喰ってもいい? 足の指11本

文字数 692文字

 竜宮城でめっけた亀はミヤサコではなくて、実際のところ、空飛ぶタガメだった。
 なぜ見間違えたのか? それは、そのタガメがウミガメくらいデカかったから。
「じゃ、そういうわけだから、明日ここで待ってるよ」と、ぼくはミニスカのボインちゃんに言った。
「え、なんでなんで?」
「だからさあ、タガメたすけちゃったから、ぼくは恩返しを受けなくちゃならない。ぼくが恩返しを受けることは義務なんだ」
「そうなんだ、そうなんだ」
「そうなんだ。だから、明日ここで、きみを待ってる」
「え?」と彼女はグーにした両手を顎の下にくっつけて挟んだまま固まった。1分ほどして、ぼくにウルウルした上目遣いにまばたきしてみせ彼女は、「いいよ」
「じゃ、明日ね」と、ぼくが言うと、うん、うんっと首肯して彼女はくるっと後ろをむき、下あごを両拳にはさみこんだまま走り去った。
 ぼくは口笛をピューっと吹いて、上空から超巨大タガメを呼び寄せた。
 ぼくの顔の付近に浮くタガメに訊く、
「どう思う?」
「バッチグーだよ。彼女には親も子もいない、16歳だ。おまけに、その他親類も、友達も家もなにもない。指喰べほうだいってとこだな」
「ちぇっ。足の指って10本しかないんだぜ」
「きみの知識によればね」と言って、タガメは、ぼくの顔にピュっと唾を吐いた。
「きったねーなっ、なにすんだよ!」ぼくはタガメを殴った。
 ぼくたちのいるグランドキャニオンの高い地面に落っこちたタガメは、それっきり動かなくなった。
「あーあ」と落胆したぼくは、どっかり腰をおろした。「でも、そもそももう、恩返しはないよな。ぼくは竜宮城でタガメをたすけたんだから」

 それでも、待ってるぜ。
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