第27話(4)良い薬です

文字数 3,769文字

「先ほどはボクに助けられたから言えなかったんですよ、あの決め台詞」

「ええい! 余計なことを言うな、司!」

 茶色い機体たちが権藤たちを取り囲もうと動く。海藤が呟く。

「『カタナ』たちが包囲を開始……!」

「数で不利なのは変わりがない。状況も不透明なままだ、出来る限り速やかに片付けたいな」

「了解……はあっ!」

 菱形の言葉に頷いた海藤が素早くクニシゲを動かして、カタナと呼んだ相手に自ら果敢に突っ込んでいき、鋭い突きを繰り出す。カタナ数体がまとめて貫かれる。

「‼」

「ふん!」

 クニシゲは同じ要領で、数体ずつ始末していく。時田が口笛を鳴らす。

「~♪ すごいな、海藤さん。これだと出番は無さそうかな~」

「そうはさせへんで!」

「⁉」

 時田たちが上を見上げると、黒い機体と白い機体が上空を舞っている。

「この『黒鳥』と!」

「『白鳥』の爆撃でお前らを無力化させたる!」

 黒鳥と白鳥が爆弾を投下する。菱形が叫ぶ。

「司!」

「ほいっと♪」

「なっ⁉」

 時田がイチモンジをジャンプさせ、刀を振るわせる。高度はまるで届かないが、刀の風圧によって、爆弾は空中で爆発する。菱形が呟く。

「よくやった」

「でも、菱形さん、あの高さまではさすがにちょっと……」

「そのようだな、どうしたものか……」

「オレら奇異兵隊に任せろ!」

 それぞれ自らの機体に乗り込んだ奇異兵隊の四人が現れる。太郎がモニターを権藤たちに繋ぎ、玲央奈が声を上げる。権藤が苦々しい表情で答える。

「長州の連中がなんで京にいる?」

「い、いや、隊の名前が似ているだけですから! ここは協力しましょう!」

「気が進まんな……」

「そうですよね~」

「そ、そんな!」

 権藤と時田の言葉に太郎が愕然とする。玲央奈が叫ぶ。

「太郎! ここはお前のアレを見せるんだ!」

「え? ア、アレですか……? 意味があるとは思えませんが……」

「いいからやれ!」

「わ、分かりました……」

 太郎が機体の両の前脚を折り曲げ、頭部の両脇に添える。菱形が首を捻る。

「……なんだ?」

「『ウサギピョンピョンミピョンピョン♪合わせてピョンピョンムピョンピョン♪』」

 太郎の機体はしゃがみ込んだような体勢のままで前後左右にピョンピョンと跳ねる。戦場を一瞬沈黙が支配する。

「こ、これは……司……?」

「え、ええ、権藤さん……」

 権藤の問いに司が頷く。

「「カワイイから良し!」」

「良いことあるか!」

 何故か声を揃える権藤と時田に菱形が突っ込む。玲央奈が叫ぶ。

「よし! 一気に畳みかけるぜ、オーナーから事前に合体許可はもらっているからな!」

「か、各自、所定の位置に!」

「『ストロングライオン』、イケるぜ!」

「『ブレイブウルフ』、いつでもいい……」

「『パワフルベアー』、オッケー!」

「プ、『プリティーラビット』、よし! 皆さん、合言葉は⁉」

「「「「ケモ耳は正義!」」」」

「なにっ⁉」

 菱形たちが驚く。モニターに映る奇異兵隊四人の頭にケモノ耳が出てきたからである。玲央奈にはライオンの耳、ウルリケの頭には狼の耳、ベアトリクスの頭には熊の耳、そして、太郎の頭にはウサギの耳がそれぞれ生えるように出てきた。

「あ~それで皆さん頭を隠していたんですね~」

 時田は納得する。太郎が叫ぶ。

「合体!」

 眩い光とともに、奇異兵隊の四機が合体し、一つの大きな白い二足歩行の機体となる。

「「「「『獣如王(じゅうじょおう)』、見参!」」」」

「四体の獣型からくりが一体のからくり人形へ……!」

 海藤が静かに驚く。

「おっし、狩ってやるぜ! 喰らえ、『獣王爪刃(じゅうおうそうじん)』!」

「ぐはっ⁉」

「ここは撤退する!」

 玲央奈は叫ぶと同時に獣如王を飛び上がらせ、右腕を振るう。鋭く大きな爪から放たれた衝撃波が黒鳥と白鳥に直撃する。黒鳥と白鳥はかろうじて飛行体勢を保ったまま、ふらふらと戦線から離脱していく。時田が感心する。

