第16話(4)ケモノ、覚醒

文字数 3,107文字

「こ、今度は怪獣かい!」

「かなりのデカさだな……!」

「接近まで全く気が付かなかった! 巨体だけどスピードに注意だよ!」

 閃が全員に呼び掛ける。

「お三方は大丈夫ですか⁉」

「な、なんとか……た、ただ、三機とも駆動系に異常が確認された。しばらくは動けん」

 隼子の問いに松下は苦々しく答える。

「!」

 トカゲのような外見の怪獣が長い舌を伸ばし、玲央奈の機体を巻き取る。

「どわぁ⁉」

「れ、玲央奈さん!」

 トカゲが口を開く。玲央奈はモニターでその動きを確認し、慌てる。

「ちょ、ちょっと待て! 食っても絶対美味くねえぞ!」

「振りほどけないのか!」

「くそっ! 固く巻き付いて……機体が動かせねえ!」

 トカゲが舌を引っ込めようとする。太郎が再び叫ぶ。

「玲央奈さん!」

「⁉」

 次の瞬間、トカゲの舌を三機合体した電光石火が刀を使って切断した。電光石火はすぐさま反転し、落下する玲央奈の機体を受け止める。大洋が玲央奈に声をかける。

「大丈夫か! 特攻隊長!」

「あ、ああ! すまねえ! 助かったぜ……ってえええええ⁉」

 モニターを確認し、大洋の姿を目にした玲央奈が悲鳴のような叫び声を上げる。

「ど、どうした⁉ 妙に可愛らしい声を上げて!」

「う、うるせえ! な、なんて破廉恥な恰好してやがるんだよ⁉」

「破廉恥……?」

 大洋は首を捻る。

「だから、なにを首捻るところがあんねん! 至極当然の反応やろ!」

「いきなりフンドシ一丁になっていたらそりゃ誰だって面食らうよね~」

「は、離しやがれ! 自分で動ける!」

 そう言って、玲央奈はモニターを切った。大洋がうなだれる。

「赤は女性が好きな色ではないのか……?」

「いや、どこにがっかりしてんねん!」

 隼子が声を上げる。閃が指示を出す。

「大きいけど、四足歩行なら重心は低い! 飛べば優位をとれるはず!」

「よし、隼子! 飛行形態に変形だ!」

「了解!」

 電光石火は素早く飛行形態に変形し、上に飛び上がる。閃が呟く。

「ここから爆撃なり、銃撃をくわえて、弱った所を……!」

 トカゲが二足歩行になり、飛んだ電光石火よりもその目線が高くなる。

「た、立ちよったで!」

「あら?」

 トカゲがその右前脚を振りかぶる。大洋が叫ぶ。

「マズい! ぐおっ!」

 トカゲが前脚を振り下ろし、電光石火を殴る。電光石火は地面に叩き落とされる。

「どわっ!」

「ぎゃあ!」

「た、体勢を立て直さないと……ぬおっ!」

 トカゲが太い尻尾を電光石火に向けて叩き付ける。電光石火は機体の半分が地面にめり込むような形になる。

「な、なんちゅうパワーや!」

「う、動けん!」

 その様子を見て、玲央奈が叫ぶ。

「お前ら! 今度はオレたちがアイツらを助ける番だぜ!」

「バ、バット、あの怪獣、ミーたちの機体と大きさもスピードもパワーも桁違いね……」

「ビビッてんじゃねえ、ベアトリ! オレらにはアレがあんだろ!」

「ア、アレって……マ、マズいですよ、上の許可を取らないと!」

「こんな時に上も下もあるかよ!」

「く、訓練でも一度も上手く行かなかったんですよ!」

「今上手く行けばいいだろうが!」

「そ、そんな……」

 太郎が絶句する。ウルリケが呟く。

「アホに同意するのも癪だが、現状を打破するならそれしかなさそうだな……」

「ウ、ウルリケさんまで! し、しかし、繰り返しですが、許可を取らないと……」

「……ナウのミーたちのボスはあのオーナーさんになるんじゃないのかい?」

 ベアトリクスの呟きに玲央奈が両手を叩く。

「それだ! おい、聞こえているか、オーナー⁉」

「そんなに怒鳴らなくても聞こえているわよ……何?」

 玲央奈の呼びかけにアレクサンドラが応える。

「詳細は省く! 許可を求める!」

「省いちゃダメでしょ!」

「う~ん、よく分かんないけど……OK♪」

「ええっ⁉」

 アレクサンドラが軽いノリで許可を出したことに太郎は驚く。

