再会
文字数 2,283文字
ハヤテはクラスで図書委員になったので金曜日の放課後には図書館で本の貸し出しや返却を担当することになった。今回は様々な委員会活動の役員をクジ引きで決めたのでハヤテが図書委員になったが、ハヤテは本を読むようなタイプではなかった。
今まで本の貸し出しや返却の作業を自分でしたことがなかったため、役員の仕事の初回となる今日はハヤテも少なからず緊張していた。時間に余裕を持ってハヤテが受付カウンターへ向かうと、遠目から見てもう既に女子生徒が委員の席についていた。
「来るのが遅くなってすみません」
ハヤテはカウンターに入りながら先に席に座っていた女子生徒に声をかけた。
「まだ集合時間の前だから、遅くないで… エッ! エーッ!」
カウンターに並んでいる生徒たちが引くくらいの大きな声を上げながら、女子生徒はハヤテに見るからに長めの袖の手を向けて指さした。
「この前は助けていただいてありがとうございました! あれから
「あの時のお礼はいいから、とりあえず受付の手続きを教えてよ」
ハヤテはこの女子生徒から受付手続きの方法を教わりながら並んでいる生徒たちの要望を片付けていった。
「やっと一息つけたね… ん~ なんて呼べばいいかな?」
「人に名前をたずねる時は、まず自分のお名前を先に教えてくださいよ」
「俺は1年E組の頼光 ハヤテっていうんだ。キミの方はなんていうの?」
「私は看護科1年の秋月 夕霧です」
「看護科って言うと…」
「そう、看護師になるための課程なんです。看護師になるためには高校を卒業して更に2年間の専攻科に進むんですけどね」
「スゴイな… もう将来の職業のことまでも考えているんだ… 将来のことなんて俺にはまだまだ先のことだよ…」
「私だってそんなことないですよ! ただ私は人のお役に立てたらいいなと思って…」
頬を朱に染めた夕霧は照れながら長い袖の手を左右に振りつつハヤテにたずねた。
「頼光さん、それともハヤテさんとどちらで呼べばいいですか?」
“今まで同い年から下の名前で呼ばれたことないし…”
「じゃあ… 頼光にしてもらおうかな」
「じゃあ… ハヤテさんにさせてもらいます」
「エッ、どうして?!」
ハヤテは狼狽してたずね返した。
「私の方も恩人のハヤテさんに夕霧って読んで欲しいからです!」
「…じゃあ、ハヤテでいいよ」
「ハヤテでいいよ、の後はなんですって?」
夕霧の満面の笑みがハヤテに催促する。
「ハヤテでいいよ、夕霧さん」
照れて下を向いたまま返事をしたハヤテだった。
「ところでハヤテさん、もう部活は決めましたか?」
「ああ、もうアーチェリー部に入ったよ」
「アーチェリーって、あの弓矢のアーチェリーですか? カッコいいですね!」
「カッコいいか! 俺はアーチェリー部があるから皆南高校を選んだんだ」
誇るような様子のハヤテだったが、すぐにその表情が曇った。
「でも通っていた中学から一番遠い市内の公立高だから、同中のヤツは一人もいないんだ…」
「ハヤテさんには友達はまだ一人もいないんですね… 私も同じような感じなんですよね…」
しばらく考え込んでいた夕霧は意を決したようにハヤテに興奮気味に話しかけた。
「では、ぜひ私を一番目の友達にしてください!」
静粛だった図書館内に大きな声が響き渡り利用者全員の視線が一斉に発生源である夕霧とその隣りにいるハヤテに向けられた。
「わ、わかったから、もう声を小さくしてくれよ…」
ハヤテは夕霧へ懇願してから質問をした。
「夕霧さんは何かクラブに入ったの?」
「私は少しカラダが弱くって運動は止められているんで運動部はちょっと… それに」
「それに?」
「アタマも少し弱くって文化部の方も…」
ほぼ初対面の人の言葉にしては捨て身過ぎて唖然となったままハヤテは夕霧の顔を凝視した。
「渾身のボケなんですから、ソコはツッコんで頂かないと私やるせない…」
「ぜ、絶対そんなことないよ、夕霧! キミなら何でもできるに違いない、きっと…」
「取って付けた返事でも大変ありがたいです… 実は私としてはゲーム部に入ろうと思っているんです。私の前にも見学者があったらしいのですが、まだその人は入部していないとか」
「ゲーム部というか、ボード ゲーム部だよな」
ハヤテは不服そうに小さな声でひとり言をつぶやいた。
♪ ♪~ ♪ ♪~ ♪ ♪~
ちょうどその時、放課後の活動の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
「図書館の利用時間も終わりましたよ、ハヤテさん。サッサと片付けましょう!」
夕霧とハヤテは席から立ち上がり手分けして図書館内の片付けを終わらせ、司書の先生にあいさつをしてから図書館を出た。
「お疲れ様でしたハヤテさん! ハヤテさんは電車で帰るんでしたよね。私は自転車置き場へ行きますので、それでは失礼します」
「ア~、忘れていた~っ!」
突然ハヤテが大声を出したので夕霧は驚いた。
「いきなり大きな声を出したりして! どうしたんですかハヤテさん!」
「この前に夕霧さんに借りたハンカチのことをスッカリ忘れていた! 来週には絶対返すから、ごめんなさい!」
「そんなことなら大丈夫ですよ。むしろ私の方がご迷惑をおかけしたのだから、返していただかなくても構いませんし」
「お借りした物だから、そうはいきません! 絶対にお返しします」
