中から
「どうしたんだろう?」
悲鳴のしたほうにポン吉が走っていくと、女の子が座りこんでブルブルとふるえていました。金色の髪をしたきれいな女の子です。
「がるるるるるる!!」
犬だ!
大きな犬が、口をパッカリ開いています。ふと~いキバがギラギラ。今にも女の子にかみつきそうです。熊よりも大きな犬。しかも……、頭が3つもあるではありませんか! これはこわい!
3つのおっきな口からは、よだれがダラダラ、ダラダラと。
『ピコーン』
【種 族】ケルベロス
【性 別】オス
【クラス】地獄の番人
【魔 法】
・火 Level 42
・水 Level 7
・風 Level 10
・土 Level 29
・光 Level ―
・闇 Level 65
・毒 Level 59
・変身 Level ―
・飛行 Level ―
【固有魔法】
・冥王の紫炎
「どうしよう、あの子を助けないと。でも、こわいなあ……」
ポン吉はすっかりおびえてしまいました。女の子はさけびます。
「助けて、助けて!」
「ああ、食べられちゃう。ううん……」
ポン吉はすこし考えて、
「そうだ!」
ぽこん!
おなかをたたいて、ひらめきました。
「犬よりも、もっと強いものに化ければいいんだ!」
ポン吉の頭には、ピカピカのよろいを着た、ひげ面(づら)のおじさんが思いうかびました。うん、おじさんはすごく強そうだったぞ。
「えいっ、おじさんに変身っ!」
ぼわわわわん――
白いけむりがもくもく、もくもく……。するとポン吉は、あっという間にひげ面のおじさんに変身しました。
「よおし、これなら犬なんてこわくないぞ!」
ポン吉は、ケルベロスに向かって、腰につけていた剣をふりかざしました。
ピカー!
まるで太陽みたい。まぶしく光ります。
「きゃうん! きゃうん!」
3つ頭の犬は、おどろいて逃げ出しました。
「助けてくれてありがとう」
もとの姿にもどったポン吉に、女の子はお礼を言います。きらきら光る金色のかみと、とがった長い耳。宝石みたいな目。緑色のひらひらした服を着ています。
「あなたのお名前は?」
「ぼくはポン吉だよ」
ポン吉は、おなかをひとつ、ぽおんとたたいて、
「たぬきだよ!」
「たぬきさん? わたしには人間の男の子に見えるわ」
「ううん……ほんとは、たぬきなんだけどなあ……」
ポン吉は首をかしげます。
「気がついたら人間のかっこうになっていたんだ」
「変なたぬきさん」
女の子は笑って言います。
「わたしはアンリ。エルフなの」
「えるふ? ってなあに?」
「森に住むとっても長生きな生き物よ。わたしのお父さまは、エルフの王さまなのよ」
「へええ!」
ポン吉はおどろきました。まん丸な目を、もっと丸くします。
「アンリはお姫さまなんだね」
「ええ、そうなの」
『ピコーン』
またあの音がしました。アンリの頭のうえに文字があらわれます。
【種 族】エルフ
【性 別】女
【クラス】王女・弓兵
【魔 法】
・火 Level 9
・水 Level 89
・風 Level 41
・土 Level 33
・光 Level 48
・闇 Level ―
・毒 Level 26
・変身 Level 3
・飛行 Level 8
【固有魔法】
・
……ううん。
ポン吉は人間の文字が分からないので、頭をひねるばかりです。
まあいいや。ポン吉は女の子に、
「ぼくも森に住んでいたんだ。でもここじゃあなくって。アンリ、なにか知らないかな?」
「ポン吉さんが住んでいたのは、どんな森なの?」
「おいしい柿がたくさんできるんだ」
「他には?」
「うーんと、野イチゴもすっぱいけどおいしいんだよ」
ああ、口いっぱいにほおばりたいなあ……そう思ったら、おなかから、グゥウ――という音がしました。
