第22話(3)FtoVの大無双

文字数 4,161文字

「なっ⁉」

「こ、これはどういうことや⁉」

 閃と隼子が戸惑う。

「……ちょいと厄介な合体機能を解かしてもらいましたわ」

「⁉」

 隼子たちはモニターに藍色の狩衣に紫の袴を身に付け、頭には烏帽子を被った、整った顔立ちの青年を確認する。山中に生身で立つ青年は涼やかでよく通る声で話を続ける。

「ちなみにしばらく……そうやな~数日は合体出来ないんで、悪しからず……」

「な、なんやと⁉」

「落ち着け、隼子! 閃、どうだ?」

「……駄目だ、何らかの方法で合体機能が無効化させられてしまっている……」

 大洋の問いに閃が信じられないと言った様子で答える。大洋が叫ぶ。

「あの場違いな神主の仕業か⁉」

「神主さんとちゃいます、僕は陰陽師です」

「陰陽師だと?」

「そう、なんちゅうかな……説得力を持たせる為にこういう恰好をしています」

 青年は狩衣を広げながら笑う。

「……とにかく、貴様の仕業だということだな?」

 小金谷が低い声で尋ねる。青年はおどけた様子で答える。

「ええ、僕の仕業で間違いありまへん」

「何故、俺たちは中途半端な分離なんだ?」

 上半身と下半身に分かれた状態のFtoVの上半身から小金谷は重ねて尋ねる。

「なんでやろうなあ……やっぱり歴戦の猛者であるザ・トルーパーズの皆さんには、僕の術も一部しか通じなかったってことでっしゃろか?」

「俺たちのことは知っているか……貴様は誰だ?」

「これは失礼しました。僕は志渡布雨暗(しどふうあん)いいます、今後ともよろしゅう……まあ、その今後がないと思いますけど」

 志渡布と名乗った青年はカラカラと笑うと、幽冥らがFtoVらに攻撃を仕掛ける。

「ぐっ⁉」

 大洋らがなんとか攻撃を躱す。FtoVが上半身と下半身に分かれても、攻撃を躱してみせたことに対し敵味方問わず驚く。志渡布が右手に持っていた笏をピタリと額に当てて感嘆の声を上げる。

「こら見事や! そないな状態で攻撃を躱しはるとは!」

「舐めるなよ……」

「ん?」

「俺たちは長年に渡って、日本防衛に当たってきたんだ! 潜ってきた修羅場の数が圧倒的に違うんだよ!」

「あんまり長年とか言わないで、私までベテランだと思われるから」

 小金谷の叫びに対し、殿水がボソッと呟く。

「と、とにかく、これくらいでどうにかなるほどヤワな鍛え方していねえんだよ!」

「威勢の良さは結構! ではこの攻撃は躱せますか⁉ 風神雷神!」

「!」

 風神が凄まじい竜巻を起こす。志渡布が笑う。

「風神が起こした竜巻で宙に吹き飛ばされ、身動きの取れんところを雷神が『落雷』を叩き込む! このコンボは分かっていても躱されへん! ……何⁉」

「ぐぬぬ……!」

 FtoVの上半身が両手で地面を掴み、竜巻に飛ばされまいと耐えている。

「そ、そんなアホな!」

「竜巻が止んだ!」

「ピンチの後にチャンス有り!」

「そういうことだ!」

 土友と木片の叫びに小金谷が応え、上半身が右腕を支点にして、素早く回転し、その場から飛び立ち、風神雷神との距離を一瞬で詰める。

「喰らえ! 『ゲンコツラリアット』!」

「「!」」

 上半身の両の拳を喰らい、風神雷神は吹っ飛ばされる。小金谷が叫ぶ。

「どうだ! むっ⁉」

 ガッツポーズを取った上半身の右腕に鞭が巻き付けられる。エテルネル・インフィニ一号機が振るった鞭だ。機体のサイズ差はあるものの、それをものともせず、一号機は巧みに鞭を操る。上半身の動きが鈍くなる。志渡布が笑う。

