第14話(3)電光石火、見参

文字数 3,316文字

「出来れば体勢を整えてくれる? 何か理由があるのなら無理強いはしないけど」

「いきなり発進されれば、誰だってこうなるだろう……」

 大洋が体勢を直しつつぼやく。

「ごめんなさい、でもあちらさんが待ってくれないから」

 ユエが笑いながら顎をモニター画面に向かってしゃくる。画面には黒いロボットが三体映し出されている。

「奴らはなんだ?」

「香港辺りを拠点に東・東南アジア地域で活動しているマフィア『九竜黒暗会』ね。いかにもIQの低そうなネーミングでしょ? で、あの黒いのは奴らが下っ端に使わせる機体『ヘイスー』ね。日本語で黒色って意味。そのままでしょ? 細かい機種名もあるにはあるけど、覚える必要は無いわ」

「そんな奴らがどうして?」

「それは貴方を……貴方の機体、グアンを狙っているのよ」

「俺の機体? (こう)のことか?」

「ああ、日本語読みするならそうね」

「何故……?」

 大洋は首を捻って考える。光はほんの数か月前まで、佐世保にある二辺工業の倉庫の隅で眠っていた機体である。閃の話によれば開発されたのは約17年前のことで、現在第7世代を数える戦闘型ロボットの中では、もはや古株とも言える第4世代に該当するロボットだ。佐世保の地を襲った怪獣の脅威から大洋が無我夢中で起動させたのだ。

「思い出した。光を動かそうとした瞬間、コックピットに奴らが乗り込んできて……」

「そこよ、そこ。私が気になるのはなんでまた長崎の街中でロボットを起動させる必要があったのかってことよ……っと!」

 ヘイスーの内、一機がライフルを構えた為、ユエは自身の駆るヂィーユエを操作し、相手の懐に入り込んで、ライフルごと腕をはね退ける。上を向いた銃口から銃弾が虚しく夜空に向けて発射される。ヘイスーは慌ててヂィーユエから距離を取る。

「壮行会だ……」

「は?」

 大洋の言葉にユエは理解が出来ないというニュアンスを込めた返事を返す。

「地元の行政機関がロボチャンの全国大会に出場する俺たちの壮行会を開催してくれた。そこに報道機関が多数取材に来ていた為、宣伝も兼ねて起動させようとしたんだ……」

「想像よりも30度位斜め上の回答ね……つまりマスコミ向けに良い恰好しようと?」

「まあ、そうなるな。社長命令だ、容易には逆らえん」

「大会会場への輸送まで大人しくしてもらえば良かったのに……しょうがないわね!」

 ユエはヂィーユエにブーメランを投げさせる。勢いよく投げられたブーメランは二機のヘイスーの胴体を破壊して、ヂィーユエの手元に戻ってくる。ほぼ同じタイミングでユエからファンと呼ばれた青い機体がヘイスーを撃破した。

「隊長機を落としたぞ」

「了解、それじゃあ、私はこの人の機体を奪還に行くわ。タイヤンは彼女たち二人を優しくエスコートしてあげて」

 ユエは通信を取ってきたタイヤンに答え、機体を走り出させる。大洋が問う。

「ちょっと待て! お前らの乗っている機体はなんなんだ⁉」

「なんかウチらの機体によお似ているな?」

「ジュンジュンもそう思った? でもデータベースには該当しないんだよな~」

「お、お前ら、大人しくしていろ!」

 シートの後ろから身を乗り出して会話を始める隼子と閃にタイヤンは戸惑う。

「そう、俺たちの乗る、光や(でん)石火(せっか)によく雰囲気が似ているんだ!」

「雰囲気ってまた曖昧な……設計思想が似通っているくらい言って貰わないと……」

 大洋の言葉にユエは苦笑する。大洋は構わず重ねて問う。

「どうなんだ⁉」

「落ち着いたら話すわ! ほら見えてきた! 連中のアジトよ!」

 ユエはヂィーユエを操作し、建物を派手に破壊する。そこには横たわる金色の派手なカラーリングが特徴的な光の姿があった。

「! こんなところに!」

「早く乗り移って!」

「ああ!」

 大洋はヂィーユエの差し出した右手の掌に乗って降りる。そこから光のコックピットのハッチに向かって飛び移り、コックピットの中に入る。それを確認したユエは叫ぶ。

「よし、さっさと離脱しましょう! って、うわ⁉」

 ヂィーユエの背後に銃弾が当たる。何事かと振り返ってみると、ヘイスーが20機ほどそこには立っている。ユエは小さく舌打ちする。

「二個小隊どころじゃない……倍の四個小隊、これは流石に分が悪いわね……って!」

 ヘイスーの一個小隊が一斉射撃を仕掛けてきた。ユエが思わず目を閉じてしまう。

(これは避けきれない! 装甲も耐え切れるか? ……!)

