大遅刻

文字数 1,386文字

 山でよくある急な天候不順でアーチェリーの新人戦は一時中断して天候の回復を待った。その後40分ほどして、にわか雨は通り過ぎ試合は再開された。ただ、全体のスケジュールも40分後ろにずれて、小春は午後1時のバスには乗れなかった。そのため小春は午後2時発のバスに乗ることになってしまい、それでは技科高校とのゲーム対抗戦の参加時間には全然間に合わない…

 “頼光さんへのチャットアプリメールがまだ既読になっていない… 私はどうしたらいいんだろう…”

 「兼定さん、今日は新人戦県内2位おめでとう! よくがんばったね!」

 “どこかで見たことがあるのだけれど、この女の人”

 「どうもありがとうございます! 失礼ですが、どちらさまでしたっけ?」

 相手はすごく悲しそうな顔をした。

 「確かに私も幽霊顧問だから大きな事を言えないけど… アーチェリー部の顧問の体育科の大城よ」

 「えっ!? 全然わかりませんでした! すみません」

 「兼定さんは1年生になったばっかりだし、私もいつもはジャージを着ているから私服だとわからないよね… 今日は部活顧問として一応引率に来ていたところなの」

 小春の頭にひらめくことがあった。

 「大城先生、ところで今日はどのようにしてこちらまでいらっしゃったのですか?」

 「今日は車で来たわよ」

 “思ったとおり”

 「すみません、できれば私を連れて帰って欲しいのですけれど…」

 
 「あれ、兼定さんからチャットアプリメールが届いている! 現地出発が1時間遅れているけど何とか間に合うようにがんばる、って言っても… 今すぐ返事しないと…」

 ハヤテは小春へチャットアプリメールを返信し、同時に電話をかけた。しかし、車の助手席で運転手が運転するすぐ横でスマホを一人で見続けるマネはしない小春は荷物バックの奥底にスマホを大事に入れていた。着信音は全く小春には届いていない。

 大城先生の運転する車は先を急ぐものの、1時間早く発車したバスの後ろに連なる車の大渋滞に巻き込まれていた。この1時間早く発車したバスを追い抜かして計画より早く戻れると、初めは小躍りしていた小春だったが、現実は甘くないことを知った。

 結局のところ、対抗戦の第3ゲームの予定開始時刻から遅れること30分の午後4時に小春は技科高へ到着した。それから試合会場を探しだした小春は会場へ駆けこんだが、そこにはまだ多くの人が残っていた。

 「兼定さん、来てくれたんだね!」

 「頼光さん、秋月さん、遅れてすみません」

 「まだ兼定さんは遅れていないんだよ! チャットアプリで送ったけど第3ゲームの開始時間が遅れているんだ」

 「えっ! 本当!?」

 「電気設備の点検があって、少しの間だけ停電になっていたんだ。ここもさっき復旧したところなんだけど、第3ゲームの開始時刻は午後4時15分なんだ」

 「では、私は第3ゲームに出れるっていう事なんですね」

 「もちろん! 早く準備をしてください」

 午後4時15分、司会が両校からの参加者リストを受け取り第3ゲームの参加者を呼び出す。

 「皆南高 兼定さん 技科高 進藤さん 両者席に着いてください」

 小春と進藤の予選の結果、ポールポジションは進藤、セカンドポジションは小春となった。勝負には全くならなかった。進藤の圧勝であった。このとき小春は初心者の自分にも全力で勝負してくれた進藤に心から感謝した。
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