カフェ・アイリス4 猫とカウンター

文字数 8,072文字

 今日も私は喫茶店アイリスの分厚い1枚扉を開き、その店内に足を踏み入れる。それと同時に芳しい珈琲の香りが世界を満たす。完全に調和がとれたようなまろやかな香り。これはブルーマウンテン?
 そう思ってカウンターの上の『本日の珈琲』を見ると『クリスタルマウンテン』。残念、キューバか。これはキューバにあるエスカンブライ山脈という高知で栽培されているのだそうな。それで前にマスターにブルマンとキューバはよく似ているのですよと教わったことを思い出す。

 私がこの喫茶店アイリスに通い初めてそろそろ半年くらい経つ。
 私がこの店に通う目的。それはこの喫茶店全体に広がる(かぐわ)しき珈琲でもなく、懐かしい純喫茶の風情でもなく、いや、それはもちろん素敵であるのだけれど第1番は慣れた手付きでポットをかき回すマスターなのだ。
 このあたかも時代に取り残されたようなレトロな喫茶店は40年以上ここでお店を開いているマスターというピース抜きでは語れない。
 マスターは私の推しであり、私はマスターに会うために足繁くこの喫茶店アイリスに通い詰めているのである。
 そして入り口の開く音を聞いたマスターは不意に手元から目を上げた。尊い。

「いらっしゃいませ、吉岡(よしおか)様」
「こんにちは、マスター。本日の珈琲をお願いいたします」
「わかりました、少々お待ち下さいね」
「にゃあ」

 想定外の音がした。
 私の目はマスターしか映していなかったわけだが、音につられて目をカウンター沿いに横に滑らせると、そこには一匹の灰色猫が伸びをしていた。
 なぜ猫?
 猫好きだけど。
 手を伸ばしてみたらフイと反対を向いてカウンターの内側に飛び降りる。ずるい。私もそっち行きたい。

「お待たせ致しました」
「その猫どうしたんです? アイリスで飼うんですか?」

 珈琲の優しき香りに陶然としていると、マスターは少し困ったように眉尻を下げて僅かに首を振った。

「それが今朝店を開けますとサバカンがドアの前におりまして、そのままするりと店内に入ってきてしまったのです」
「鯖缶?」
「ええ、首輪のところにそのように」

 サバカンという声に反応したのか猫がニャァと鳴いて再びぴょいとカウンターに上がってきた。そしてキャメル色の革の首輪に『Ça va!can!』と彫られている。

「サバカンって変な名前ですね」
「名前ではないかもしれません」
「そうなんですか?」
「ええ。Ça vaというのはフランス語で『大丈夫』という意味なのです。canは英語で『できる』。だからこの革の首輪にもともと描かれているデザインなのかもしれません。フランス語と英語を組み合わせるというのも妙ですので名前なのかもしれませんが」
「でも今サバカンって呼んだらやって来ました」

 マスターはサバカンをちょっと眺める。
 サバカンはにゃぁと不満そうに鳴く。マスターがカウンター下から何かを取り出そうとするとサバカンはそわそわと足をふみふみして、マスターが開封済のサバ缶から少しだけ皿に取り分けると、嬉しそうに鳴いてガフガフとサバ缶の中身を食べ始めた。

「鯖缶が好きなだけかもしれません」
「うーん……」
「とりあえず閉店後に町内会長と交番に相談に行く予定です。首輪があるので迷子ではないかと思うのですが」
「猫は外に自由に歩かせている家もあるらしいので、そのうち出ていくのかもしれませんね」
「半野良猫というのはこのあたりもよくおりますけれども、この近くでサバカンを見たのは始めてなのです。珍しい姿をしていますから居れば気がつくのかなと」

 サバカンはいわゆるサバトラという猫だ。白っぽいベースに黒のシマシマでホワイトタイガーみたいな柄、それに目が青で格好いい。サバトラだからサバなのかな。
 確かに綺麗といえば綺麗な猫で、歩いていれば目を引く気はする。かといって店を開けたらいた、ということだから店前に捨てられていたわけでもないらしい。

「食品衛生法で動物を飲食店内に入れるのはよくないそうなのです。特に厨房であるカウンターの内側には。けれどもこの子は止める間もなくするりと入ってしまうので困ってしまうのです。吉岡様、なにか良いお知恵をおかし頂けますでしょうか」

 うひょー! よいお知恵ですって!
 推しに頼られるとか推し冥利に尽きるとはこのことだ。なんとか解決に導かねばなるまい。
 先程から観察した結果、マスターは猫嫌いではない。けれども本当に困っているようだ。
 先程も触ろうとしたらカウンターの内側に逃げていた。
 マスターを困らせるとは極悪猫である。早く……首輪をつけてるってことはやっぱり飼い主がいるってことだよな。それにどことなく毛並みも綺麗だ。