「流石は数多の戦場で活躍した『極悪お姉さん』! 一号機が鞭で自由を奪ったところを二号機が接近し、鋭いクローで切り裂く! このコンビネーションには敵わへんやろ!」

「コンビネーションなら負けないわよ!」

「どわぁっ⁉」

「なっ⁉」

 志渡布がまたも驚く。FtoVの下半身がその右脚で自身の上半身を思いっ切り蹴り飛ばしたからである。上半身は左腕でラリアットを二号機に喰らわせる。予期せぬ攻撃を受けた二号機は派手に吹っ飛ぶ。鞭を持っていた一号機は引き摺られ、倒れ込んでいる所を下半身が右脚で踏み付ける。右脚部のパイロット、殿水が声を上げる。

「よっし! 二丁上がり!」

「お、おい、殿水!」

 小金谷が怒鳴る。殿水がとぼける。

「え?」

「え?じゃない! 何がコンビネーションなら負けないわよだ! 味方を思いっ切り蹴っ飛ばす奴がいるか!」

「鞭で縛られていた為、やむを得ない処置です」

「も、もっと、他にやりようがあるだろう!」

「しかし、結果的に相手の虚を突くことが出来た……」

 土友が呟く。殿水が笑う。

「そうでしょう? 今後は有効なコンビネーションに組み込んでみても良いんじゃない?」

「検討しておこう」

「検討せんでいい!」

「ぐっ……『播磨の黒い星』、幽冥! やってしまえ!」

「!」

 幽冥の周りに木目色の大きな板状のものが八枚浮かび、光が次々と放たれ、FtoVにことごとく命中する。木片が戸惑う。

「な、なんだ⁉」

「あの板からレーザー光を発射しているのよ!」

 火東が冷静に戦況を判断する。小金谷が叫ぶ。

「こちらもやり返すぞ! 木片! 火東!」

「「了解!」」

 上半身の左腕と下半身の左脚それぞれ地面を抉り、土塊を幽冥に向かって飛ばす。

「……!」

「何⁉」

 板状のものが幽冥をとり囲み、バリアを発生させ、攻撃を跳ね返す。土友が呟く。

「バリアを発生させたのか……? なんだあの板は?」

「ただの板とちゃうで、あれは幽冥しか使えん電磁護符っちゅうもんや」

 志渡布が得意気に胸を張る。土友が考えを巡らす。

「電磁護符か……ふむ……」

「どうだ、土友?」

「完璧なバリアというのはまずあり得ません。見たところ、あの電磁護符というのは操縦者のコンディションも影響するタイプの兵器のようです。しかも現在はMAXというわけではなさそうですし、やりようはあります、例えば……」

