第7話 プールサイド

文字数 7,926文字

 予想されていた出来事が予想通りに起きた場合には、ひとはそこから受け取る衝撃を回避(あるいは少なくとも緩和)することができる――確かにそうかもしれない。だが、予想されていなかった出来事は受け取られない(あるいは理解されない)可能性があるが、他方で、予想されていた出来事はほぼ確実に受け取られ、理解されてしまうことも事実だ。
 もちろんこの世界には、それを予想できたはずの人間と、できなかっただろう人間がいる。すなわちそれが起きた際に、それを受け取り理解できる人間と、受け取り損ね理解に苦しむ人間がいる。理解できると言っても、むろん後知恵に過ぎない。後知恵とはつまり、落ち着きのいい解釈のことだ。だからそこには人の数だけの解釈が生まれ、人の数だけの理解が生まれる。
 予選が終わり、リザルトがすべて掲示板に表示され、ざわめき立っていた場内が静けさを取り戻したとき、どこかから女性の悲鳴が上がった。人々が立ち上がり、背を伸ばして覗き見ようとしている先に、テレビカメラも焦点を合わせた。が、悲鳴を上げた女性を特定することはできなかった。ただ、数名の男女が固まって観覧席の階段を降りて行く様子が、ほんの一瞬だったけれど、カメラに映し出された。その一瞬は、こんなふうに切り取られたのだった――

 下柳・コンラート・ヒカルは、宮益坂のカフェのカウンターでひとり、スマートフォンにイヤホンを挿して、YouTubeのLive配信を見ていた。突然、映像の中に希美の姿を見つけ、思わず椅子から立ち上がった。何事かと周囲の客が顔を上げ、カウンターの中の店員も手を止めた。ヒカルは店の外に飛び出して電話をかけた。希美は応えなかった。二十回ほど呼び出し音を聞いてから店内に戻り、集まった視線にはっとして、慌てて頭を下げた。要領を得ないまでも、少なくとも客はヒカルへの関心を薄めた。ほっとして椅子に座ったヒカルに店の人間が声をかけた。
「大丈夫?」
 六十年配の、おそらくこの店のマスターと思しき、白髪頭の男だった。
「すみません。なんか、お騒がせしてしまって」
「君、日本語上手だね」
「日本で生まれ育ちました」
「なんだ。ごめんよ。気を悪くしないで」
「平気です」
 笑顔を作ってから、もう一度YouTubeを立ち上げた。が、カメラはもう観覧席を離れ、解説者が予選結果を振り返っている。あれはなんだったんだろう…そう思ったとき、希美から折り返して電話がかかってきた。ヒカルは今度はそっと椅子を立ち、マスターに軽く会釈をしてから、店の外に出た。
『ヒカル? なんで電話したの? ビックリしたよ。だってさ――』
「さっきテレビに映ったんだ、希美が」
『え? そうなの?』
「なにかあったの? みんな立ち上がって騒いでるみたいだったけど……」
『早苗さんが倒れたの。急に悲鳴を上げて、そのまま崩れるみたいに。いま医務室に連れてかれて、私たちみんなロビーに――』
「ちょっと待って。早苗さんて誰のこと?」
『ああ、そうか。ヒカルは知らないよね。諸岡さんのお友達。え~と、彩日香さんの弟の大和さんのお友達。一緒に応援してたの、みんなで。なんか知らないけど、着いたら六人になっちゃってさ』
「六人?」
