第22話(1)恰好が珍妙な会議

文字数 2,781文字

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「TPOグラッスィーズの搭乗者、銀一郎と金花子の個人情報を確認したところ……巧妙に改竄されたものであることが判明しました」

 ある作戦室で土友が報告する。小金谷が腕を組む。

「成りすましか……ひょっとして会社ぐるみの工作か?」

「いえ、越前ガラス工房の本社や関係各所にも立ち入り捜査を行いましたが、関与は認められませんでした。あの二名が会社に潜入し、立場を利用した……と考えるのが自然でしょう」

百鬼夜行(ひゃっきやこう)については?」

「戦闘データを確認したところ、コックピットと思われる場所から生体反応を確認。照合してみたところ、鬼武小四郎(おにたけこしろう)氏のものと一致しました」

 土友が情報端末を操作し、大きなモニターに情報を表示させる。長めの前髪で右目を隠した気弱そうな青年の顔が大きく映る。幸村が顔をしかめる。

「鬼武殿……」

「ということはあの奇妙な機体、元は百鬼夜行だと考えて良いのだな?」

「ええ、どういう経緯があったのかは不明ですが、あのような形に変化したと思われます」

 小金谷の問いに対し、土友が頷く。殿水が幸村に尋ねる。

「計画とかなんとか言っていたんでしょう?」

「ああ、そげなことを言っていた、我々の計画にもっとも適した機体だったとか……」

「……ということは、百鬼夜行は巻き込まれたってことかしらね?」

「誰にだ?」

「この怪しい眼鏡二人組によ」

 殿水はモニターに表示された銀と金の顔を指差す。

「ふむ……この二人が何者なのかが分からんと、その計画というのも分からんな」

 小金谷が首を傾げる。

「……なんとなくの見当はつくんじゃないの?」

 火東が呟く。小金谷が尋ねる。

「見当とは?」

「ロボチャン西日本大会会場から、何組かのロボットとそのパイロットたちが行方不明になっているんでしょう?」

 火東が土友に視線を向ける。土友は眼鏡の蔓を触りながら口を開く。

「続いて話そうと思っていたのだが……今火東が言ったように、大会出場者が何名か行方不明になっている。目撃者の証言によると、ロボットの方は足元に大きな黒い穴が開き、それに吸い込まれていったと……恐らくだが、パイロットの方も同様に消えたと思われる」

「誘拐されたということか?」

「概ねそういう認識で間違いないかと」

 小金谷の問いに土友は頷く。小金谷が火東に向き直る。

「それで? 話は戻るが、見当とは?」

「……優れた機体と搭乗者を手中に納め、手駒にすること……」

「目的は?」

「流石にそこまでは……戦力を拡充したいんじゃないかしら」

 小金谷からの立て続けの質問に火東は肩を竦める。

「……こちらが行方不明者のリストになります」

 土友がモニターにリストを表示させる。小金谷が顎に手を当てる。

「ふむ……こうしてみると錚々たる顔ぶれだな」

「しかし、なんでまたこのメンバーなのかしらね?」

「……何らかの共通点があるんじゃないかな~」

「義一さん、また適当に物言って……ってか、一応会議中なんだから飲食は我慢しなさいよ」

 殿水がハンバーガーをもぐもぐと食べながら発言する木片を嗜める。火東が笑う。

「義一さんの場合、ちゃんと起きているだけ偉いわよ」

「そうそう……ゲップ」

「あ~もう、コーラの飲み過ぎよ……」

 殿水が顔をしかめる。小金谷が口を開く。

「……案外、木片の言っていることも間違いではないかもしれんな」

「ええ? リーダー、マジで言っている?」

「ああ、マジだ」

「その根拠は?」

「これは火東の仮説を踏まえてになるが……単純に戦力拡充が狙いならば、ロボチャン西日本大会参加者を片っ端から攫えば良いだけの話なのにそれを行わなかった……というか行えなかったのではないか?」

「行えなかった?」

「例えば……何らかの条件を満たしていなかったとかな」

 殿水の問いに小金谷は自身の考えを述べる。殿水は小声で呟く。

「たま~に鋭いことを言うわね……」

「なんか言ったか?」

「いいえ、なにも」

「……となると、決勝戦でTPOグラッスィーズの二機が発したあの黒い光も何らかの意味がありそうだな……土友!」

「決勝戦のデータは現在解析中です」

「流石だな」

 即答する土友に小金谷が満足そうに頷く。火東が呟く。

「ってか、TPOグラッスィーズっていちいち言うの面倒臭いわね」

「それもそうだな……よし、この機体の眼鏡のような形状のパーツのカラーを取って、それぞれ『TPOシルバー』、『TPOゴールド』と呼称することにする!」

「了解……銀って男が乗っているのがシルバーで、金って女が乗っているのがゴールドね」

 殿水がデータを確認しながら頷く。火東が声を上げて笑う。

「なかなか分かりやすくて良いわね」

「二機のデータスペックに関しては各自で目を通しておいてくれ……ざっと確認したところ、特に注意を要する装備などは無さそうだが……」

 土友が呼び掛ける。殿水が顎に手をやって呟く。

「決勝の戦いぶりを見るに、スペックの不足を高い技量で補っているという印象ね」

「これは勘だけど……何か隠し玉を持っているかもよ」

「義一さんの勘って結構当たるから嫌なのよ」

 火東が苦笑する。

「変化した百鬼夜行同様、得体の知れない相手だ。木片の言っていることもあながち外れではないかもしれん。警戒するに越したことはない」

「了解……」

「……はあ~あの勇名高き『ザ・トルーパーズ』の作戦会議を間近で見られるとは……特に木片さんが積極的に参加しているのはドキュメンタリー映像でも見られなかった極めてレアな様子です……」

 いつきが恍惚とした表情で呟く。傍らに立つ修羅が首を傾げる。

「山田ちゃん、全然間近じゃないさ~もっと近くに行ったら?」

「と、とんでもない! 近くに行ったらあの眩いオーラに吸い込まれてしまいます!」

 部屋の片隅に立ついつきが首を左右に激しく振る。

「眩いオーラねえ……まあ、確かに歴戦の強者たちって感じはするね。恰好は珍妙だけど」

「! な、なんてこと言うんですか! 大星さん!」

「だって、あの肩パッド、必要以上に尖り過ぎだし、赤、青、黄、緑、桃の五色が混ざったカラーの戦闘服はいくらなんでも派手過ぎない?」

 修羅はトルーパーズを指差して苦笑交じりに呟く。いつきが慌てて諌める。

「指を差さない! あれはFtoVを動かす為に必要な専用スーツなんですよ!」

「ふ~ん、シーサーウシュはああいう恥ずかしいものが無くて良かったさ~」

「恥ずかしいとか言わない! お願いですから口を慎んで下さい!」

「ごめん、ごめん、ちょっと言い過ぎたよ……しかし、この艦にも驚いたさ~」

「扇状の出島がそのまま戦艦ですからね……しかも色がオレンジ一色……」

 そう、彼らは現在、ビバ!オレンジ号に乗って移動中である。そこに警報が鳴り響く。

「! わずかな痕跡を辿ってみるものだな、各員、戦闘準備!」

 小金谷が叫び、各員が作戦室を飛び出す。
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