ノックの音
文字数 1,552文字
「… 私の方は少し濡れるくらいでちょうどいいのよ、頼光クン…」
「俺の方はもっと濡れた方がいいんだけど、兼定さん」
外のクラブ活動の練習のかけ声や声だしが聞こえてくるくらいに物音のしない部室の中で、息を殺した二人が何やら見せあっている。
「ほら、もう固くなっているわよ頼光クン… 何も言わないで… 私だって触ればわかるわよ…」
「まだまだ、俺ならもっと固くなりますから。 触るだけでなくて息も吹きかけながらもっとしっかり押して… そこじゃないったら!」
「そんなこと言われても… そんなところは押せないよ、私には絶対に…」
蛍光灯の明かりと白い壁が殺風景な部室内に何とも言えない侘しさを感じさせるが、若い二人の熱のこもった共同行為には何の妨げにはなっていない。
「お願いだから付けるのだったら、頼光クンじゃなくて私につけさせてよ… ねえ、付けた後はやっぱり… さすった方がいいよね、頼光クン的には」
「そんなァ、さすっちゃだめだよ! せっかく付けたのがとれちゃうよ!」
兼定 小春の自分勝手な行為にハヤテの口調は丁寧さを失くし、声が高まって切羽詰まってきた。
「そんなことしないでって言ってるよね! ああーっ、飛び出ちゃうったら!」
小春の矢へ付けたプラウイングがアルミ管のシャフトからずれ落ちていった。原因は小春の接着剤を塗る分量不足が原因だ。
「何度やってもダメね…」
「だから、接着剤を多めに塗って、吹いて少し乾かしてから貼るんですよ」
「言われたとおりにやっても全然うまくいかないわ… もしかして教え方に問題が…」
首をかしげながら小春はチラリとハヤテを見る。
“この前だって先輩たちから見えなくなったら一人で更衣室に行ってたじゃないか”
普段は温厚なハヤテが口を真一文字に結んだまま小春のことをにらんでいた。
「そもそも頼光クンに教えてもらっているところなんて誰にも見られたくないですし」
ガチャガチャ!
≪さっき開けておいたハズなのにカギがかかっているぞ≫
扉ごしに外から山崎先輩の声が聞こえた。
「頼光クン、早く隠れないと!」
血相を変えた小春がハヤテの腕を引いて空のロッカーへ駆け込んだ。
「おかしいな… 貴重品はロッカーに入れて施錠してから扉のカギは開けっ放しにしておいたのに…」
「作かけの小春の矢が… 貼ったウイングを乾燥させていて誰にも触らせたくなかったんじゃないかな?」
ロッカーの換気穴から山崎先輩と渡辺先輩が話をしているのが見える。
「そう言えば、頼光に矢の作り方を教えてもらうって言っていたもんな。でも、何で兼定は頼光のことを邪険にするんだろう」
「まだ作っている途中みたいね。まあ、兼定さんのお家柄はご家老の末裔だからか気位がお高いからお素直じゃないんでしょ… そのまま放置してあの二人は一体どこに行ったのかしらね?」
そう言いながら渡辺先輩はドアに鍵をかけてから山崎先輩に身を寄せていった。
「お武家でなくても気位の高いお金持ちがここにもいるけどな。まあ、どこに行ったとしても俺たちには関係ないけどな」
山崎先輩はガラス窓に近づきカーテンをゆっくりと閉めた。
小春とハヤテの体のカラダは熱を帯びていったが、それは必ずしも狭いロッカーに二人して閉じ込められているだけが理由ではなかった。
話を続けようとする渡辺先輩のことを山崎先輩は黙って引き寄せて軽くハグした。ロッカーの中の二人の視線と注意力は先輩たちに全て注がれた。
沈黙が全てを支配していた。それから室内で見つめ合うふたり。ゆっくりを顔と顔が近づいていく… そして目を皿のようにしてかぶりつくロッカー内の二人。
ガチャガチャ!