『そうなの。早苗さんと、早苗さんの彼氏の西江さんと、彩日香さんの従兄の夏馬さんと、やっぱり彩日香さんの従妹の静花ちゃんと。あ、静花ちゃんは私たちと同い年だよ。それでね――』
「わかった。それで、早苗さんて人は大丈夫なの?」
『大丈夫、だと思う。意識はしっかりしてるし、自分で歩いて医務室行ったし。でもなにが起きたのかみんなわからなくて。彩日香さんも夏馬さんも首傾げてるし。西江さんが一緒にいるから私たち出てきたの。それでちょっとスマホ見たらヒカルから着信あったからさ、もうビックリしたよ』
「なんとなく状況はわかったよ。…それで、え~と、諸岡さん、残念だったね」
『ううん。残念じゃないよ。B決勝に残ったもん。十五番だよ。スゴくない? 日本中で十五番目に早いんだよ? ああ、諸岡さんカッコよかったなあ。ヒカルも見たでしょ?』
「見たよ。うん、カッコよかった。さすがは彩日香さんの彼氏だって思った」
『でしょ、でしょ? なんかあとひとつでおしまいなんて悲し過ぎるよお。だってさあ――』
 希美の話はなかなか終わらなかった。ヒカルはちょっと店内を振り返ったが、マスターがこちらを気にしている様子はない。希美は今朝早くの新幹線に乗り、今夜はホテルに一泊して、明日は彩日香と名古屋観光を楽しんでから、夕方東京に戻ってくる予定だった。ヒカルは迎えに出る約束をしていた。彩日香は途中下車して実家に寄るということで、東京には希美がひとりで帰ってくる。どこかで食事をしようと約束していた。ヒカルはちょうどバイト代をもらったばかりだった。

 意地っ張りの大和は絶対に見ない!と言い張るし、早苗には彼氏(あの西江衛だ!)と行くから邪魔だと言われてしまい、桐谷麻友はしかたなく賃貸マンションのソファに寝転がっていた。予選が終わり、諸岡の決勝進出がなくなって、テレビのチャンネルを当てもなく切り替えた。が、なにも見るものがないので消した。キッチンに行って紅茶を淹れた。ベランダに出て日が暮れはじめた街を眺めた。
 モロはこれからどうするのだろう…と思った。スイミングクラブのコーチでもするのだろうか。それともこのまま大学院でスポーツ科学とかスポーツ医療とか、本気で勉強を始めるのだろうか。どうするにしても、問題は彩日香さんだ。彩日香さんはモロの引退を待っていた。引退すればずっと一緒にいられるものと考えている。また海外に行くなんてことになったら大変だ。彩日香さんが海外に行くなんて認められるわけがない。去年、東京に出てきたことだって、正直ビックリしたくらいなのに。
 あ、紅茶持ってくるの忘れた……。
 ベランダからリビングを抜け、キッチンからティーカップを手に戻ったとき、ちょうどスマートフォンが着信を報せた。テーブルに近づいて見ると、ディスプレイにはなんと「ナツメさん」と表示されているではないか! 麻友は慌ててスマートフォンを取り上げると、しかし落ち着いてソファに座り、紅茶をひとつ口にして喉を湿らせてから、ゆっくりと応答した。
「はい、桐谷です」
『麻友、ちょっと教えてくれ』
「なんでしょう?」
『こないだ早苗と会ったとき、なにかおかしな様子はなかったか?』
「いいえ。西江くんとお付き合いします、とかなんとか言っちゃって、ビックリさせられただけですけど」
『さっき倒れたんだよ、観覧席で』
「観覧席?……て、夏馬さん名古屋!?
