切磋琢磨

文字数 2,257文字

 日差しが強くなり、あたりにセミの鳴き声が聞かれるようになってきた頃、そう期末試験も終了し他の生徒たちが解放感に包まれていた頃、とある生徒たちはとある締め切りに追い立てまくられていた。

 技科高とレースゲームの対抗戦が目前に迫ってフルタイムのレースゲーム要員のハヤテと夕霧はお互いに腕を磨き合っていた。 

 「S字カーブだと手前のコーナーで無理して抜いても次のコーナーまでに失速するからクロスラインで抜かれ返されるぞ」

 「イン側が開いているからといって何でもインから抜けばいい訳じゃないのね…」

 「そう、同じ方向へのカーブが連続するコーナーの時にイン側から抜いて行けば、多少失速しても抜き返されないからな」

 ハヤテと夕霧はゲームに設定してある全レース場の全コーナーについて二人で一緒に走って、今日の昼休みも研究を重ねる。

 「ハヤテさん、さっきの5コーナーはギアを何速で走っています?」

 「ギア比が俺と同じなら晴れだったらアクセル全開で3速、雨だったら余り踏まないで4速かな… 雨の日はパワーかけ過ぎるとレインタイヤでもスリップするから気をつけような。 一緒に走ってみよう」

 夕霧の成長の早さにハヤテは驚いていた。教えたことをすぐに身につけるだけだったのが、いつの間にか自分でもアレンジしてから試してより良い方法見つけ出していく。ただの質の良いコピーだけでなく、レベルアップする成長型のコピーができるのだ。

 「夕霧さん、コーナー入口では『スローインファストアウト』を忘れないで!」

 「ハヤテさん、『スローインファストアウト』は、ゆっくりコーナーに進入するだけでなくて、コーナー後半の立ち上がり加速を最適にするため逆算して一番いい速度とギアを選んでコーナーに進入しなさい、っていうことだったんですね。奥が深いですね…」

 「そ、そうなんだ…」

 もう一つは、夕霧は肉体面でも急速に成長していた。小柄でメリハリのないボディだったのが入学から数か月して、身長も伸びメリとハリがある女性的な肉体に変化していった。
顔つきも子どもっぽかった顔から急に大人びた表情を見せるようになっていった。自転車もつま先立ちしていたのが余裕で体を支えられるようになっていた。それでも夕霧の方は今までと変わりなくハヤテに近寄ってきてくれるが、ハヤテの方が夕霧の神々しさに近寄りづらさを感じるようになっていた。

 「遅れてごめんなさい。いろいろと立て込んじゃってしまって…」

 疲れが残っている顔をして小春がやってきてイスを机から引いて腰かけた。

 「お疲れさま~ 兼定さんは全てに全力投球だからね…」

 「もし全部をするのが大変ならゲームのことは俺と夕霧さんに任せていいんだぜ」

 「いえ、一度口に出したことは絶対に私はやり遂げます」

 「でも、アーチェリーにゲームに勉強。その他にもお家の方で色々なお稽古や習い事があるんでしょ」

 「すべて私に必要があるからしているのです。だから何一つ手を抜くことはできません」

 「それはわかっているけど、気持ちじゃなくてカラダの方が悲鳴をあげているんだって」

 「そういう訳には

 ゴンッ!

 小春は話している途中で白目になって激しい音をたてて机の上にうつむけに伏せてしまった。

 「ほら、やっぱり疲れているんじゃない兼定さんてば」

 「兼定さんはああ言っていたけど、このままココで休ませてやろう。今日は土曜日だから午後は授業がないし」

 「体が資本と言いますもんね。私たちは研究を続けましょう」

 休息をとっている(気絶している)小春を見守り?つつ、ハヤテと夕霧はゲームの研究に戻った。


 「ウ~ン」

 両腕を上に伸ばしながら背伸びをして小春は目を覚ました。

 「ココはどこ?」

 研究に没頭し、小春の質問に聞こえていないハヤテと夕霧はモニターに向かって夢中になっている。

 ドン!

 「コ コ は ど こ で す か ~ !」

 机を両手を握った拳で叩いて小春は大声を出した。ゲームを中断してハヤテと夕霧が小春のところへやって来た。

 「起きたんだ、兼定さん!」

 「余りに気持ちよさそうに寝ていたし疲れもたまっていたようだったから、兼定さんを俺は起こせなくて…」

 「今は何時ですか?」

 「え~っと… 4時半くらいかな…」

 「そうすると、私はお昼過ぎから夕方4時半まで眠り呆けていたのですか、ゲームの特訓をしようとしていたのに…」

 諦念からか小春は悟りを開いたように静かになっていた。

 「このところ、疲れとストレスから近々このような事態になる気がしていました… その対策として、やらなければいけない事柄を全部早めに片付けて置いたのです」

 「それがさらに疲れを増大させて」

 テキトーに合いの手をいれる夕霧

 「そう、蓄積し限界を超えてしまい、不覚にも爆睡してしまいました。しかし自分的にはやり残したことはありません。ゲームの練習を除いては」

 「ゲームの練習だけが残っているのね?」

 「そこで申し訳ありませんが、どなたかのお家でゲームの特訓をさせて頂けないでしょうか? なにぶん我が家にはゲームがありませんので…」

 「それならウチに来てくださいよ、兼定さん! それに良かったらハヤテさんも来ませんか?」

 「まだ4時半だし、もう少しみんなで練習しようか」

 「では、私は新人戦で使うアーチェリーの道具を家に持って帰るために取ってきますから校門で待っていてください」

 「俺と夕霧さんはゲーム機とかを持って行くから、おち合おう」

 三人はそれぞれ持って帰る物を集めに行った。
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