トン! トン! トン!
ドアノブを回す音のあとにノックの音がした。
「俺の方はもっと濡れた方がいいんだけど、兼定さん」
外のクラブ活動の練習のかけ声や声だしが聞こえてくるくらいに物音のしない部室の中で、息を殺した二人が何やら見せあっている。
「ほら、もう固くなっているわよ頼光クン… 何も言わないで… 私だって触ればわかるわよ…」
「まだまだ、俺ならもっと固くなりますから。 触るだけでなくて息も吹きかけながらもっとしっかり押して… そこじゃないったら!」
「そんなこと言われても… そんなところは押せないよ、私には絶対に…」
蛍光灯の明かりと白い壁が殺風景な部室内に何とも言えない侘しさを感じさせるが、若い二人の熱のこもった共同行為には何の妨げにはなっていない。
「お願いだから付けるのだったら、頼光クンじゃなくて私につけさせてよ… ねえ、付けた後はやっぱり… さすった方がいいよね、頼光クン的には」
「そんなァ、さすっちゃだめだよ! せっかく付けたのがとれちゃうよ!」
兼定 小春の自分勝手な行為にハヤテの口調は丁寧さを失くし、声が高まって切羽詰まってきた。
「そんなことしないでって言ってるよね! ああーっ、飛び出ちゃうったら!」
小春の矢へ付けたプラウイングがアルミ管のシャフトからずれ落ちていった。原因は小春の接着剤を塗る分量不足が原因だ。
「何度やってもダメね…」
「だから、接着剤を多めに塗って、吹いて少し乾かしてから貼るんですよ」
「言われたとおりにやっても全然うまくいかないわ… もしかして教え方に問題が…」
首をかしげながら小春はチラリとハヤテを見る。
“この前だって先輩たちから見えなくなったら一人で更衣室に行ってたじゃないか”
普段は温厚なハヤテが口を真一文字に結んだまま小春のことをにらんでいた。
「そもそも頼光クンに教えてもらっているところなんて誰にも見られたくないですし」
ガチャガチャ!
≪さっき開けておいたハズなのにカギがかかっているぞ≫
扉ごしに外から山崎先輩の声が聞こえた。
「頼光クン、早く隠れないと!」
血相を変えた小春がハヤテの腕を引いて空のロッカーへ駆け込んだ。
「おかしいな… 貴重品はロッカーに入れて施錠してから扉のカギは開けっ放しにしておいたのに…」
「作かけの小春の矢が… 貼ったウイングを乾燥させていて誰にも触らせたくなかったんじゃないかな?」
ロッカーの換気穴から山崎先輩と渡辺先輩が話をしているのが見える。
「そう言えば、頼光に矢の作り方を教えてもらうって言っていたもんな。でも、何で兼定は頼光のことを邪険にするんだろう」
「まだ作っている途中みたいね。まあ、兼定さんのお家柄はご家老の末裔だからか気位がお高いからお素直じゃないんでしょ… そのまま放置してあの二人は一体どこに行ったのかしらね?」
そう言いながら渡辺先輩はドアに鍵をかけてから山崎先輩に身を寄せていった。
「お武家でなくても気位の高いお金持ちがここにもいるけどな。まあ、どこに行ったとしても俺たちには関係ないけどな」
山崎先輩はガラス窓に近づきカーテンをゆっくりと閉めた。
小春とハヤテの体のカラダは熱を帯びていったが、それは必ずしも狭いロッカーに二人して閉じ込められているだけが理由ではなかった。
話を続けようとする渡辺先輩のことを山崎先輩は黙って引き寄せて軽くハグした。ロッカーの中の二人の視線と注意力は先輩たちに全て注がれた。
沈黙が全てを支配していた。それから室内で見つめ合うふたり。ゆっくりを顔と顔が近づいていく… そして目を皿のようにしてかぶりつくロッカー内の二人。
ガチャガチャ!
トン! トン! トン!
ドアノブを回す音のあとにノックの音がした。