フルーツバスケット
文字数 2,085文字
6月中旬。気温が上昇する日もあるが梅雨もまだ完全には明けきらないなか、男子女子共に薄手の半袖の制服を着る時期になっていた。この頃、皆南高校では部活や委員会では3年生の追い出し会があちらこちらで行われる。
アーチェリー部では3年生の先輩で追い出し会に参加するのは一人だったので、借りた部活棟の集会場は1・2年生を含めても広すぎ、また3年生と在校生のあいさつも簡素だったので少々寂しいものであった。
図書委員会の追い出し会は図書館で行われた。その日は3年生が7人、2年生が4人、1年生が2人集まった。図書館は司書の先生が放課後は閉館にしてくれて貸し切り状態だった。
今年の1年生の委員は日頃から余り活動が積極的ではなく、追い出し会に参加をしたのはハヤテと夕霧の二人だけだった。今まで会ったことのない3年生がこんなに多人数参加しているのを見て、かつては多くの先輩たちが今とは違い情熱を持って図書委員会の活動をしていたことをハヤテは感じていた。
お茶やジュースと一緒にスナック菓子も紙皿に用意され、あいさつとともに歓談もにぎやかに行われた。それらに一段落がついたところでフルーツバスケットをすることになった。
フルーツバスケットとは一種のイス取りゲームである。まず全員が3種類のフルーツのどれかになる(リンゴ・イチゴ・バナナ)。そして例えばリンゴとイチゴが向かい合って両手を握りあって輪になり、その中にバナナが入る。そうするとリンゴとイチゴがバナナを閉じ込める状態のグループになる。
ここでオニがフルーツの名前(例えばリンゴ)を言う。言われたフルーツ(リンゴ)は自分のグループを出て別のグループに入らないといけない。オニは近くのグループに入るため、一番遅いリンゴは次のオニとなってしまう。つまり名前を呼ばれたフルーツの行き先がイス取りゲームのイスのようになる。
オニがフルーツバスケットと言った時は3種類のフルーツは全員入れ替わらなければいけない。自分以外の二人のフルーツの名を聞かないとならないから大混乱になってしまう。
この日も最初は初めての人もいるから練習もかねて穏やかにゲームは行われていった。だんだん慣れてくると、動きも激しくなり、声も大きくなってきてしだいにエキサイトしていったが、残すところ最後の一回となり佳境を迎えていた。
「最後の一回なので、この回にオニになった人には罰ゲームをしてもらいます!」
2年生の図書委員長が宣言した。
「では、オニの人… どうぞ!」
「じゃあ、みなさんいきますよ! よく聞いてください! フルーーさとじゃないですよ! リンゴ!」
周りのグループから一斉にリンゴの人が動き出した。
夕霧は動こうたしたが動き出せなかった。同じグループにいた上級生に腕をつかまれて動けなかったのだ。以前に夕霧にチョッカイをかけてきたので厳しく対処した男だった。
腕をつかむ手を振りほどこうと、夕霧は自分の手を強く振った。が、相手の手はつかんだままだ。夕霧が相手の顔をにらんだ。
「離してください!」
夕霧の怒りの表情に対してその相手はニヤついていた。その頃には夕霧と入れ替わる人以外のリンゴの人は全員他のグループに収まっていた。
“もう私が最後のオニになるんだ…”
夕霧の顔には諦めの色が浮かんで来た。
「最後のオニが決まりそうですね! まだ入れ替わっていないリンゴの人、早くしてください!」
図書委員長が参加者全員に聞こえるような声で話をした。
それを待っていたかのように夕霧の腕をつかんでいた力が緩んだ。
「時間がかかちゃってすみません… 今、かわります」
移動を始めようとする夕霧の横を同じグループにいたハヤテが通った。
「俺が次の、そして最後のオニです」
「ハヤテ君じゃない! 私でしょ!」
ハヤテは何も言わず夕霧を見てほほえんだ。
「コイツはリンゴじゃない! リンゴはこの女子だ!」
上級生の男子がハヤテのことを指さして申し立てをした。
「フルーツの名前を聞いたらすぐに手を離すのがマナーなのに、しばらく腕をつかみ続けたフェアじゃない人がいたようなんですが… リンゴの俺が言っているんだから間違いないと思います。うちのグループのもう一人の人にも聞いてみましょうか」
勢いよく申し立てをしたはずの上級生は黙り込んだ。
「それでは、罰ゲームを行いたいと思います。罰ゲームは3年生へのメッセージをお尻で文字を書いてもらい、みんなにあててもらうゲームです。では最後のオニの人、どうぞ!」
「私にも一緒にやらせてください! 飛び入り参加OKですよね!」
夕霧がみずから志願したところ、周囲から歓声が起こった。ハヤテと夕霧は時間を少しもらい打ち合わせと確認をした。
「それでは、お二人ともどうぞ」
二人は後ろ向きになって、同じタイミングで大げさに尻を一緒になって動かして尻文字を書いた。何と書いたかは結局わからなかったが、滑稽な仕草と動作はかなりウケた。