「そうですか… 急がなくても私は全然大丈夫ですからね。さようならハヤテさん」
丁寧にお辞儀をして去って行く夕霧の姿が見えなくなるまでハヤテは頭を下げ続けた。
今まで本の貸し出しや返却の作業を自分でしたことがなかったため、役員の仕事の初回となる今日はハヤテも少なからず緊張していた。時間に余裕を持ってハヤテが受付カウンターへ向かうと、遠目から見てもう既に女子生徒が委員の席についていた。
「来るのが遅くなってすみません」
ハヤテはカウンターに入りながら先に席に座っていた女子生徒に声をかけた。
「まだ集合時間の前だから、遅くないで… エッ! エーッ!」
カウンターに並んでいる生徒たちが引くくらいの大きな声を上げながら、女子生徒はハヤテに見るからに長めの袖の手を向けて指さした。
「この前は助けていただいてありがとうございました! あれから
「あの時のお礼はいいから、とりあえず受付の手続きを教えてよ」
ハヤテはこの女子生徒から受付手続きの方法を教わりながら並んでいる生徒たちの要望を片付けていった。
「やっと一息つけたね… ん~ なんて呼べばいいかな?」
「人に名前をたずねる時は、まず自分のお名前を先に教えてくださいよ」
「俺は1年E組の頼光 ハヤテっていうんだ。キミの方はなんていうの?」
「私は看護科1年の秋月 夕霧です」
「看護科って言うと…」
「そう、看護師になるための課程なんです。看護師になるためには高校を卒業して更に2年間の専攻科に進むんですけどね」
「スゴイな… もう将来の職業のことまでも考えているんだ… 将来のことなんて俺にはまだまだ先のことだよ…」
「私だってそんなことないですよ! ただ私は人のお役に立てたらいいなと思って…」
頬を朱に染めた夕霧は照れながら長い袖の手を左右に振りつつハヤテにたずねた。
「頼光さん、それともハヤテさんとどちらで呼べばいいですか?」
“今まで同い年から下の名前で呼ばれたことないし…”
「じゃあ… 頼光にしてもらおうかな」
「じゃあ… ハヤテさんにさせてもらいます」
「エッ、どうして?!」
ハヤテは狼狽してたずね返した。
「私の方も恩人のハヤテさんに夕霧って読んで欲しいからです!」
「…じゃあ、ハヤテでいいよ」
「ハヤテでいいよ、の後はなんですって?」
夕霧の満面の笑みがハヤテに催促する。
「ハヤテでいいよ、夕霧さん」
照れて下を向いたまま返事をしたハヤテだった。
「ところでハヤテさん、もう部活は決めましたか?」
「ああ、もうアーチェリー部に入ったよ」
「アーチェリーって、あの弓矢のアーチェリーですか? カッコいいですね!」
「カッコいいか! 俺はアーチェリー部があるから皆南高校を選んだんだ」
誇るような様子のハヤテだったが、すぐにその表情が曇った。
「でも通っていた中学から一番遠い市内の公立高だから、同中のヤツは一人もいないんだ…」
「ハヤテさんには友達はまだ一人もいないんですね… 私も同じような感じなんですよね…」
しばらく考え込んでいた夕霧は意を決したようにハヤテに興奮気味に話しかけた。
「では、ぜひ私を一番目の友達にしてください!」
静粛だった図書館内に大きな声が響き渡り利用者全員の視線が一斉に発生源である夕霧とその隣りにいるハヤテに向けられた。
「わ、わかったから、もう声を小さくしてくれよ…」
ハヤテは夕霧へ懇願してから質問をした。
「夕霧さんは何かクラブに入ったの?」
「私は少しカラダが弱くって運動は止められているんで運動部はちょっと… それに」
「それに?」
「アタマも少し弱くって文化部の方も…」
ほぼ初対面の人の言葉にしては捨て身過ぎて唖然となったままハヤテは夕霧の顔を凝視した。
「渾身のボケなんですから、ソコはツッコんで頂かないと私やるせない…」
「ぜ、絶対そんなことないよ、夕霧! キミなら何でもできるに違いない、きっと…」
「取って付けた返事でも大変ありがたいです… 実は私としてはゲーム部に入ろうと思っているんです。私の前にも見学者があったらしいのですが、まだその人は入部していないとか」
「ゲーム部というか、ボード ゲーム部だよな」
ハヤテは不服そうに小さな声でひとり言をつぶやいた。
♪ ♪~ ♪ ♪~ ♪ ♪~
ちょうどその時、放課後の活動の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
「図書館の利用時間も終わりましたよ、ハヤテさん。サッサと片付けましょう!」
夕霧とハヤテは席から立ち上がり手分けして図書館内の片付けを終わらせ、司書の先生にあいさつをしてから図書館を出た。
「お疲れ様でしたハヤテさん! ハヤテさんは電車で帰るんでしたよね。私は自転車置き場へ行きますので、それでは失礼します」
「ア~、忘れていた~っ!」
突然ハヤテが大声を出したので夕霧は驚いた。
「いきなり大きな声を出したりして! どうしたんですかハヤテさん!」
「この前に夕霧さんに借りたハンカチのことをスッカリ忘れていた! 来週には絶対返すから、ごめんなさい!」
「そんなことなら大丈夫ですよ。むしろ私の方がご迷惑をおかけしたのだから、返していただかなくても構いませんし」
「お借りした物だから、そうはいきません! 絶対にお返しします」
「そうですか… 急がなくても私は全然大丈夫ですからね。さようならハヤテさん」
丁寧にお辞儀をして去って行く夕霧の姿が見えなくなるまでハヤテは頭を下げ続けた。