暴走自転車
文字数 1,839文字
とある県立高校の入学式翌日の、新入生が自分一人で初めて登校する日のこと…
頼光ハヤテ(ヨリミツ ハヤテ)は最寄駅から県立皆南高校までの道のりを一人で歩いて登校していた。途中の交差点で横断歩道の向かい側から青信号をフラつきながら渡って来る、自分と同じ学校の制服を着た女子が乗る自転車を見つけた。
“あの女子、あの自転車に乗り慣れていないようだな… というか、自転車の方が大きくてぜんぜん体格に合っていない… 危ねえから絶対に近寄らないようにしないと…”
思わず周りの歩行者が自ら道を明け渡すことで専用通路ができるくらいに危険な雰囲気をまき散らしつつ、その自転車はハヤテの真横をフラフラしながら通り抜けていった。そんなデンジャラスな女子にはお構いなしの、前を見ることなく手に持つスマホにだけ全注意力を向けている歩きスマホのサラリーマンがフラつく自転車の前にまっしぐらに向っていた。
「キ、キャーッ!」
顔の引きつった女の子の乗った自転車が悲鳴を上げながらホーミングミサイル(帰巣本能のように目標についていくミサイル)のように歩道脇の電柱に吸い寄せられていくのを、何とかしようと気をはやらせながらも何もできないままハヤテは見つめていた。
惨事の一因の歩きスマホのサラリーマンと言えば、倒れて後輪が回りっぱなしの自転車と転げ落ちた女子生徒に注意を払うことも気づくこともなく通勤通学の人波の中に姿を消していった。
「おい、大丈夫か?!」
目の前で地面に座り込んでいる同じ高校の女子をそのままにしておくことができずにハヤテは女子高生に声をかけていた。
「ええ、私なら大丈夫です。平気ですからどうかお構いなく」
肩までのストレート髪が見るからに美しい、賢そうな顔つきのその女子生徒は袖やスカートについた土ぼこりを手で払うと脚をかばいながら立ち上がった。
“この子、自転車だけでなく着ている制服も大きいんじゃないか?”
女子生徒が立ち上がると、制服は上下とも大き目で上着の袖とスカートは長かった。
「あんな転び方しておいて本当に平気なのかよ?」
「ええ… 私、今日の日直だから早くいかないと… 遅れる訳にはいかないんです!」
心配顔をしているハヤテのことをよそに女子生徒はサドルに腰かけるとすぐにペダルを踏み込んだ。が、ペダルは動かそうとしても全然回らない。
「おい、ちょっと自転車を見せてみなよ」
見かねたハヤテの呼びかけが耳に入らないかのように、女子高生は黙って何度もペダルを踏むが動く気配は、ない…
「本当に… 私の方は大丈夫ですから!」
「そんなこと言ってないでちょっと、一回降りろよ!」
この女子に無理やりペダルをこぐことを止めさせ、ハヤテはガンとして動かないペダルとチェーンをのぞき込む。
「後輪のチェーンが歯車から外れているよ… これじゃいくらペダルを踏んでも動かないどころか壊れちまうよ」
「もともと壊れていなかったんだから私でもすぐに直せるはずです!」
そう言うと女子生徒は突然、チェーンが絡んでいる歯車に向って躊躇なく指先を伸ばそうとした。
「おいおい、本当に待てったら!」
そう言うとハヤテは後から女子生徒の腕を強めに引っ張り、反対側の手を故障個所へ突っ込んだ。そして歯車に絡まったチェーンを外し器用につけ直した。
「慣れいないのが無理すると危ねえし、手が油だらけになるんだよ」
ハヤテが制服を汚さないように身体をひねって変な態勢になりながらズボンの後ろポケットへ伸ばしていると、女の子がハヤテの油だらけになった手と指にきれいなかわいらしいハンカチをかけて丁寧に拭き始めてくれた。
「ごめんなさい… 私ってパニックになると自分のことしか考えられなくなって…」
「そんなこと気にするなよ。俺だって自分で勝手にやったことだし」
「手まで汚くさせちゃって… 本当にすみません…」
「キミは今日は日直なんだろ。もういいから先に行けよ」
「でもこのままじゃ
「ほらコッチは平気だから、さあもう行きなよ。でも、運転に気をつけてな」
女の子は一礼すると自転車に乗って学校に向かって行った、ただ、自転車はまだフラついてはいたが…
ハヤテは自転車が行ってから気分良く拭いていた自分の手を見て驚いた!
