ドSの恩返し

文字数 4,085文字






 春の甲子園出場の予選のくじだかを引くのに、部長が籤引きの会場まで行かなくてはならなくなった。

 部長は……。
 いたらしいが、先日、上野が殺人投球で潰したらしく不在だ。

 急遽、じゃんけんで部長が決められるかと思っていたが、古株で毎日部活に出ている新宿が部長代理として校長に会場まで連れられて行った。

 部員は外出した新宿を含め5人しかいない。
 あと4人で試合は可能だ。控えの選手も何人か入れたいところだが、この際贅沢は言ってられない。
 
 練習をしたいところだが、今日も選手をスカウトに行かなければ本番の試合もできなくなる。

 登校時のスカウト活動は今日も手応えが無かった。
 本日の部室のプレハブは消沈ムードが漂って陰気そのものであったが、品川だけは希望を失わずにきびきびとした動作でユニフォームに袖を通していた。

 そんな時……。

 ガラガラ、ドサッ!
 プレハブのドアが開いて、小柄な人影がボンレスハムみたいにした布団を室内に蹴り入れた。

「……コンニチハ」

 相変わらず軽音部顧問のぺの声はぼそぼそとして聴きとり辛かった。
 代わりに通訳として大久保が買って出る。

「どうやらぺ先生は、この間の曲が完成したお礼に差し入れを持ってきてくれたようですね」

「……ギィィ」

 ぺは邪悪な微笑みを浮かべ、プレハブの入り口で「荷物を解け」と言っているようだった。

 言われた部員達は頷き、代表して上野がボンレスハムみたいになった布団の縄を解いて包みの中を見た。

「…………」

 包みの中にはアイマスクで目隠しをされた人間(男)が頬を染めて恥らい歯を食いしばりながら貝殻のビキニを身に着けて横たわっていた。

「お前は武田久美子か……」

 薄ら寒い表情をした上野が冷静に突っ込むが、隣にいた品川は興味深そうに貝殻ビキニの男をまじまじと観察していた。

「やめろ! 俺をそんないやらしい目で見るなよ……ああっ!」

 目隠し男は恥ずかしげだがなぜか嬉しそうな感じが伝わってくる。コイツMだ。そうか、ドSのぺ先生は下僕の豚を差し入れに来てくれたらしい。

「……クレナイ……ノ……豚……」

「えーと、先生は「部員が足りなくて可哀相だから一人連れてきた」とおっしゃってます」

 おおお! 部室内は喜びで歓声に包まれる。
 まさかサッカー部に敗北して辛酸を舐めさせられた後に幸運を招いてくれるとは思ってもみなかった事だ。
 部員が足りなかったので、どんな変態であろうとも部員として受け入れるつもりだ。

「へー貝殻ビキニってこんな風になってるでRね」

 恵比寿がニヤニヤしながら目隠し男の貝殻ブラジャーを捲り上げる。

「……っ!」

 目隠し男の乳首がビンビンに立っており、先端が赤みを帯びている。どうやら見られて興奮しているらしい。

「……オッパイ……マミマミ……」

「ぺ先生は「コイツの目隠し外したら驚くぜ」と言っていますが、目隠し外しちゃいますか?」

 言った本人のぺは冷酷な瞳で「やれ」と視線で命令してきた。
 後の仕打ちが恐いし、何よりも目隠し男の素顔が気になったのでアイマスクを外してやる。

「お前は……!」

 目隠しの下から、先日野球部員を地獄に追いやった張本人の反田悠五が現れた!
 再会はサッカーのユニフォームではなく、貝殻のビキニ姿だった。

「見るな! 俺を見るなぁぁぁ!」

 ガッ! 恥らう反田の股間の貝殻を、ぺが重たい靴で蹴りつけた。

「貝殻、ここで割っても良いかな?」

 はっきりと誰にでも聞こえるような声と発音でぺが反田を脅した。

「えっ……?」

「君が拒絶した彼らの目の前で痴態を晒してみようか?」

 ミシミシメキメキと、反田の股間から貝が割れる音が聞こえる。

「いやぁ――――っ!」

 反田は両手で顔を覆ってイヤイヤと顔を横に振るが、なぜか羞恥プレイを楽しんでいるかに見える。
 ああ、コイツ、ぺ様に調教されて奴隷にされたんだな。と、見ている周りが簡単に理解できた。

 股間の貝殻を完全に割るかと思ったその時、ぺは寸前で足を放した。
 ひび割れた貝殻の下で見たくない膨らんだ物を見せられた。

 反田は体を茹蛸の様に真っ赤にしながら、ダンゴ虫の様に身を丸めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい! あなた達を懲罰房に送った僕を許して下さいぃぃ……」

