第12話 リリアの苦悩
文字数 1,540文字
午後、リリアはシャリルの部屋を訪れた。
シャリルは自室で怒りを爆発させた後であることが、室内の荒れ具合からわかった。
「義兄上 、どうか落ち着いてください…」
「あいつは俺を侮辱した。ゆるせぬ!」
「でも、殿下はヤシマ人の警備を付けることを条件に、ご決意なされたと聞いています。ここはどうか感情を抑えて… 」
「黙れ…。お前ごときが俺に意見するな…」
「はい…。ですが…。ここは私が何とかして彼を説得いたします…」
「お前が?」
明らかに、シャリルは冷静さを欠き、感情を制御できていない。
「フフフ。色仕掛けでもするつもりか? ならば、あんな童貞野郎ぐらい簡単に落とせるかもしれぬな」
リリアは顔をしかめた。
「義兄上…」
「ちっ」
シャリルはワインをグラスに注ぐ。しかし、焦点が定まらず、多くが机の上に零 れてしまう。
グラスを一気に飲み乾 すと、少し落ち着きを取り戻した。
「冗談だ。許せ。どうだ、お前も一緒に飲まぬか?」
「いえ、遠慮させて頂きます…」
シャリルは落胆し、大きく息を吐いた。
額に人差し指をあてて、しばらく考え込んだ。やがて、妙案を思いついた、つもりになった。
「決めた。あの小僧は、もうどうでもいい」
「え? でも、他にヤシマがいませんわ?」
シャリルは、嫌な笑みを浮かべた。
「お前だよ!」
リリアは驚きのあまり、声も出なかった。
「きっとお前なら上手く騙 し通せる!」
「騙すのですか? 殿下やかの国の方々を? 私は絶対に嫌です…」
シャリルがつかつかと歩みより、リリアの顎を指の上に載せた。
「お前が嫌と言える立場か! 誰もお前に意見など求めておらぬ!」
リリアは顔を背けた。
するとシャリルは、いきなりリリアの体を抱きしめた。
「おやめください…」
シャリルは無理にでも唇を重ねようとするが、リリアが執拗に拒んだため、シャリルはさらに腹を立てた。
「おい! 貴様! 俺の妻になることを承諾したのではなかったのか!」
「いえ、それは… 。あの、まだ心の準備ができませぬので…。いましばらく…ご猶予を… 」
シャリルはリリアを突き放した。
「くそ! どいつもこいつも逆らいやがって!」
席に座り、もう一度ワインを飲み乾した。
「いいだろう。小僧を説得できるというなら、やってみろ。だが、説得できなかったときは、お前がヤシマ人になれ」
「…」
「わかったな? わかったらとっとと行け」
「…はい。失礼いたします…」
リリアは部屋の外に出ると服の乱れを正し、大きく息を吐くと、肩を落とした。
両手で自分の頬を叩き、再び胸を張って歩き始めた。
リリアは神妙な顔で、レイの部屋の前に立っている。
右手を肩口の前に上げたまではいいのだが、その次の行動に移れない。
何とか決意を固め、ついにドアにノックをしようとした時、
「あの、お嬢様!」
と囁 く声がした。女中が口に人さし指を立てながら、そっと近寄ってきた。
「今、とてもぐっすりとお休みになられていますので、ご用向きは、もう少しお後になさった方がよろしいかと…」
「そうなの? じゃあ、そうするわ。ありがとう」
「ところでお嬢様、こちらの方、蕃人 さんのようですけど、とてもよい感じのお方ですね。細かいところにも、よくお気づきになって、いちいち褒めてくださいますのよ。本当にお仕えしがいがありますこと。では、お目覚めになられましたらお知らせいたします」
「必ず教えてください。大事なお話があるので。じゃ…」
リリアは一旦自室へ戻った。
ベッドに体を放り投げて、目を閉じた。
レイが眠っているのなら、何も急いで話をしなくてもよい。その間に説得の仕方を考えよう。
しかし、粗雑かと思っていたレイに、そのような繊細な一面があったとは。
なぜか分からないが、少し心が和らいだのであった。
シャリルは自室で怒りを爆発させた後であることが、室内の荒れ具合からわかった。
「
「あいつは俺を侮辱した。ゆるせぬ!」
「でも、殿下はヤシマ人の警備を付けることを条件に、ご決意なされたと聞いています。ここはどうか感情を抑えて… 」
「黙れ…。お前ごときが俺に意見するな…」
「はい…。ですが…。ここは私が何とかして彼を説得いたします…」
「お前が?」
明らかに、シャリルは冷静さを欠き、感情を制御できていない。
「フフフ。色仕掛けでもするつもりか? ならば、あんな童貞野郎ぐらい簡単に落とせるかもしれぬな」
リリアは顔をしかめた。
「義兄上…」
「ちっ」
シャリルはワインをグラスに注ぐ。しかし、焦点が定まらず、多くが机の上に
グラスを一気に飲み
「冗談だ。許せ。どうだ、お前も一緒に飲まぬか?」
「いえ、遠慮させて頂きます…」
シャリルは落胆し、大きく息を吐いた。
額に人差し指をあてて、しばらく考え込んだ。やがて、妙案を思いついた、つもりになった。
「決めた。あの小僧は、もうどうでもいい」
「え? でも、他にヤシマがいませんわ?」
シャリルは、嫌な笑みを浮かべた。
「お前だよ!」
リリアは驚きのあまり、声も出なかった。
「きっとお前なら上手く
「騙すのですか? 殿下やかの国の方々を? 私は絶対に嫌です…」
シャリルがつかつかと歩みより、リリアの顎を指の上に載せた。
「お前が嫌と言える立場か! 誰もお前に意見など求めておらぬ!」
リリアは顔を背けた。
するとシャリルは、いきなりリリアの体を抱きしめた。
「おやめください…」
シャリルは無理にでも唇を重ねようとするが、リリアが執拗に拒んだため、シャリルはさらに腹を立てた。
「おい! 貴様! 俺の妻になることを承諾したのではなかったのか!」
「いえ、それは… 。あの、まだ心の準備ができませぬので…。いましばらく…ご猶予を… 」
シャリルはリリアを突き放した。
「くそ! どいつもこいつも逆らいやがって!」
席に座り、もう一度ワインを飲み乾した。
「いいだろう。小僧を説得できるというなら、やってみろ。だが、説得できなかったときは、お前がヤシマ人になれ」
「…」
「わかったな? わかったらとっとと行け」
「…はい。失礼いたします…」
リリアは部屋の外に出ると服の乱れを正し、大きく息を吐くと、肩を落とした。
両手で自分の頬を叩き、再び胸を張って歩き始めた。
リリアは神妙な顔で、レイの部屋の前に立っている。
右手を肩口の前に上げたまではいいのだが、その次の行動に移れない。
何とか決意を固め、ついにドアにノックをしようとした時、
「あの、お嬢様!」
と
「今、とてもぐっすりとお休みになられていますので、ご用向きは、もう少しお後になさった方がよろしいかと…」
「そうなの? じゃあ、そうするわ。ありがとう」
「ところでお嬢様、こちらの方、
「必ず教えてください。大事なお話があるので。じゃ…」
リリアは一旦自室へ戻った。
ベッドに体を放り投げて、目を閉じた。
レイが眠っているのなら、何も急いで話をしなくてもよい。その間に説得の仕方を考えよう。
しかし、粗雑かと思っていたレイに、そのような繊細な一面があったとは。
なぜか分からないが、少し心が和らいだのであった。