「……ふふっ、それは面白そうだな」

 土友の考えを聞いた小金谷は笑みを浮かべる。殿水は顔をしかめる。

「なんだか、嫌な予感がするんだけど……」

「行くぞ、下半身コンビ! 俺たちのコンビネーションを見せてやるんだ!」

「「んなっ⁉」」

 上半身が下半身を掴み、幽冥に向かって投げつける。土友が淡々と呟く。

「理論上、下半身のエネルギーを一点に集中させれば、あのバリアを破れるはず……」

「聞いたか、お前ら! 足を揃えて、足先にエネルギーを集中させろ!」

「お、覚えてなさいよ! クソリーダー!」

「成功の暁にはギャラアップよ!」

 殿水と火東が叫びながら、ドロップキックの体勢で、幽冥に突っ込む。

「⁉」

 電磁護符のバリアは破れ、下半身のキックが炸裂し、幽冥は吹っ飛ぶ。

「ま、まさか……いや、唖然としている場合やあらへんな……」

 志渡布が何やら唱えると、倒れていた幽冥ら五機が地面に開いた黒い穴に吸い込まれ、その姿を消す。小金谷が堂々と語る。

「見たか、そこらのヒヨっことは鍛え方が違うんだ」

「ちっ……」

「おい、これはどういうことだ、志渡布?」

 志渡布の背後に立つTPOシルバーから銀の声がする。志渡布は悪びれもせず答える。

「……各々の秘めたポテンシャルを引き出すにはもうちょい時が必要っちゅうこっとす」

「ふん、もういい、俺たちがやる!」

「!」

 TPOシルバーとゴールドが飛び立ち、FtoVに襲い掛かる。TPOの二機は眼鏡状のパーツをずらし、バイザーから黒い光線をFtoVに照射する。

「どうだ!」

「……それがどうした!」

 FtoVの上半身が岩を投げつける。TPOの二機がそれを躱して着地する。

「効果なしか……」

「何なのよ、あの怪しい光線は……西日本大会の決勝でもやっていたけど」

「遅ればせながらたった今、決勝の解析データが出た」

 火東の呟きに土友が反応する。木片が苦笑する。

「す、凄いタイミング……」

「あの黒い光線は相手の運気を下げ、なおかつ精神的に取り込む効果があるようだ……にわかには信じがたいことだが」

「いや、確か、あいつらとロボチャンで対戦した相手はほとんど武器の暴発などで敗退したのよね? 運気を下げるってのはおかしい話ではないわ、大分オカルトじみているけど」

 殿水が冷静に考えを述べる。火東が問う。

「精神的に取り込むってのは?」

「その者の持つ、心の悪しき部分につけ込んで籠絡する効果があるってことじゃないの? 知らないけど」

「そんな馬鹿な~それってもはやオカルト通り越してスピリチュアルじゃない~」

「それもそうよね~」

 殿水と火東が笑い合う。銀が口を開く。

「さ、さすがはザ・トルーパーズ……まさかそこまでお見通しとはな……」

「「当たってた⁉」」

 殿水と火東が揃って驚きの声を上げる。小金谷が叫ぶ。

「俺たちは正義と平和の使者、ザ・トルーパーズだ! そのような小細工は通用せん!」

「ならば、百鬼夜行!」

「!」

 銀の呼びかけに応じ、百鬼夜行が右腕をかざすと、黒い物体が多数出現する。

「数でまたこちらが勝っている! 何⁉」

「うおおおっ!」

 三機に分かれた電と光と石火がすぐさま、各個撃破する。ヂィーユエとファンの的確な援護もあり、黒い物体たちがあっという間に霧消していく。小金谷が笑う。

「こちらのヒヨっこどもはなかなか頼りになるな……」

「まだだ! 百鬼夜行、『機妖(きよう)』を呼び寄せ続けろ!」

「! ⁉」

 右腕をかざそうとした百鬼夜行の動きが止まる。銀が驚く。

「な、なんだ⁉」

「ほう! カナメよ! このステッキ、げに魔法が使えるんじゃのう! 『止まれ』と念じたら、あのデカブツの動きを止められたわ!」

「だから最初から言っているじゃん、日下部! もっと有効的に活用してよ!」

 そこには百鬼夜行に向かってステッキをかざす仁尽の姿があった。銀が舌打ちする。

「ならばやはり俺たちが! ぐっ⁉」

「そうはさせねえよ!」

 玲央奈が駆るストロングライオンたちがTPO二機に激しく喰らい付く。

「おのれ! うっとうしい!」

 奇異兵隊をなんとか振り払い、TPOがやや後退する。小金谷が再び笑う。

「さあ、形勢は逆転だ! どうする……⁉」

 激しく地面が揺れる。近くの山が崩れ、巨体が屹立する。土友が呆然と呟く。

「こ、これはまさか……この近くにある大型の前方後円墳⁉」

「ギリギリ間に合うたわ、この『大富岳(だいふがく)』でまたまた形勢逆転や!」

 そびえ立つ巨体に乗った志渡布がFtoVらを見下ろして叫ぶ。
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