「よっしゃ! 許可が出たぜ、お前ら、行くぞ!」

 玲央奈たちは電光石火にモニターを繋ぐ。電光石火のモニターに四人の顔が映る。

「な、なんだ⁉」

「見てろよ、フンドシ野郎! アタシら奇異兵隊の真の姿を!」

「し、真の姿⁉」

「太郎、指示を頼む!」

「か、各自、所定の位置に!」

「ストロングライオン、イケるぜ!」

「ブレイブウルフ、いつでもいい……」

「パワフルベアー、オッケー!」

「プ、プリティーラビット、よし! 皆さん、合言葉は⁉」

「「「「ケモ耳は正義!」」」」

「な、なんだと⁉」

 大洋は驚いた。モニターに映る四人の頭にケモノ耳が出てきたからである。玲央奈の頭にはボサボサの髪を避けるようにライオンの耳、ニット帽を取ったウルリケの頭には狼の耳、麦わら帽子を取ったベアトリクスの頭には熊の耳、そして、フードを外した太郎の頭にはウサギの耳がそれぞれ生えるように出てきた。隼子も驚く。

「な、なんや、これは⁉」

「あ~その為にみんな頭部を隠していたのか~」

 閃は納得する。太郎が叫ぶ。

「合体!」

 眩い光とともに、奇異兵隊の四機が合体し、一つの大きな白い二足歩行の機体となる。

「「「「獣如王(じゅうじょおう)、見参!」」」」

「あっちも合体機能持ちかい!」

「なかなか興味深いね……」

 隼子が叫ぶ横で閃が呟く。

「ほら見ろ! 上手く行っただろうが!」

「威張るな、いつもお前のタイミングがズレていたんだ……」

「ほう~こういうコックピット構造になっているのか、フレッシュな気持ちだね~」

「……だ、大丈夫なのか?」

 やかましいやり取りが聞こえてきて、大洋は不安気に呟く。太郎が慌てて指示する。

「み、皆さん、行きますよ!」

「おっしゃあ! 獣如王の初陣だ! 狩ってやるぜ!」

 獣如王は素早くトカゲとの距離を詰めると、右腕を一閃し、トカゲの尻尾を斬る。

「これは予想以上の切れ味だな……」

「まだ行くぜ!」

 獣如王は左腕で殴りつける。トカゲの巨体が吹き飛ばされる。

「ワオ! 凄いパワーだね!」

「まだまだ行くぜ! ……うん?」

 獣如王の動きが止まる。大洋が問いかける。

「どうした⁉」

「分からねえ! 太郎!」

「想定以上のエネルギーを消費してしまいました、エネルギー切れです……」

「そ、そんな⁉」

 倒れ込んでいたトカゲがゆっくりと起き上がり、獣如王の方に向かってくる。

「ちょ、ちょっちバッドなシチュエーションじゃないか⁉」

「ちょっとじゃない、大分マズい……」

「くそっ! どうする⁉」

「主砲発射! 撃てえぇぇぇ‼」

「⁉」

 次の瞬間、凄まじいエネルギーの奔流がトカゲの巨体を半分消し飛ばした。

「な……あ、あれは⁉」

 大洋たちがモニターを見て唖然とする。そこには艦全体をオレンジ色に塗装した『ビバ!オレンジ号』が浮上していたからである。

「……調整中だった主砲の威力も十分……エネルギーをかなり食うから連射出来ないのが難点だけど、まあ、贅沢は言えないわね……」

「ア、アレクサンドラ⁉」

「ご主人様、お待たせしちゃったわね。諸々のチェックに手間取っちゃってね」

「い、いや、それは別に良い! な、なんだ、そのカラーリングは⁉」

「『名は体を表す』って言うでしょ? やっぱりオレンジ色にした方が良いと思って♪」

「ま、まさかオーナー、ここ数日、この軍港に停泊していたのは……?」

「? 塗装作業を行う為よ、この地域ほとんどの業者を集めたから早く済んだわ」

「ア、アホや、色んな意味でアホや……」

 隼子が天を仰ぎ、閃が目を細めて呟く。

「あの大きさで艦全体がオレンジ色か……目立つことこの上ないけど、オーナーの一存ならば致し方ないね」

「へへっ、あれがオレらの母艦か。何だか面白くなりそうじゃねーの」

「不安の種が増えましたよ……」

 玲央奈は笑みを浮かべ、太郎は不安げな顔を浮かべた。
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