第11話 オーウェン・ジョーンズ 『チャブ』に見る属性差別
文字数 2,796文字
普段男らしいゲイがお酒の席などでつい女性言葉(いわゆるオネエ言葉)を全開にすることを「ホゲる」と言います。
で、基本、他者への礼節を忘れず「ですます調」の文体を使う僕ですが、オーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳「チャヴ 弱者を敵視する社会」については冒頭で思い切りホゲさせて頂きます。
なんなのよ~! これ「敵視」とかじゃなくて単なる「いじめ」じゃん、どうなってんのよイギリス、やってらんないわよ~!
ハア、ハア。すっきりした。
いえ、本書は2012年にイギリスで初版がその後手直しを入れた物が出て、今年日本で翻訳された物が出てネットニュースで取り上げられていたのですね。
で、イギリス在住の方から「本国でも評価が高かった」と教えて頂き、購入した次第。
で良書でした。抜群におもしろい。
でも内容が凄い、というかひどい。もう敵視と言えばいいのかヘイトと呼べばいいのか、単なるいじめなのか、もう怒るの通り越して笑いながらホゲちゃいますよ、やってらんな~い!
と投げ出すわけには行きません。だって皆さんにお薦めしたいから。
とは言え、分厚く内容の密度の濃い本なので、僕のご紹介はごく浅いものだとご理解ください。一生懸命書かせて頂きますけど。
まず皆さん思っておられると想像します、「チャヴってなんじゃらほい?」
チャヴとは
ということになりますが、ろくに英語の発音ができず安いスポーツウェアやパーカーを着てフードを被り、公営住宅に住み働かず福祉を食い物にし、ナイフを持ち歩いて10代で子どもを生む、みたいなイメージが定着しているそうで、これは誤りだということを著者のオーウェン氏は丹念に恐るべき粘り強さで証明して行きます。
そもそもチャヴ・ヘイトが始まったのはそういう言説を垂れ流すサイト「チャヴス・カム」が開設された2003年。
このヘイトにブレーキが利かなかった一因として、「無知な白人労働者階級から移民を守るため」という口実があったようですが、巷間言われるほどの移民差別を白人労働者階級が本当に行ったのかどうか。
チャヴ・ヘイトは名門大学内などで起こりやすいと著者は記しますが理由は次の通りです。
もうやってらんないわよ~! オカマも知られてないから馬鹿にされてきたのよね。フン! 普段、細心の注意を払って使用しないホモとかオカマとか差別のニュアンスを含みかねない言葉を思わず露悪的に使っちゃう、チャヴが他人と思えなくて。
すいません取り乱して。本筋に戻ります。
チャヴというより労働者階級がこのように貶められる始まりはサッチャーの政策によると著者。
1984年に廃坑計画を立て労働者たちのコミュニティが崩壊、代わりに不動産を買って中産階級になれという政策、それで貧乏なら彼ら自身が失敗したからだという理屈。
どっかで聞きましたね、 自 己 責 任 に通じる理屈。
そんなサッチャーさんの有名な言葉、
若い頃そうなのかーって、すっかり騙されたよ! あるよ、社会!