『そうだよ』
「もお、なんで誘ってくれないんですか! 私も行きたかったのに。大和は絶対行かねえ!とか捩じくれちゃってるし、ナエちゃんはデートの邪魔しないで!とか言ってくれちゃうし、それで私しかたなく――あ、え、いまなんて言いました?」
『だから、早苗が倒れた』
「倒れた!? なんで?」
『それを探ろうと思って、いま君に電話をかけている』
「失礼しました。…え~と、どこでどんな状況で倒れたんです?」
『予選が終わったあと、観覧席で突然悲鳴を上げて、そのまま崩れるように倒れた』
「なるほど。…ん~、そのときプールではなにをしてました?」
『なにもしてなかったと思うなあ。次のレースの準備とか、そんなことだと思うよ』
「あの、レースの準備とかって、ほら、ボランティアがやったりしますよね?」
『まあ、地元の学校の水泳部とか、スイミングクラブがやるんじゃないのかな』
「その中に比較的障がいの程度の低いパラの選手が混じっていたとか……」
『……麻友、それはどういう意味だ?』
「あのですね、夏馬さん。私もう勝手に解釈しますけど、いいですか?」
『麻友のそれが聞きたくて電話したんだよ』
「ありがとうございます。光栄です。――え~と、大和が事故に遭ったあと、ナエちゃんは一度もプールサイドに行ってません。本人に自覚があるかわからないけど、とにかく行かなくなったんですよ。たぶん近寄れなくなったんです、きっと。…つまり、だから今日は、六年ぶり? あ、七年ぶりのプールサイドです」
『そうか。言いたいことはわかった』
「あ、あの! それでナエちゃん大丈夫なんですか?」
『大丈夫だよ。意識はしっかりしている。西江もそばにいる。心配ない』
「それならよかった。…夏馬さん、西江くんは大和のことほとんど知りませんから。ふたりが幼馴染みで、その、中学までどういう関係だったとか、そういうこと……」
『そうだね。注意するよ』
「はい。お願いします」
 通話を終えて、ソファに体を預け、麻友は顔を覆った。――ああ、やめさせればよかった。名古屋になんて行かせるんじゃなかった。西江くんのことで驚いて、あのとき気が回らなかった。
 ナエちゃん、どうしてプールサイドになんか行ったの? これまで慎重に避けてきたはずじゃない。そこはダメだってわかってたんでしょ? ナエちゃんらしくないよ。ナエちゃんみたいな人でも、恋するとそんなこともわからなくなっちゃうなんて、ちょっと信じられないよ。
 西江くんは気づくだろうか? 気づくかもしれない。もし私が想像した通りのことが目の前で起きていたとしたら、西江くんはきっと気づく。彼は頭がいい。でも、でもね、西江くん、それをひっくるめて、それを承知で引き受けるのが、ナエちゃんを愛するってことなんだよ。これまで誰もできなかったの。だからあんないい子があなたの前に残っていたの。わかるよね? わかってよ。西江くんならできるはず。きっとできるよ。きっと。

 バッグの中で電話が鳴ったとき、池内常葉は二宮の研究室にいた。大事な用件は済んでいた。だらだらと二宮の愚痴を――また始まった学長選をめぐるごたごたの話を――不承不承に聞かされているところだった。電話は腰を上げるきっかけになる――常葉はそう思ってバッグを探った。が、相手の名前を見て、おや?と思った。二宮はソファーの向かいから腰を上げ、デスクに回り込んだ。遠慮なくどうぞ、という意思表示である。
「どうしたの?……もう一回。……それでいまは?……西江って聞いたことある名前ね。……ああ、覚えてる。西江ね。ふ~ん、そうなんだ。……うん。……うん?……それってどういう意味?……麻友がそう言ったの?……それは知ってるけどさ、いつの話よ。もう何年経つ?……まあ、わからないとは言わないけど。いまどきの若者はナイーヴだわねえ。……はい、はい。気をつけますよ。……わかった。あんたに任せる。……そんなの帰ってからでいいわよ。それよりちゃんと本家に寄ってきて。……そう、芳乃もね。……はい、よろしく」
 常葉がスマートフォンをバッグに戻すと、二宮がソファーの向かいに戻ってきた。
「聞き耳立ててたわけじゃないけど、西江って名前が耳に入った」
