第11話(4)VS巨大双頭犬

文字数 2,700文字

「と、とにかくだ、大洋。その機体のデータスペックを送ってくれるか?」

「分かった……送信したぞ」

「よし、パッローナ語に変換完了……確認を頼む」

 ナーが画面を覗き込み、呟く。

「これはどうしてなかなか……ええもん持っているで……」

「そうか」

「ああ、見事な6LDKやで……」

「LDK? コックピットの広さのことか?」

「肩なんかこれ、小っちゃい馬車乗せてんのかいって話やで……」

「肩部の大きさか? まあ、乗らないことはないと思うが……」

「大胸筋も歩いているでこれ……」

「……ちょっと待て、何の話をしている」

 ナーがモニター越しに大洋に向かって叫ぶ。

「ナイスバルク! 兄ちゃん、切れてるで!」

「誰が筋肉の寸評を頼んだ!」

「そこまでの肉体を作り上げるまで、眠れない夜もあったやろう⁉」

 大洋が鼻の頭を擦る。

「分かるか?」

「分かるで!」

「分かりあうな!」

 美馬が大声で叫ぶ。

「なんやねんな、そんな大声出して……」

「……機体のスペックを分析し、最適解の戦術考案を頼んでいる」

「分かっとるがな……」

 ナーはしばらく考え込んで、答えを出す。

「……分かった。大洋も良いな?」

「了解した」

「では行くぞ!」

 美馬の掛け声と同時に大洋がFS改のチェーンライフルを発射する。狙いは正確で、双頭犬の頭部に命中したかと思われた。だが、双頭犬は結界を生じさせ、それを防ぐ。

「! バリアか!」

「こっちだ!」

 双頭犬にテネブライを接近させた美馬は機体頭部からバルカンを発射する。大洋とは逆方向、別の頭部を狙った射撃である。今度はバリアを張ることが出来ず、射撃を喰らった双頭犬は呻く。

「当たったぞ!」

「よっしゃ! 予想通りや!」

「大洋! 交互に休みなく撃ち続けるぞ!」

「ああ!」

 美馬の読み通り、結界を一方向にしか張ることの出来ない双頭犬は、テネブライとFS改からタイミング良く、規則正しく繰り出される連続射撃に対して、成す術なく、やがて力なくうなだれる。大洋が叫ぶ。

「美馬! 今だ!」

「分かっている!」

 美馬はテネブライを急加速させ、双頭犬との間合いを一気に詰め、サーベルを大きく振りかざし、叫ぶ。

「エレメンタルスラッシュ!」

 強烈な斬撃を喰らった双頭犬の体は真っ二つに分かれる。テネブライがサーベルを鞘に納めると、その背後で双頭犬は崩れ落ちる。

「やった!」

「やれやれ、どうなることかと思ったで……」

「ふっ……」

 ナーの言葉に美馬が微笑を浮かべる。

「オロカナ……」

「⁉」

「今の声は⁉」

「ヨミガエリ!」

 再び女の声が聴こえてきたかと思うと、倒れ込んでいた双頭犬の遺骸がもぞもぞと動き出す。ナーが嘆く。

「おいおい、冗談きついで……」

 二つに分かれていた双頭犬は各々ゆっくりと体を起こす。そして、それぞれ頭と胴体と手足を生やしたのである。

「二頭に増えた⁉」

「倍々ゲームかい! そんなんアリか!」

「大洋!」

「! ああ!」

 美馬の声に大洋が反応し、それぞれ近くの双頭犬に射撃を加える。しかし、どちらも結界を張り、その攻撃を防ぐ。ナーが天を仰ぐ。

「カァー! 今度はどっちもバリア持ちかい! これじゃ振り出しどころかマイナスからのスタートやで!」

「くっ……」

「大洋、待たせたな!」

「隼子か!」

 大洋が上空を見ると、そこには電光石火の姿があった。閃の声が聴こえてくる。

「早くこっちに移って~三人分の仕事を二人でこなすのは結構しんどいんだよ~」

「分かった!」

 着陸した電光石火に機体を近づかせた大洋はコックピットに飛び込む。ナーが呟く。

「こないだ見たのとは違うカラーリングやな?」

「形態を変化することが出来るんだろう」

「ほお~そういう機体か」

「早速データスペックが送られてきたな……どう思う?」

 美馬の言葉を受け、ナーが画面を覗き込む。

「これは……どエライ性能やな」

「ちょうど二対二だ。とりあえず一頭は大洋たちに任せるか?」

「いや、それよりもや……」

 ナーの提案に美馬は頷く。

「分かった、それで行こう……おい! 大洋!」

「なんだ⁉」

「白衣の女はいるか?」

「白衣の女じゃなくて、桜花・L・閃って名前があるよ……」

 閃がムッとした顔でモニターに顔を出す。

「それは済まない、ライトニング」

「ミ、ミドルネームで呼ばれるのはなんか新鮮だね……」

「頼みがある……」

 美馬がナーの考えを伝える。閃が驚く。

「そ、それは……」

「可能か?」

「出来るけど、何の為に?」

「説明はやってみてからだ!」

「了解! ジュンジュン、機体をテネブライに近接させて!」

「わ、分かった!」

 隼子は電光石火をテネブライの近くへ移動させる。大洋が問う。

「閃、どうするつもりだ?」

「バックパックにコードを接続!」

「な、なんやて⁉」

「こっちのエネルギーを送りこむ!」

 ナーがモニターを確認し、頷く。

「よし、十分なエナジーや!」

「よし! 喰らえ! エレメンタルバースト!」

 テネブライがサーベルを大きく振りかざし、勢いよく振り下ろす。強烈かつ大きな衝撃波が放たれて双頭犬に向かって飛んで行く。それを喰らった双頭犬は二頭とも跡形も無く消え去る。大洋が感嘆の声を上げる。

「な、なんて威力だ……バリアごと吹き飛ばした……」

「どうや! これがテネブライの力や!」

 ナーが誇らしげに言いながら、上着を脱ぎ、ポーズを取る。

「ナイスバルク! 仕上がっているよ!」

 大洋がモニター越しに声援を送る。隼子が呆れる。

「いつのまに友情育んでねん……」

「マッチョは種族や世界の壁だって軽々と越える……素晴らしいことだね~」

「マッチョは放っておいて……ライトニング、そして……」

「飛燕隼子や」

「そうか、隼子。二人に頼みがある。テネブライはエネルギー切れでしばらく動けん」

「うん?」

 数分後、戦闘地域からやや離れた地点で機体から降りた閃と隼子は周囲を見回す。閃が端末を片手に美馬に問う。

「この辺りから女の声がしたの~?」

「ああ、これは只の俺の勘だが……その女があの双頭犬を操っているように感じた」

「そういう勘は得てして当たるもんだよ」

「けど、それらしい姿は見えへんで」

 隼子が閃の手元の端末に話しかける。

「そうか……いや、俺の幻聴だったかもしれん」

「大洋たちも聞いたのならそれはないんじゃないかな」

「集団幻聴って可能性は?」

「それも無いと思うな~」

 隼子の言葉に首を振る閃。

「いや~しかし、とんだ社員旅行になったな~」

「? これは……?」

「ん? どないしたんや、オーセン?」

 機体に戻ろうとした隼子は地面にしゃがみ込む閃に声を掛ける。

「ごめんごめん、何でもないよ」

「さよか」

「まさか……ね」

 閃は拾ったものを白衣のポケットにしまい込んだ。
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