ゲームに入りたい

文字数 1,800文字

 高校に入って1年が過ぎたところで、特に劇的なドラマはない。僕の猫背は治らないし、くせっ毛も真っ直ぐにはならない。

 唯一の光明は、年度替りのクラス替えでクラスメイトになった、僕の前の席に座る高橋ユリカの存在くらい。恋人でもなければ、友達といえるほどの仲ではないけれど、休み時間の僕の雑談に律儀に付き合ってくれるいいやつ。

 ――今日も今日とて。

「なあ高橋、ゲームに入りたいって思ったことない?」
 背中に向けて話しかける。

「ゲーム?ゲームって、テレビゲームとかスマホのアプリのこと?」
 振り向いて言うショートカットの女子、高橋。

「そう、そのゲーム。ほら例えばさ、オンラインゲームを模したRPGとか最近ハヤってんのよ」
「そうなんだ。入るってどういうこと?」

 なんだかんだで話の照準を合わせてくれる。やっぱり律儀だ。

「ゲームの主人公になるんだよ。そんで冒険したり、スキルを使ってモンスターを狩ったり、他のプレイヤーと交流したりさ」
「でも面倒じゃない? いま、働かなくても食べていけてるのに」

「そりゃまだ高校生だからな」
「大人になったって、命がけの仕事なんてごく僅かだよ。それに、現実社会でも人間関係ギスギスするのに、ゲームの中でも交流するの?」

「シビアだな。そんな世知辛い話じゃないんだよ」
「それに、据え置き機ならまだしも、携帯機とかスマホだと、見下ろされちゃうんだよ、ずっと」

「見下ろされるって?」
「ほら、明智(あけ)っちーだって、画面見下ろしてるでしょ、ゲームのとき」

「いやそうだけど、操作される側じゃなくてさ、自由意志を持ってんだよ」
「それってアンフェアじゃない?普段はキャラクターをいいように操ってるくせに、自分が入ったら自由に動こうだなんて。ゲームはフェアであるべきでしょ」

 それにさ、と高橋は続ける。
「遊びたくなったときには呼び出されて、思う存分遊んで飽きたら電源OFFなんでしょ。そんな都合のいい女にはなりたくないわ。タッチパネルとか最悪。体をベタベタ触られるんでしょ」

 そういえば、と高橋。
「電源OFFのときってどうしてるんだろうね。キャラクター。休憩中? 時間が止まっちゃう?」

 湧き出る疑問を止められない高橋。
「止まっちゃうんだったら、プレイヤーの明智(あけ)っちーは成長するし、年を取るけど、私はちょっとずつしか年を取らないのよね。女子的にはありがたいけど、遊び相手がどんどん遠くに行っちゃって、明智(あけ)っちーもいつかは先に死んじゃうって悲しくない?」

「僕の死を悼んでくれるのは不謹慎にも嬉しいけど。えっと、じゃあRPGじゃなくてアクションとか」
「根本的な解決にはならない気がするけど、あえて言うなら痛そう。RPGより死んじゃう回数多くない?」

「それならシミュレーションRPG」
「決まったマス目しか歩けないなんてナンセンス」

「シミュレーションゲーム」
「もうそれ現実世界でよくない」

「パズルゲーム」
明智(あけ)っちーパズル下手そう。私イライラしそう」

「落ちゲー」
「積むんじゃなくてすぐ詰みそう」

「ノベルゲー」
「私って立ち絵?」

「シューティングゲーム」
「要は反復横跳びでしょ」

「格ゲー」
「私、痩せ型が好きだから筋骨隆々はちょっと」

「リズムゲー」
「踊らされるのは嫌」

「アドベンチャーゲーム」
「人生は二択じゃないの」

「野球ゲーム」
「カープ女子って試合より写真映り気にしてそうだよね」

「サッカーゲーム」
「可愛いユニフォームならいいかも」

「カーレース」
「乗り物酔いするからパス」

「ボンバーマン」
「名前が物騒」

「ホラーゲーム」
「女子トークの方がよっぽど怖い」

「タイピングゲーム」
「キーボードって衰退していく気がする」

「囲碁」
「白黒つけるって日本人に合わなくない?グレーが必要よ」

「信長の野望」
「私は毎回島津」

「ポケモン」
「ゲットだぜ」

「ガンダム無双」
「金属資源の無駄遣い」

「将棋」
「ルール知らない」

「ギャルゲー」
「セクハラ」

「カードゲーム」
「薄っぺらいのね」

 まあでも、と高橋。
「つまらない小説に入るよりはマシかもね」

 そろそろチャイムが鳴るころだ。

(終)
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