「うん、あなたのとこの西江よ。早苗と付き合ってるって」
「ええ? ほんとに?」
「ねえ、西江ってどんな子?」
「潜在的には、ここ数年でもいちばん出来る人間だと思うよ」
「なぜ潜在的には、とかって保留するわけ?」
「一生懸命やらないから」
「それじゃ駄目じゃない」
「意識的に、計算して、手を抜いていた」
「ああ、勝負どころがあるのね」
「たぶんね。どこにそれを置いているのか、僕にはわからなかったけど」
「いい男なの?」
「彼は欠点を見つけるほうが難しいくらいのいい男だよ」
「早苗ってそんなに綺麗な子じゃないけどね、言っちゃなんだけど」
「いやあ、松田くんは綺麗だと思うけどなあ。なんて言うか、こう、

としていてさ」
「そういうタイプが好きだってことなら、あれ以上のはいないかも」
「お似合いだと思うな、僕は」
「教え子の仲人とかやったことある?」
「仲人はないねえ。うちは研究室の中でくっつくの少ないし」
「そうか。出しちゃうものね、あなたは」
「残念だけど、ここよりどこぞの研究所のほうが圧倒的に環境がいい。予算も含めて、なにもかも」
「だからずっとそう言ってきたじゃない。いまからでも口利けるとこあるわよ?」
「僕にはここが合ってる。毎年新しい若い顔を見るのが楽しみなんだ。ぽつぽつと松田くんや西江くんみたいな逸材とも出会えるしね。優秀な若者と一緒に時間を過ごすのは、最高の贅沢だよ」
「まあ、言ってることはわかるけど。…じゃあ私、いいかげん帰るわね」
「なにかあった?」
「なんで?」
「いや、なんとなく」
「そうね。…ちょっと困った電話だったけど、まあ、なんとかするんじゃない?」
 腰を上げた常葉は二宮からジャケットを受け取って、それを腕にかけたまま廊下に出た。この日は気温が高い。大事な話をするから形だけ上着を手にしてきたものの、帰りには邪魔になった。土曜の夕方のひと気の少ない校内を横切って、通りに出るとすぐにタクシーを拾った。ちょっと迷ったが、まっすぐ家に帰ることにした。翌週には海外出張が控えているので少し仕事を片付けておきたかったが、電話の声がそんな気分の袖を引っ張って、今夜は家にいろと訴えている。
 とはいえ、今夜はきっとなにも起こらない。夏馬が本家に寄るのは明日朝だ。芳乃とも午後に約束したらしい。本家はともかく、芳乃のほうは深刻な話ではない。この春に異動があって、ちょっとショックを受けている。あれの旦那は大きな組織で働くということがよくわからない。夏馬だって似たようなものなのだが、言いたいことを好きなだけ吐き出してきた同い年の従兄妹だから、芳乃が折につけ夏馬を欲するのは、まあ自然な情動だろう。受け取ったものは、帰りの新幹線の中に置き忘れてきてしまえば済むことだ。
 とはいえ、夏馬はいったいなにをしていたのか? 早苗は大和の向こう側にいるのではなく、すでに私たちの内側にあると確かめたのは、もう二年も前のことではないか。今日あそこでそんなことが起きたのは、明らかに夏馬の怠慢を証明する。帰ってきたらじっくり話し合わなければいけない。問題はプールサイドにあるわけではないはずだ。西江という男がまだよくわからない以上、それに、早苗があれを片付けきれない限り、西江の場所だって宙に浮いたままだろう。

 絶対に見ない!と啖呵を切ったものの、一緒に見よう?と玲奈に誘われてしまい、安曇大和は我を押し通すことができなかった。諸岡はB決勝でタイムを縮め、三位で――全体では去年と同じ十一位で――最後のレースを終えた。テレビを消したところで玲奈が静かに泣きはじめた。大和はぼんやりと玲奈を見つめながら、考えてもしようがないことを考えて、いつもと同じ結論を確かめた。諸岡でさえ届かなかったのだから、自分に届いたはずがないという結論だ。
 玲奈が涙を拭って笑顔を見せるのを待ち、食事に行こうと立ち上がったら、今日は作ろうよと言い出した。駅前の小さなスーパーで買い物をし、玲奈に指示されるままに調理を手伝って、ふたりで夕食を終えた。昨夜の職場の飲み会が楽しくてちょっと寝不足だと言っていた玲奈は、食事の片づけを終えるとすうっとカーペットの上で眠ってしまった。大和は上から毛布を掛けて、テレビの音を小さく絞った。この日の最後の――諸岡や大和とは泳法の異なる――決勝レースが始まろうとしている。カメラが一人一人の顔を順に映しだした。