 それを冷ややかに見つめるぺと野球部員達……。
 ぺは自分の部活の部屋を「懲罰房」と呼ばれる事に気を良くしていないが、すぐに腹を立てないのがSの王様である。

 そしてなぜか、ドMにされてこの状況を楽しんでいるように見える反田がむかつく。

 反田を哀れに思った上野は、彼が見苦しいので予備の野球のユニフォームを上から掛けてやる。新品のナンバーの入っていないユニフォームで貝殻ビキニが隠れた。

「大の男がそんな恰好をしていては風邪ひくぞ」

 上野は優しい表情で反田を助け起こそうと手を差し伸べる。

 涙ぐんでいる反田が野球のユニフォームを体に密着させて前を隠し、差し出された手を取ろうとする。

「すまね……」

「その汚い手で上野君を触るな!」

 ゴスーンッッ! 反田は品川に回し蹴りを頬に食らった。

 反動でユニフォームと股間の貝殻が吹き飛び、見るも無残な姿で反田がロッカーの下で転がった。

「大丈夫か上野君! 汚い液体で汚れてはいないか?」

「いや……別に……」

 品川に吹っ飛ばされた反田を見た上野は青ざめていた。
 だが、反田は恍惚な表情を浮かべ、変な格好で果てていた。

 一瞬、部室内が凍りつく。

「……チンカス……」

 ぺが呟く。遅れて大久保がぺの側に近寄り、話を聞いた。

「えー「急いで調教したから、教養までは付けてやれなかったゴメン」だそうです」

 大久保はぺから女性用のハイレグ競泳水着を渡された。この学校には水泳部は無かった筈だが……。

「コレ? 彼の洋服なんですか?」

 コクリ。ぺが頷く。
 どうやら反田に与えられた服は競泳水着しかないようだ。しかも女性用の。

 大久保は競泳用水着を雑巾持ちにして、近くにいた恵比寿に渡してみる。

「MEに渡されても困るでRよ!」

 ポイ。上野の方に投げる。
 と、上野の頭の上に競泳水着が乗っかった。

「わわわっわっ!」

 嫌そうに上野がのけぞっている。
 反田用の競泳水着を押し付け合う姿を見ている反田はいじめに合っているようなのに、なぜか嬉しそうに興奮した様子で息を荒くしていた。

「何だか虫の居所が悪いので殴らせてくれたまえ」

 とか言いつつ、品川は反田の蹴られていない方の頬をスパイク付きの靴で蹴った。

「はうっっ」

 反田はなぜか両手を組んで幸せそうに倒れた。

 ぺは急いで調教した豚の預け主を見つけたようで、先程反田を蹴った品川に近づいて首輪を渡した。

「ぺ先生、何でしょうか?」

 楽器のパンフレット丸めた簡易拡声器を使うぺが品川に話があるようだ。

「コイツはお前に貸そう。Sの素質が一番あるからな」

「こんな豚要りませんよ。フィアンセの上野君で足りてますから」

「そうじゃない。ここの部員を使いこなせるのはお前しかいないと見込んだから言っているんだ」

「反田君はたしか、サッカー部の主将じゃありませんか」

「コイツは昨日付で僕の奴隷となり、サッカー部を自分から辞めたんだ。本性はスライム攻めと鼻フックがお気に入りの豚だったみたいだよ」

 ぺは、恍惚な表情で倒れる反田を一瞥すると、品川に向き直った。

「そういえば、君達が協力してくれた曲をユーチューブで宣伝してみたらすごい反響だった。部員が足りなくて試合に出れないようだから、僕の新入りの豚を貸してあげようと思ってここに来たんだけど、コイツ要らないの?」

 ポン! なるほど、それで合点が行った。
 サッカー部の主将だった反田がぺの奴隷になったいきさつは知らないが、新曲のお礼に部員を貸してくれるならドMの豚だって構わない、

「是非、貸して下さい」

 品川は二つ返事でぺの調教したM奴隷を受け取った。

「養豚801号はスポーツが出来るから役に立ってくれると思うよ」

 ぺはにっこりとほほ笑み、品川と握手をして野球部の部室を去って行った。

 こうして野球部の部員は6人になる。
 試合までまだ3人足りない……。



 午後3時になるとティータイム。それがセレブの優雅な日課である。
 品川と恵比寿は使用人を使い、ガーデン用のテーブルとイス、ティーセットと茶菓子を運ばせてグラウンドの一角でまっさらな野球のユニフォーム姿で寛いでいた。
 まだまだ野球の練習が始まったばかりだというのになんて不真面目なんだと思うのが庶民である。しかし、練習しているのは今の所上野と、女子競泳用水着と赤いハイソックスとサッカーのスパイクを穿いたの反田だけである。
 庶民の大久保はベンチで相変わらず漫画を読んでいる。

 そんな時に校長の南と部長代理の新宿が帰ってきた。

「たっだいま~☆」

「ただいま帰りました」

「はうっ☆」

 部員が一人増えている事に気が付く。
 何だろうこの女子競泳水着の男……。まさか同族!?
 半分体を工事している南が反田をひと睨みし、オネエかどうか身構える。もしそうであれば女子と見なし、追い出さなければいけない……。野球部に汚くても華は二人も要らないのだ。

「先生、おそらく彼はサッカー部から引き抜かれて来たんじゃないでしょうか? 靴と靴下からして……」

 新宿がおどおどしながら南に耳打ちすると、南は女子競泳水着の男を二度見する。

「まさか、彼はサッカー部のキャプテンの反田悠五君!?

「えー!?

 さっき反田が野球部入部の件を知らない新宿も二度見して驚いた。




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