一部の参加者が注意深く読んだところでは、どうやら『なめんなよ』と書いていたらしいと伝わっている。
アーチェリー部では3年生の先輩で追い出し会に参加するのは一人だったので、借りた部活棟の集会場は1・2年生を含めても広すぎ、また3年生と在校生のあいさつも簡素だったので少々寂しいものであった。
図書委員会の追い出し会は図書館で行われた。その日は3年生が7人、2年生が4人、1年生が2人集まった。図書館は司書の先生が放課後は閉館にしてくれて貸し切り状態だった。
今年の1年生の委員は日頃から余り活動が積極的ではなく、追い出し会に参加をしたのはハヤテと夕霧の二人だけだった。今まで会ったことのない3年生がこんなに多人数参加しているのを見て、かつては多くの先輩たちが今とは違い情熱を持って図書委員会の活動をしていたことをハヤテは感じていた。
お茶やジュースと一緒にスナック菓子も紙皿に用意され、あいさつとともに歓談もにぎやかに行われた。それらに一段落がついたところでフルーツバスケットをすることになった。
フルーツバスケットとは一種のイス取りゲームである。まず全員が3種類のフルーツのどれかになる(リンゴ・イチゴ・バナナ)。そして例えばリンゴとイチゴが向かい合って両手を握りあって輪になり、その中にバナナが入る。そうするとリンゴとイチゴがバナナを閉じ込める状態のグループになる。
ここでオニがフルーツの名前(例えばリンゴ)を言う。言われたフルーツ(リンゴ)は自分のグループを出て別のグループに入らないといけない。オニは近くのグループに入るため、一番遅いリンゴは次のオニとなってしまう。つまり名前を呼ばれたフルーツの行き先がイス取りゲームのイスのようになる。
オニがフルーツバスケットと言った時は3種類のフルーツは全員入れ替わらなければいけない。自分以外の二人のフルーツの名を聞かないとならないから大混乱になってしまう。
この日も最初は初めての人もいるから練習もかねて穏やかにゲームは行われていった。だんだん慣れてくると、動きも激しくなり、声も大きくなってきてしだいにエキサイトしていったが、残すところ最後の一回となり佳境を迎えていた。
「最後の一回なので、この回にオニになった人には罰ゲームをしてもらいます!」
2年生の図書委員長が宣言した。
「では、オニの人… どうぞ!」
「じゃあ、みなさんいきますよ! よく聞いてください! フルーーさとじゃないですよ! リンゴ!」
周りのグループから一斉にリンゴの人が動き出した。
夕霧は動こうたしたが動き出せなかった。同じグループにいた上級生に腕をつかまれて動けなかったのだ。以前に夕霧にチョッカイをかけてきたので厳しく対処した男だった。
腕をつかむ手を振りほどこうと、夕霧は自分の手を強く振った。が、相手の手はつかんだままだ。夕霧が相手の顔をにらんだ。
「離してください!」
夕霧の怒りの表情に対してその相手はニヤついていた。その頃には夕霧と入れ替わる人以外のリンゴの人は全員他のグループに収まっていた。
“もう私が最後のオニになるんだ…”
夕霧の顔には諦めの色が浮かんで来た。
「最後のオニが決まりそうですね! まだ入れ替わっていないリンゴの人、早くしてください!」
図書委員長が参加者全員に聞こえるような声で話をした。
それを待っていたかのように夕霧の腕をつかんでいた力が緩んだ。
「時間がかかちゃってすみません… 今、かわります」
移動を始めようとする夕霧の横を同じグループにいたハヤテが通った。
「俺が次の、そして最後のオニです」
「ハヤテ君じゃない! 私でしょ!」
ハヤテは何も言わず夕霧を見てほほえんだ。
「コイツはリンゴじゃない! リンゴはこの女子だ!」
上級生の男子がハヤテのことを指さして申し立てをした。
「フルーツの名前を聞いたらすぐに手を離すのがマナーなのに、しばらく腕をつかみ続けたフェアじゃない人がいたようなんですが… リンゴの俺が言っているんだから間違いないと思います。うちのグループのもう一人の人にも聞いてみましょうか」
勢いよく申し立てをしたはずの上級生は黙り込んだ。
「それでは、罰ゲームを行いたいと思います。罰ゲームは3年生へのメッセージをお尻で文字を書いてもらい、みんなにあててもらうゲームです。では最後のオニの人、どうぞ!」
「私にも一緒にやらせてください! 飛び入り参加OKですよね!」
夕霧がみずから志願したところ、周囲から歓声が起こった。ハヤテと夕霧は時間を少しもらい打ち合わせと確認をした。
「それでは、お二人ともどうぞ」
二人は後ろ向きになって、同じタイミングで大げさに尻を一緒になって動かして尻文字を書いた。何と書いたかは結局わからなかったが、滑稽な仕草と動作はかなりウケた。
一部の参加者が注意深く読んだところでは、どうやら『なめんなよ』と書いていたらしいと伝わっている。