 見知った顔が並んでいる。ここに立つのはいつも同じ顔だ。特にレーン中央の三、四人は、本当にここ数年ずっと変わっていない。彼らに追いつける可能性を持っている人間は、おそらく今日あそこにはいないだろう。彼らに追いつける可能性を持っている連中は、まだ若く、今日も大学かクラブのプールで泳いでいる。それが現実だ。三年間B決勝だった同世代の人間が、四年目に決勝に進み、なおかつレーンの中央に立つ連中を凌ぐことなど、この世界ではまず起こらない。
「もしもし?」
『どうして電話に出ないの!』
「いまも出るつもりなかったのに、考え事しててうっかり取っちまったよ」
『家? 玲奈も一緒?』
「一緒だけど、寝てる」
『見てた?』
「見てたよ」
『じゃ、なにが起きたかわかってるわね?』
「ナエの悲鳴を聞くのは二度目だな」
『だったら電話取りなさいよ!』
「俺、関係ねえじゃん」
『関係ないかどうか、私が説明してあげようか?』
「彩日香、落ち着けよ」
『落ち着いてるわよ!』
「西江が一緒にいるんだろう?」
『西江になにができるって言うの?』
「なんにもできねえなら意味なくない?」
『あんたに責任あることでしょうが!』
「責任なんてお互いないよ。なにをしているのか、自分たちじゃわかってなかったんだ」
『いまはわかってるじゃないの』
「だから、わかったときにちゃんとやめた。そう説明しただろう?」
『でもナエは倒れたのよ。あの子の中では終わってないのよ。だったらあんたが――』
「ん…だれ?」
 と、玲奈の声がした。
「もう切るぞ」
 大和は一方的に通話を終えて、スマートフォンを部屋の隅に放り投げた。
「彩日香だよ」
「ああ、彩日香さん……」
「玲奈、泊まってけ。ベッドで寝ていいぞ」
「パジャマがない」
「俺のTシャツ着ろ」
「わかった。そうする」
 玲奈は背中を向けてショーツ一枚になると、大和の大きなTシャツを頭からすっぽり被った。それから大和の頬にキスをして、ベッドに入るとまたすぐに寝息を立てはじめた。大和はベッドの脇に立ち、しばらく玲奈の寝顔を上から眺めた。スマートフォンが振動していたが、知らないふりをした。朝まで呼びつづけるつもりかと思うくらいにしつこく振動をつづけてから、すっと黙った。部屋には玲奈の規則的な小さな寝息だけが、ゆっくりと流れている。
 大和はベッドの下から冬用の掛布団を引っ張り出し、カーペットの上に敷いた。クッションを枕にして、毛布をかければ充分だろう。今日は暖かい。もう四月も中旬だ。面倒くさいなあ、と思った。まるっと西江が抱え込めばいいだけのことじゃないか。十年前まで俺とナエがなにをしていたかなんて、西江にはなんの関係もない。あれがトラウマとしてナエの中に潜伏していたとでも言うのか? それを覆い隠していたヴェールが今日のプールサイドで破けたとでも?
 いまさら俺にどうしろっていうんだ? 彩日香、おまえはなにも答えを持たずにただヒステリックに騒いでいるだけだろう? おまえはモロのことだけ考えてればいいんだよ。あいつはこれで現役引退するんだぜ。これからどうやって生きていく? ちゃんと考えろよ。モロと一緒にいたいならちゃんと考えろ。俺とナエのことに関わってる余裕なんて、おまえにはないはずだ。池内はおまえひとりは食わせても、モロも一緒に抱え込むようなことはしないよ。
 玲奈が寝返りを打った。瞬きをしながら眼が開いた。見下ろす大和を見つけ、ふわっと笑った。大和が手を伸ばすと、玲奈はベッドの上を壁際に転がって逃げ、背中を向けた。後ろから腰に手を回すと、くすくすっと笑った。頬にキスをして、首筋にキスをして、乳房を握った。玲奈がくるっと大和に向き直り、大和が抱き寄せた。くすくすっとまた玲奈が笑ったので、大和は乱暴にTシャツを捲り上げた。遠くで救急車のサイレンが聴こえ、遠いままに消えた。
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