第3話

文字数 1,705文字

一月三〇日
 入院して三日目、とにかく時間がある……というと聞こえがいいが、要は暇なのである。

 しかし、日中はメモを残そうという気力が起きない。とにかくベッドに潜って、ウトウトしながら暇を潰している。たまに起き上がり、新聞を読んでみたり、テレビを見てみたりするのだが、いまいち合わずに直ぐに部屋のベッドに戻ってしまう。そして、何もせず数時間を過ごす。看護師からは
「そうやって、ゆっくり過ごしていくことが治療に繋がっていくんですよ。焦らずゆっくり休んでください」
 とカーボンコピーのように言われる。

 その言葉を信じていきたい一方で、懐疑的になっている自分もいる。ゆっくりするには余りにも時間がありすぎる。そして、それが苦痛と言ってもいいくらいに思われるのである。

 そういえば、携帯電話の使用は今日ようやく解禁になった。入院初日からナースステーションに預けられていたものだ。無気力になっているせいか、すっかり忘れてしまっていた。明日はメールチェックしてみようと思う。とはいえ、頻繁にやりとりしている友人もいないし、家族は携帯を使えないことが分かっているから、メールをよこすことはないだろう。来るとしたら、ダイレクトメールばかりになりそうだ。

 入院して三日目になるのに、なかなか主治医の診察が行われない。看護師に
「主治医に早く会いたいんですけど」
 と尋ねてみると
「ちょっと、聞いてみますね。ただあの先生は忙しい方だから、捕まえるのは難しいかなぁ」
 と言い、院内PHSで連絡を取ってくれた。

 しばらく待つことになった。この時間が煩わしく、何をすればいいのか分からなかった。食堂には給茶機があり、喉も渇いていないのにお茶を飲むことにした。時間はたっぷりあるので、ゆっくり味わって飲んでみる。粉末を溶いたものなので、茶柱が立つ訳でもなく、何とも味気ない。

 そうしているうちに、先程の看護師から呼び出された。
「すみません、今日はどうしても診察できないということでした。明日には診察入れるようにしますって言ってましたよ」
 そう看護師が言うと、
「分かりました。気長に待つことにします」
 と一言だけ残して、病室に戻ることにした。とにかく明日を待とう。そして、外出を許可してもらおう。

 最後に自分が思っていることを書き残したい。自分に生きるだけの価値があるとは思えないが、生きる権利があるとしたら、自由に生きてみたい。今の病院みたいに、風呂も食事も何もかもが思う通りにならないようでは、息が詰まりそうだ。このままではただの籠の鳥である。早くメンタルを直して、退院したい。


一月三一日
 やられた。

 長いこと待っていたが、とうとう診察が行われることはなかった。どうなっているんだ。病院への不信感だけが募る。今日はこの経緯だけ書いて、早々と不貞寝してしまおう。

 早く診察を受けたくて、朝から食堂で待っていた。食堂にはテレビが置いてあり、新聞も用意されている。暇つぶしにはもってこいだ。

 そうだとはいえ、新聞を隅から隅まで読んでも、一時間とはかからない。このところ、自ら情報を遮断していたところがあったので、世の流れの速さについていけなくなりそうだ。記事を見ていると子どもの虐待や政治の失策に紙面の多くが割かれている。テレビも同様だ。同じようなニュースに飛びつき、飽きられれば次のターゲットを見つけて吊るし上げのようにしていく。いいか悪いかは別にして、薄気味悪く感じた。

 話が脱線してしまった。時間を潰していくのに、新聞だけでは足らず、テレビを見始めた。ワイドショーは横並びで同じことを繰り返しているし、生活情報にもリアリティを感じられない。我慢して夕方まで見たが、ただ目が疲れるだけに終わった。

 ついでに、頭まで痛くなってきた。だんだんとイライラしてきて、痺れを切らした僕は看護師に
「主治医と連絡を取ってほしい」
 と吐き捨てるように言った。看護師も主治医と連絡を取ったものの、結局、
「今日は診察できないみたい」
 との回答をもらっただけだった。

 気分悪く夕飯を食べてから、すぐにメモを書いている。恨みつらみを書き殴ったところで、さあ、不貞寝だ。
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