プロローグ 空から降る一丁の褌

文字数 1,064文字

 ある春の日の朝、九州、長崎県の佐世保市郊外にある『(有)二辺(ふたなべ)工業』の正門を一人の女性が文句をブツブツと言いながら開けた。
「何が掃除は皆でやるから素晴らしいや……朝の掃除、最近ほとんどウチ一人でやってるやんけ……」
 文句は言い続けているが、手際よく開門を終わらせた茶髪を短く後ろでまとめた女性は、さっさと次の仕事に取り掛かろうと、倉庫方面に歩いていった。海沿いにあるこの会社には、時折気持ちの良い潮風が吹く。何度目かにして、わりと強い風が吹き付けてきたことによって、女性も青空を仰ぎ見る余裕が出てきた。
「あ~本日も晴天なり! って感じやな。まさに雲一つ無いとはこのこと……ん?」
 女性が視界に奇妙なものを捉える。はじめは雲かと思っていたが、かなりのスピードをもって、この二辺工業の方に向かってきているのだ。
「敵襲⁉ いや、それならなんぼウチの会社のオンボロセンサーでも感知するはずや!」
女性は後ずさりしながらも徐々に近づいてくるその物体を凝視した。
「鳥? 飛行機? いや、あれは……」
 その物体が白い球体であると認識した女性はこう確信した。
「脱出ポッドか⁉ ってこっちに来る!」
 女性はその球体の進行方向の延長線上に自分が立っていることに気付き、慌ててその落下予想地点から離れた。そして約数秒後、凄まじい衝撃音とともに、球体が地面に落下した。
「いや……何なん? ……ん?」
 球体は落下したものの、そこで止まる訳ではなく、もう一度バウンドするような形で宙に舞った。そして、何故か女性の方へと向かってきた。
「いやいや! 嘘やろ⁉ ちょっと待ってって!」
 半分パニック状態になりながら逃げる女性。球体は何度か地面を転がった後、女性の目と鼻の先でようやく止まった。
「はあはあ……し、死ぬかと思ったわ……」
 女性は腰の抜けた状態でその場にへたり込んだ。しかし、やや間を置きながらも、なんとか立ち上がり、現状の把握に努めた。警戒しながら、球体に近づいていった。
「やっぱり脱出ポッドか。見たこと無い型やけど……一体どこのロボットや?」
 するとそのポッドが煙を吹き出し、中央の部分がゆっくりと開き始めた。女性は咄嗟に近くに転がっていた竹箒を手に取り、身構えた。
「……! 所属と氏名を! ……って、えええええ⁉」
 女性は驚いた。ポッドから姿を現したのは精悍な体付きをしたフンドシ一丁の男だったからである。男はフラフラとポッドの外に出ると、2、3歩程歩いて、その場に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫⁉ ……ってかアンタ誰なん⁉ 何で半裸なん⁉」
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