「うふふ、ポン吉さんって、食いしんぼなのね」
アンリはくすくす笑います。
恥ずかしいなあ。
「ポン吉さんの森はわからないけど、わたしのお家にあそびに来ない? 助けてくれたお礼に、おいしいパンでもいかが?」
うわあい。
ポン吉は、おなかをたたいてよろこびました。
03 エルフの村へ
森の奥に、エルフの村がありました。その中でも一番大きなお屋敷に、エルフの王さまはいました。アンリによく似た、とてもすてきな男の人です。
「やあポン吉くん。むすめを助けてくれてありがとう」
金色のかみはハチミツみたいにつやつや。赤いマントを着た、エルフの王さま。
『ピコーン』
【種 族】エルフ
【性 別】男
【クラス】王・槍兵
【魔 法】
・火 Level 33
・水 Level 56
・風 Level 90
・土 Level 89
・光 Level 61
・闇 Level ―
・毒 Level 37
・変身 Level 12
・飛行 Level 23
【固有魔法】
・
と、光る文字。
しかしそんなことより、ポン吉はテーブルの上が気になります。
「ここのところ、ケルベロスは暴れてばっかりでね。困っていたんだよ。まあこれにこりて、すこしは大人しくなるだろう。さあ、お礼に、たあんと食べておくれ」
そこには、焼きたてのパンやケーキが並んでいました。
「わあ、おいしそう! いただきます!」
とろーりクリームの入ったパンに、ソーセージをはさんだ香ばしいパン。ぱくり。ぱくり。ああ、お砂糖いっぱいのドーナツもあるぞ。ううん、どれもこれもおいしいなあ。
「うふふ、ポン吉さんたら、そんなにあわてなくてもいいのに」
アンリは笑って、
「ミルクティーもいかが?」
「うん、ありがとう!」
ごくごく。
ふう、お腹もいっぱいだ。
「ごちそうさまでした」
「ところでポン吉くん」
エルフの王さまが言いました。
「きみはたぬきなんだって? どうしてそんな人間のかっこうをしているんだい? たぬきお得意の変装かな?」
「ええっと、ぼくにもよくわかりません。目がさめたら、こうなっていたんです。もとの姿には戻れなくって」
「そうかい」
王さまはちょっとだけ困ったような顔をして、
「できるだけ、人間の姿で森に入らないほうがいいぞ」
「どうして?」
「エルフと人間は戦争をしているんだ」
「戦争? ケンカしてるの?」
「ああ」
王さまはゆっくりうなずきます。
「人間たちは、この森を切りひらこうとしているんだ。向こうの町へ行くために、大きな道を作るつもりなんだよ。でもここには、たくさんの生き物が住んでいる。わたしたちエルフもそうだし、鳥や鹿、熊にリス……植物だってそうだ」
「お父さま」
アンリは心配そうな声でつぶやきました。王さまは続けて、
「木を切って、花をつむ。そうすると、動物たちは住めなくなってしまう。人間は、そうして森をこわそうとしているんだ」
「それはひどい!」
ポン吉は顔をまっ赤にしました。
ポン吉だって、こことは違う森の中で育ったのです。友だちもたくさんいました。鹿のお姉さんや、熊のおじさん。キツネの女の子とはケンカもしたけれど、とても仲良しでした。どっちが早く一本松にたどり着くか、よく競争したっけ……ポン吉は思い出します。
「ぼく、人間の王さまに、やめてもらうよう話してみるよ」
「できるのかい?」
「だってぼく、人間のかっこうをしているから、きっとお話を聞いてもらえるよ」
「そうか! ありがとう、ポン吉くん」
「ポン吉さん、ありがとう!」
アンリに手を握られて、ポン吉はまた顔を赤くします。野イチゴみたいにまっかっか。
「じゃあ、いってきます!」
ポン吉は、もと来た道をもどっていきました。