 ユエがうっすらと目を開けると、そこには光の姿があった。光が盾となって銃弾を全て防いでいたのである。

「は、疾風大洋! 大丈夫⁉」

「大洋で良い! ところでユエ! アイツらは悪い奴で間違いないんだな?」

「えっ、あ、ああ、そうね。一般市民の平和を脅かすとっても悪い奴らよ!」

「それを聞けて良かった! ならば手加減無用だな!」

 大洋は光をヘイスーの部隊に向けて突っ込ませる。ヘイスーも何機かがライフルを発射させ、迎撃する。何発か機体に命中するものの、大洋は怯まず光を前進させ、さらに左脚部の太腿辺りから鋼鉄製の巨大な刀を取り出して、右手に握らせる。この刀は光の主武装、名刀・光宗(みつむね)である。大洋が叫ぶ。

「喰らえ! 横一閃!」

 光宗を光は横に薙ぐ。ヘイスー5機の下半身が切断され、残った上半身が地上に落ちる。

「す、凄い、一気に5機も無力化させた……技のネーミングは安直だけど」

 ユエは素直に感嘆する。しかし、そこに残りの15機が距離を取って、光に向かって、一斉に射撃を加えようとする。流石の大洋も少し焦った声を上げる。

「くっ、突っ込み過ぎたか⁉」

「援護するよ~!」

「猪突猛進が過ぎるで!」

「! 閃と隼子か!」

 銀色の機体がやや距離が離れた陸上から、銅色の機体が空中から猛烈な銃撃を喰らわせて、ヘイスー10機をたちまち無力化させる。閃の乗る銀色の機体、電の右腕部分に内蔵されたキャノン砲と、隼子が乗る銅色の機体、石火の両肩に備え付けられたキャノン砲がそれぞれ火を噴いたのである。

「金色が近接戦闘用、銀色が砲撃戦闘用、銅色が飛行戦闘用……といったところか」

「概ねデータの通りね。各機の連携や個々の練度はどうやらそれ以上みたいだけど。嬉しい誤算というやつね」

 閃と隼子を各々の機体の下に届けて、ともに戦闘区域に到着し、専用回線を繋いできたタイヤンにユエは弾んだ声で答える。

「どうやら俺たちの出る幕はないか?」

「そうかもね……ちょっと、様子を見てみましょう」

 そう言って、ユエはモニターを確認する。そこには残りのヘイスー5機と対峙する大洋たち3人の駆る機体が対峙する模様が映し出されている。

「くっ……残りの一個小隊はなかなか良い動きをしている! これは手強いぞ!」

「ジュンジュン~石火を戦闘機形態に変形させて、爆撃を仕掛けてみるのはどう~?」

「アホ言うな! アンタらに当たるかもしれんやろ!」

 閃の提案を隼子は却下する。

「このままでは周辺の市街地に被害が広がる……だが、長引かせるわけにもいかん……」

 大洋が閃と隼子に声を掛ける。

「一気にケリをつける! 二人とも、準備は良いな⁉」

「了解~」

「ええっ⁉ やるんか⁉ り、了解!」

「よし! スイッチ、オン!」

 強い光が周囲に放たれた後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右から閃と隼子がそれぞれ座っている。

「よし、合体成功だな!」

 そこには金銀銅の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が立っていた。

「『三機合体!電光石火(でんこうせっか)‼』……ちょっと待て! お前ら何故掛け声を言わないんだ⁉」

 大洋が足元の二人に疑問を投げ掛ける。

「そんな決まり事無いやろ……」

「今決めた!」

「無茶苦茶言うなや!」

「え~何だか恥ずかしいな~」

「恥ずかしくなどない!」

「そりゃあ常時褌一丁の人の価値観に照らし合わせたらね……」

 戦闘中にも関わらず、わいわいがやがやと騒ぐ3人の声がユエたちにも届いていた。距離が近く、回線が入り易い為である。タイヤンが呆れた声を上げる。

「なあ、あいつらに任せて大丈夫なのか?」

「ここは電光石火のお手並み拝見と行きましょう……」

 ユエは静かに呟く。
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