「爪の刃の斬撃か~参考になりそう」

「仕方のない連中やな!」

 黒い着物を纏ったような独特のフォルムの機体が現れる。ウルリケが呟く。

「『幽冥(ゆうめい)』、明石家浪漫か……」

「ケモ耳集団と、女サムライの集まり……けったいな連中はまとめて片付けたる!」

「オ~けったいさ加減ではいい勝負だと思うネ~」

「ト、トリクシーさん、変に煽らないで……!」

 ベアトリクスを太郎が注意する。玲央奈が大声を上げる。

「一気に決めるぜ! 『獣王爪刃』!」

「はっ!」

「な、なんだと⁉」

 板状のものが幽冥をとり囲み、バリアを発生させ、斬撃を跳ね返す。太郎が呟く。

「バリアを発生させた……? あの板は確か……?」

「これは電磁護符っていうもんや。優れた陰陽師でもあるうちにしか使えん兵器や。これがある限り、アンタらはうちに傷一つ付けることは出来んぞ……」

「うおりゃあ!」

 権藤の駆るコテツが刀を振り下ろし、電磁護符のバリアを完全にではないが、打ち破ってみせる。浪漫が唖然とする。

「な、なんやて⁉ ど、どうして⁉」

「今宵のコテツは血に飢えているからな……」

「い、意味が分からん!」

「良いことを教えてやろう。権藤さんに理屈は通用しない……」

「んな、アホな⁉ わ、訳が分からん! うん⁉」

 そこに二体のロボットが降り立つ、全身を銀一色に染め、右肩に尖った角を持った機体と、全身を金一色に染め、左肩に尖った角を持った機体である。

「ふん……」

「遅くなった……」

「『銀角』と『金角』か!」

「ここは撤退しろ、明石家……」

「す、すまん!」

 金の言葉に従い、浪漫は幽冥を撤退させる。銀が尋ねる。

「あのカタナとかいう連中もほとんど撃破されている……数では不利だが?」

「真誠組とやらのデータを可能な限り集め、頃合いを見て撤退する」

「なるほど……それならば、仕掛ける!」

「うおっ⁉」

 銀角のショルダータックルを喰らい、コテツは後方に吹っ飛ばされる。

「案外、大したことはないか? 次で決める!」

「そうはさせん!」

「なっ⁉ ぐうっ⁉」

「主役は遅れてやってくるってね~」

 青い機体と白い機体が攻撃を仕掛け、銀角の進撃を止める。太郎が声を上げる。

「『ファン』と『ヂィーユエ』! タイヤンさんとユエさん!」

「金さん銀さん、先のリターンマッチかしら? 返り討ちにしてあげる」

「舐めるなよ! 機体の大きさではこちらに分がある! 借りは返す!」

 銀が銀角の体勢を即座に立て直す。ユエが楽しげな声を上げる。

「……コンディション、オールクリア。よ~し、スイッチ……ポチっとね♪」

「ま、まさか⁉」

 一瞬の閃光の後、銀が目を開くと、そこには金白青の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が空中に浮かんでいた。

「『三機合身!光風霽月(こうふうせいげつ)‼』」

「ちっ、光……疾風大洋まで来ていたのか⁉ 神戸にいたはずでは⁉」

「急いできたぞ! 京都から出ていってもらう!」

 銀の言葉に大洋が答える。金が声を上げる。

「ふっ! これで借りを返せるというもの!」

「どあっ⁉」

 金が金角に足を振るわせる。凄まじい衝撃波が光風霽月を襲い、光風霽月はたまらず膝をつく。タイヤンが大洋を叱咤する。

「な、なにをやっているんだ!」

「い、いや、神戸からダッシュで来たもので、目眩がして、反応が遅れた……」

「言い訳はいい!」

「いやいや、あちらさんも前回よりパワーアップしているよ?」

 ユエがフォローを入れる。金が笑う。

「……この機体にも慣れてきたからな」

「あらためて……どうする、金?」

「予定変更だ、ここで光風霽月を始末してしまおう……」

「よしきた!」

 銀角と金角が揃って光風霽月に向かって突っ込む。大洋が舌打ちする。

「くっ……」

「おりゃあ!」

「はっ!」

「なっ⁉ ラ、ライオン⁉」

「狼が首に噛みついて……!」

 玲央奈の駆るストロングライオンが銀角の、ウルリケの駆るブレイブウルフが金角の首にそれぞれ噛みついて、動きを止める。大洋が驚く。

「奇異兵隊⁉ わざわざ分離して……!」

「こういう方が効果的だったりする! トリクシー!」

「オッケー! オラアッ!」

 ウルリケの掛け声に合わせ、ベアトリクスの駆るパワフルベアーが両腕を広げて銀角と金角に突っ込み、ラリアットを喰らわせる形で、同時になぎ倒す。

「ぐうっ!」

「うわっ!」

「ベアトリ、追い打ちをかけろ!」

「そうはいくか!」

「かわす! ……なっ⁉」

「デカい図体は足元を狙うのが効果的なんですよね~」

 銀角と金角が素早く体勢を立て直そうとするが、崩れ落ちる。時田がイチモンジに刀を振るわせ、二体の片脚を切断したのである。

「くっ……撤退だ!」

 金角は機体の足元に、大きな黒い穴を出現させ、銀角とともにその穴に飛び込む。

「ちっ、逃がしたわね……」

「……光風霽月とやらの搭乗者、ここを開けろ」

「え?」

 いつの間にかカネサダから降りていた菱形が光風霽月のコックピットを開けるよう促す。

「目眩に効く薬だ、これを服用すると良い……って、ええっ⁉」

 菱形が驚く。大洋がフンドシ一丁で出てきたからである。

「薬か、ありがとう、恩に着る!」

「あ、ああ……」

「司、ここはアタシら知っている世界とは違うらしいな」

「どうやら本当にそうみたいですね。権藤さん、どうします?」

「あのフンドシ野郎が気に入った。あいつらと行動を共にしてみよう」

「フンドシ基準の判断ですか……まあ、案外それも悪くないかもしれませんね」

 時田が笑みを浮かべる。
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