第24話(2)昔取った杵柄

文字数 2,506文字

「イヨカン! ポンカン!」

「ミカン! 無事だったのね!」

 京都市東部の市街地の外れでカントリオ娘の三機が合流する。ミカンが問う。

「状況は?」

「敵は東側から攻勢を強めてきているわ。ワタシたちはその援護にあたろうと……」

「なるほど……⁉」

 音が二発鳴り、イヨカンの乗る『柑橘弐号』とポンカンの乗る『柑橘参号』が落下する。

「ぐっ……!」

「ちぃ……!」

 なんとか機体のバランスを立て直し、二機とも地面に不時着する。

「二人とも大丈夫⁉」

 ミカンが柑橘壱号の高度を下げ、二人の様子を伺う。

「な、なんとかね……」

「お、驚いたわ……」

「狙撃……一体どこから⁉」

 ミカンはコントロールパネルを操作し、周囲の様子を探る。イヨカンが尋ねる。

「……どう?」

「少なくとも半径5㎞以内にはそれらしい反応は見られないわね……」

「じゃあ、それよりも外から⁉ どんな精度よ!」

 ミカンの言葉にポンカンが驚愕する。

「……」

 ミカンたちのいる場所から北に5㎞離れた山の中に狙撃手はいた。ピストレイロ・マゴイチ、それに搭乗する愛賀重頼である。愛賀は軽く舌打ちする。

「ちっ……仕留め損ねたか。着弾の寸前にわずかに回避し、直撃を回避しよった……カントリオ娘とか言うてふざけた姉ちゃんたちやと思うたけど、なかなかやるやないか……」

 愛賀は覗き込んでいたスコープから視線を外し、呼吸を整える。

(あの目立つ蜜柑色……柑橘弐号と参号がそれぞれ修理・補給機能を有しているという情報は掴んでいる……ここで奴らを仕留めれば、戦況は一気に楽になる……)

 愛賀はピストレイロ・マゴイチの位置を移動させる。銃弾の入射角度によって、場所を特定されるのを防ぐためである。再びスコープを覗き込む。

(この辺りなら遮蔽物の間隙から撃てるはずや……いた! 今度こそ……何⁉)

 愛賀が驚く。二機の柑橘の側に、見慣れぬ機体が現れたからである。その機体は金白青の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体だった。

(なんや? 見たところ電光石火によお似ているが……志渡布や銀たちからもあんな機体の情報は入っていない……む!)

 愛賀が再び驚く。見慣れぬ機体が二機の柑橘に接近し、修理と補給を始めたからである。

(一見戦闘用かと思いきや、修理・補給機能持ちかい! くっ!)

 愛賀は引き金を引こうとするが、躊躇する。

(……いや、データがあまりにも少ない。なにか特殊なバリアでも持っていたらどうする? これ以上は失敗は出来へん、位置を特定される恐れがある……はっ!)

 修理と補給が済んだ、二機の柑橘が浮上する。愛賀は舌打ちする。

(ちっ! 余計なことを考えておったら、あの二機が復帰しよった! 壱号も含め、あの三機にうろちょろされたら邪魔でかなわん! ここで仕留めんと!)

 二機は状態を確認しているのか、その場で旋回飛行を試みている。愛賀は笑みをこぼす。

(ふふっ、すぐ飛び立たれたらどないしようか思うたけど、呑気に機体の現状確認か、それも大事やけど、この場合は命とりやで!)

 愛賀は引き金を引こうとするが、再び取りやめ、呼吸を落ち着かせる。

(いや、焦るな……ここで焦って外したら目もあてられへんぞ)

 すると、二機が壱号と一列に並んで飛行し始める。その様子を見た愛賀は声を上げて笑う。

「各自の技量の高さが裏目に出たな! そない丁寧に並んでくれたら、一発で仕留められる! 弾丸のええ節約になるで! ……南無三!」

 愛賀がピストレイロ・マゴイチにライフルを発射させる。方向、角度、タイミング、その他もろもろ、全てにおいて完璧だと思える一発であった。しかし、そのすぐ後に彼の目を疑う事態が起こる。三機の柑橘がその弾丸を躱したからである。

「⁉ アホな!」

 三機の柑橘はその場で滞空しながら高度を上げ下げするという器用な飛行を見せる。

「ま、まさか、誘っておるんか⁉ 舐めた真似を!」

 愛賀は三度ライフルを構えさせるが、またも呼吸を落ち着かせる。

(いや、落ち着け……これは罠や。場所を移動しよう……)

 愛賀はピストレイロ・マゴイチの場所を静かに移動させる。そして考えを変える。

(二度あることは三度ある……柑橘は後回しや。修理・補給に分析機能を有しているのは厄介やけど、戦闘能力はたかが知れとる。問題はあの機体や……)

 愛賀はスコープを覗き、戦場に新たに現れた金白青の機体を確認する。

(電光石火の兄弟機かなにかか? そう考えれば、特殊なバリア等は持っていないはずや……戦闘能力などを考えると、奴をこのまま野放しにする方が危険……ここで仕留める!)

「お取り込み中のところ申し訳ないんだけど……」

「のあっ⁉」

 愛賀は驚き、機体をのけ反らせる。自身の機体のすぐ側に、フリフリのフリルや可愛らしいリボンがいくつもついたピンク色の人型ロボット、仁尽が立っていたからである。

「驚かせちゃったかな? 悪いけど、狙撃を止めて欲しいんだよね~」

「ふざけたこと抜かすのは恰好だけにしろや!」

 ピストレイロ・マゴイチが素早く後退して、距離を取り、ライフルを連射する。

「ふん!」

「な、なんや⁉」

 愛賀は目を疑う。数発の銃弾がひしゃげ、仁尽の手前でポトリと落ちたからである。

「『弾、どしゃげろやこのボケが』と念じた……これが魔法少女ロボ、仁尽の力や」

 ステッキをかざした仁尽から低い声がする。

「魔法やと⁉ アホぬかせ! はっ! じゅ、銃口がひしゃげた⁉」

「おらあっ!」

「ぐはっ⁉」

 仁尽の振るうステッキに殴られ、ピストレイロ・マゴイチは派手に倒れる。すると、地面に広がる黒い穴に吸い込まれていく。カナメが頭を抱える。

「あ、逃がしちゃった……ってか、日下部、ステッキをそんな風に使わないでよ」

「いつもは使え使えと言うのに、やかましいやつじゃのお……」

「物理攻撃で使わないでって意味。それにしてもよく狙撃手の場所が分かったね? 昔取った杵柄、抗争の経験が活きたってやつかな?」

「ああ、あの時は……い、いや、なんとなくじゃ! なんとなく!」

「ふ~ん、まあ、そういうことにしておこうか。味方と合流しよう」

 仁尽はその場から移動を始める。
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