「こんなきれいなハンカチをいい気になって油まみれにしちまったよ… おまけに相手がどこの誰だか聞くの忘れてた…」
朝の日差しの中を舞い踊る桜の花びらのなかで途方に暮れるハヤテであった。
頼光ハヤテ(ヨリミツ ハヤテ)は最寄駅から県立皆南高校までの道のりを一人で歩いて登校していた。途中の交差点で横断歩道の向かい側から青信号をフラつきながら渡って来る、自分と同じ学校の制服を着た女子が乗る自転車を見つけた。
“あの女子、あの自転車に乗り慣れていないようだな… というか、自転車の方が大きくてぜんぜん体格に合っていない… 危ねえから絶対に近寄らないようにしないと…”
思わず周りの歩行者が自ら道を明け渡すことで専用通路ができるくらいに危険な雰囲気をまき散らしつつ、その自転車はハヤテの真横をフラフラしながら通り抜けていった。そんなデンジャラスな女子にはお構いなしの、前を見ることなく手に持つスマホにだけ全注意力を向けている歩きスマホのサラリーマンがフラつく自転車の前にまっしぐらに向っていた。
「キ、キャーッ!」
顔の引きつった女の子の乗った自転車が悲鳴を上げながらホーミングミサイル(帰巣本能のように目標についていくミサイル)のように歩道脇の電柱に吸い寄せられていくのを、何とかしようと気をはやらせながらも何もできないままハヤテは見つめていた。
惨事の一因の歩きスマホのサラリーマンと言えば、倒れて後輪が回りっぱなしの自転車と転げ落ちた女子生徒に注意を払うことも気づくこともなく通勤通学の人波の中に姿を消していった。
「おい、大丈夫か?!」
目の前で地面に座り込んでいる同じ高校の女子をそのままにしておくことができずにハヤテは女子高生に声をかけていた。
「ええ、私なら大丈夫です。平気ですからどうかお構いなく」
肩までのストレート髪が見るからに美しい、賢そうな顔つきのその女子生徒は袖やスカートについた土ぼこりを手で払うと脚をかばいながら立ち上がった。
“この子、自転車だけでなく着ている制服も大きいんじゃないか?”
女子生徒が立ち上がると、制服は上下とも大き目で上着の袖とスカートは長かった。
「あんな転び方しておいて本当に平気なのかよ?」
「ええ… 私、今日の日直だから早くいかないと… 遅れる訳にはいかないんです!」
心配顔をしているハヤテのことをよそに女子生徒はサドルに腰かけるとすぐにペダルを踏み込んだ。が、ペダルは動かそうとしても全然回らない。
「おい、ちょっと自転車を見せてみなよ」
見かねたハヤテの呼びかけが耳に入らないかのように、女子高生は黙って何度もペダルを踏むが動く気配は、ない…
「本当に… 私の方は大丈夫ですから!」
「そんなこと言ってないでちょっと、一回降りろよ!」
この女子に無理やりペダルをこぐことを止めさせ、ハヤテはガンとして動かないペダルとチェーンをのぞき込む。
「後輪のチェーンが歯車から外れているよ… これじゃいくらペダルを踏んでも動かないどころか壊れちまうよ」
「もともと壊れていなかったんだから私でもすぐに直せるはずです!」
そう言うと女子生徒は突然、チェーンが絡んでいる歯車に向って躊躇なく指先を伸ばそうとした。
「おいおい、本当に待てったら!」
そう言うとハヤテは後から女子生徒の腕を強めに引っ張り、反対側の手を故障個所へ突っ込んだ。そして歯車に絡まったチェーンを外し器用につけ直した。
「慣れいないのが無理すると危ねえし、手が油だらけになるんだよ」
ハヤテが制服を汚さないように身体をひねって変な態勢になりながらズボンの後ろポケットへ伸ばしていると、女の子がハヤテの油だらけになった手と指にきれいなかわいらしいハンカチをかけて丁寧に拭き始めてくれた。
「ごめんなさい… 私ってパニックになると自分のことしか考えられなくなって…」
「そんなこと気にするなよ。俺だって自分で勝手にやったことだし」
「手まで汚くさせちゃって… 本当にすみません…」
「キミは今日は日直なんだろ。もういいから先に行けよ」
「でもこのままじゃ
「ほらコッチは平気だから、さあもう行きなよ。でも、運転に気をつけてな」
女の子は一礼すると自転車に乗って学校に向かって行った、ただ、自転車はまだフラついてはいたが…
ハヤテは自転車が行ってから気分良く拭いていた自分の手を見て驚いた!
「こんなきれいなハンカチをいい気になって油まみれにしちまったよ… おまけに相手がどこの誰だか聞くの忘れてた…」
朝の日差しの中を舞い踊る桜の花びらのなかで途方に暮れるハヤテであった。