あと移民への待遇と昔からイギリスに住んでいる自分たちへの待遇が違うという不満が労働者階級にあるのは事実みたいです。
でも例えばブレイディみかこさんのイギリスの底辺に関するご本を読んだり、また本書でも、移民と下流階級に表立った対立があると書いてあった記憶はないんですけど、僕。
ちょっとここら辺は本を読んだだけでは分からない、肌で感じる部分がないので保留しますけど、うーん、微妙な問題ですよね、うかつに分析も断定もできない。
それで、著者はリチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット共著「平等社会」の内容、
を紹介するのですが、ベテラン議員は「くだらない」と退けてしまったとか。
僕の読み方・解釈ですが、どうもチャヴはキャメロンやブレア、政治にとって都合のいい生け贄として利用された感じです。
「我々は充分な政策を行っています。貧しいのは彼ら自身の責任なのです」って感じでしょうか。
ブレイディみかこさんは「子どもたちの階級闘争」で
と書き、笙野頼子さんは野間文芸賞受賞作「未闘病記」で「私の本当の敵を突き詰めて行ったら世界経済だった」という趣旨のことを書かれておられ(すいません、正確な引用をしたいのですがどうしても本が見つからなくて。ごめんなさい!)、そして本書の帯には
の惹句が。
うん、今後薬物やアルコール依存の問題はもっと増える気がするし、この前テレビで特集していましたけど、文字の読み書きをできない若者が増えているとか。
介護施設で働いていたとき日本語の読み書きができない利用者がおられたけど、優しくて善良で働き者だったのに生涯貧乏なさっていましたね。
それに、僕が知らないだけでこうした現象は世界のあちこちで見られるのかな、きっと。
本書において著者は訴えます、「ヘイトより希望を」
努力すれば生活がよくなる、仕事が見つかる、そういう希望がなくてどうして馬鹿にされ続けた人間が立ち直ることができますか。
それに言うじゃない、「情けは人の為ならず」って。
自分のためにも希望のおすそ分けしましょ~いま苦しんでいる人がいたら。
もちろん立派なこと言う資格なんてアタシにはないけどさ、それでもできる範囲でさ。最後までホゲが止まんなかったわ。
あ、これは余談です。
90年代くらいまでは、著者も言う通りオアシスとかスウェードとか労働者階級から優れたロックバンドが登場したり、「トレインスポッティング」みたいな映画が生まれる余地があったんですね。
でも今は敵が世界経済、売れない物は出版社やレコード会社は売らないし、でも売れる物と文化的価値を有した物って必ずしもイコールとは限らないし、でも幸い自分たちで電子書籍とか動画とか出せる時代、ゲリラ的に表現を世に発している人々は、今後どんどん増えるんでしょうね。
なんか今さらな予想をしちゃったわ。最後までホゲホゲ。
【追記】
この記事を書いたのは2017年頃でしょうか。
あれから数年、属性による偏見と対立は深化して、自分も自分の中の差別的な部分に自覚的にならざるを得ない状況が続きます。
で、基本、他者への礼節を忘れず「ですます調」の文体を使う僕ですが、オーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳「チャヴ 弱者を敵視する社会」については冒頭で思い切りホゲさせて頂きます。
なんなのよ~! これ「敵視」とかじゃなくて単なる「いじめ」じゃん、どうなってんのよイギリス、やってらんないわよ~!
ハア、ハア。すっきりした。
いえ、本書は2012年にイギリスで初版がその後手直しを入れた物が出て、今年日本で翻訳された物が出てネットニュースで取り上げられていたのですね。
で、イギリス在住の方から「本国でも評価が高かった」と教えて頂き、購入した次第。
で良書でした。抜群におもしろい。
でも内容が凄い、というかひどい。もう敵視と言えばいいのかヘイトと呼べばいいのか、単なるいじめなのか、もう怒るの通り越して笑いながらホゲちゃいますよ、やってらんな~い!
と投げ出すわけには行きません。だって皆さんにお薦めしたいから。
とは言え、分厚く内容の密度の濃い本なので、僕のご紹介はごく浅いものだとご理解ください。一生懸命書かせて頂きますけど。
まず皆さん思っておられると想像します、「チャヴってなんじゃらほい?」
チャヴとは
急激に増加する下流階級
ということになりますが、ろくに英語の発音ができず安いスポーツウェアやパーカーを着てフードを被り、公営住宅に住み働かず福祉を食い物にし、ナイフを持ち歩いて10代で子どもを生む、みたいなイメージが定着しているそうで、これは誤りだということを著者のオーウェン氏は丹念に恐るべき粘り強さで証明して行きます。
そもそもチャヴ・ヘイトが始まったのはそういう言説を垂れ流すサイト「チャヴス・カム」が開設された2003年。
このヘイトにブレーキが利かなかった一因として、「無知な白人労働者階級から移民を守るため」という口実があったようですが、巷間言われるほどの移民差別を白人労働者階級が本当に行ったのかどうか。
チャヴ・ヘイトは名門大学内などで起こりやすいと著者は記しますが理由は次の通りです。
オックスフォードのような場所には、チャブ・ヘイトが広まりやすい。学生の半数近くが私立校出身で、労働者階級から大学に進んだ者はごくごくわずかだからだ。つまり、彼らは下流階級の人々と接したことがほとんんどない特権階級なのだ。よく知らない人のことを馬鹿にするのは簡単だ。
もうやってらんないわよ~! オカマも知られてないから馬鹿にされてきたのよね。フン! 普段、細心の注意を払って使用しないホモとかオカマとか差別のニュアンスを含みかねない言葉を思わず露悪的に使っちゃう、チャヴが他人と思えなくて。
すいません取り乱して。本筋に戻ります。
チャヴというより労働者階級がこのように貶められる始まりはサッチャーの政策によると著者。
1984年に廃坑計画を立て労働者たちのコミュニティが崩壊、代わりに不動産を買って中産階級になれという政策、それで貧乏なら彼ら自身が失敗したからだという理屈。
どっかで聞きましたね、 自 己 責 任 に通じる理屈。
そんなサッチャーさんの有名な言葉、
社会などというものは存在しません。個人としての男と女がいて、家族があるだけです。
若い頃そうなのかーって、すっかり騙されたよ! あるよ、社会!
あと移民への待遇と昔からイギリスに住んでいる自分たちへの待遇が違うという不満が労働者階級にあるのは事実みたいです。
でも例えばブレイディみかこさんのイギリスの底辺に関するご本を読んだり、また本書でも、移民と下流階級に表立った対立があると書いてあった記憶はないんですけど、僕。
ちょっとここら辺は本を読んだだけでは分からない、肌で感じる部分がないので保留しますけど、うーん、微妙な問題ですよね、うかつに分析も断定もできない。
それで、著者はリチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット共著「平等社会」の内容、
不平等が進んだ社会ほど犯罪や疾病など社会問題をより多く抱えていることを示している。
を紹介するのですが、ベテラン議員は「くだらない」と退けてしまったとか。
僕の読み方・解釈ですが、どうもチャヴはキャメロンやブレア、政治にとって都合のいい生け贄として利用された感じです。
「我々は充分な政策を行っています。貧しいのは彼ら自身の責任なのです」って感じでしょうか。
ブレイディみかこさんは「子どもたちの階級闘争」で
EUは欧州国どうしの戦争は終わらせたが、人間対資本の戦争を引き起こしたように見える。それはじりじりと進行し、まるで当然のように人間が負け続けているが、いったいこんなことがいつまで続くのだろう。
と書き、笙野頼子さんは野間文芸賞受賞作「未闘病記」で「私の本当の敵を突き詰めて行ったら世界経済だった」という趣旨のことを書かれておられ(すいません、正確な引用をしたいのですがどうしても本が見つからなくて。ごめんなさい!)、そして本書の帯には
イギリスがたどった道は日本がこれから歩む道
の惹句が。
うん、今後薬物やアルコール依存の問題はもっと増える気がするし、この前テレビで特集していましたけど、文字の読み書きをできない若者が増えているとか。
介護施設で働いていたとき日本語の読み書きができない利用者がおられたけど、優しくて善良で働き者だったのに生涯貧乏なさっていましたね。
それに、僕が知らないだけでこうした現象は世界のあちこちで見られるのかな、きっと。
本書において著者は訴えます、「ヘイトより希望を」
努力すれば生活がよくなる、仕事が見つかる、そういう希望がなくてどうして馬鹿にされ続けた人間が立ち直ることができますか。
それに言うじゃない、「情けは人の為ならず」って。
自分のためにも希望のおすそ分けしましょ~いま苦しんでいる人がいたら。
もちろん立派なこと言う資格なんてアタシにはないけどさ、それでもできる範囲でさ。最後までホゲが止まんなかったわ。
あ、これは余談です。
90年代くらいまでは、著者も言う通りオアシスとかスウェードとか労働者階級から優れたロックバンドが登場したり、「トレインスポッティング」みたいな映画が生まれる余地があったんですね。
でも今は敵が世界経済、売れない物は出版社やレコード会社は売らないし、でも売れる物と文化的価値を有した物って必ずしもイコールとは限らないし、でも幸い自分たちで電子書籍とか動画とか出せる時代、ゲリラ的に表現を世に発している人々は、今後どんどん増えるんでしょうね。
なんか今さらな予想をしちゃったわ。最後までホゲホゲ。
【追記】
この記事を書いたのは2017年頃でしょうか。
あれから数年、属性による偏見と対立は深化して、自分も自分の中の差別的な部分に自覚的にならざるを得ない状況が続きます。