「このサバカンは手入れされている感じがあります。飼い主の方はきっとサバカンを大事にしていると思います。探しているかもしれません」
「なるほど。それはそうかもしれませんね」
「猫の移動範囲はそれほど広くないと聞いたことがあります。サバカンが迷い猫だとしたら家はこの近くでしょうから、写真を撮って迷い猫の張り紙をしてみてはどうでしょうか」
「ええ、おっしゃる通りです。早速そういたしましょう」

 それで私がスマホで写真をとってコンビニでネットプリントしている間にマスターがA4サイズの紙に綺麗な枠囲い(フレーム)を書いて店の地図と連絡先を書き込んでいた。

★Ça va canと描かれたサバトラの雄猫をお預かりしております。
★お心当たりがある方がいらっしゃいましたら何卒ご連絡頂けますよう、お願い申し上げます。
★当方は喫茶店でございますので、長期間お預かりし続けることは出来かねます。

「わぁ。素敵です。特に地図!」
「40年もここにおりますと地図はなにかと書き慣れておりますので……」
「どのくらいの期間預かれるものなのでしょうか」
「そうですね、本当はすぐにでも保健所に連絡したほうがよいのでしょうが、サバカンは本日最初のアイリスのお客様でもありますので、あまり無碍には扱いたくはないのです」

 マスターは本当に困ったように眉を下げた。
 私の家はペット禁止だから預かれない。

「私がきっとサバカンの飼い主を見つけます!」
「いえ、それでは吉岡様に大変なご迷惑をおかけすることに……」
「何とか! 何とか探しますのでッ!」

 思わずフンスと鼻息が出た。
 マスターはぱちくりと目を瞬かせ、そしてまた申し訳無さそうに頭を下げた。いえ! 推しの役に立つことが使命ですからかえって申し訳ございません!
 何やらよくわからないままお互いお辞儀の応酬をして、マスターの作ったチラシの枠囲いの中に印刷したサバカンの写真を配置していく。その間にマスターに奢りですと珈琲を入れていただいた。推しに奢られるとは恐縮至極なのであるがその穏やかな珈琲の香りは優雅な午後に至福をもたらすのであるし既に入れて頂いたのだからと深く感謝しつつ頂くしか無い。尊い。

 マスターに奢って頂いた尊すぎる珈琲の残りは大切にとっておくことにして、馥郁たる香り漂う空間に浸りつつ、マスターと会話をしながらチラシに仮置きした写真をノリでペタペタと張って、なかなか綺麗に貼れましたね、そうですねと推しとの至福会話という究極の幸福を味わっていたところでガチャンと音がして振り返ると、サバカンがマスターが淹れてくれたコーヒーを蹴飛ばしたところだった。
 畜生! てめぇ!
 心の声が漏れるのを必死に抑える。
 カウンターに染みが広がる前にと手近にあったナプキンで拭こうと手を伸ばすと、私の怒気と殺気に慄いたサバカンは私の頭をピョイと超えてタタタとカウンターをまっすぐ走り、その端からすてんと床に降りた音がした。

「あっ」

 推しの呟き尊い。
 そう思って振り返ると、サバカンが走ったルートに沿って珈琲で濃茶に染まった足跡が転々とついていて、それはチラシを横切っていたことに愕然とする。
 猫の足跡って本当に平たいとこと4つの指跡がつくんだなと思う一方、私とマスターの共同作になんてことをしてくれるんじゃぁと怒りに僅かに震えていると、客席の椅子の下に潜り込んだサバカンはこちらを向いて申し訳なさそうににゃあと鳴いた。

「あの吉岡様、これはこれで良いような気もします」
「はい?」
「かえって目立つのではないでしょうか?」

 そう言われて見たチラシの足跡は写真と文字の絶妙な境目を縫っていた。うーん、目立つと言えば目立つ、のかな。猫の足跡なんてスタンプやマスキングテープになるほど人気のあるものではある。……許す。
 そして私は完成したチラシをコンビニで数枚コピーして、マスターから貼っていいと確認した町内や行政の掲示板にペタペタと貼ってきた。
 これで見つかるかなぁと思ったけれど、1週間経っても新しい情報は入っては来なかった。その間、サバカンはアイリスに居着き、日中はマスターと一緒にいる。羨ましい。

 その1週間の間、私も何もしなかったわけではなかった。
 SNSで情報を流してみたり探してみたり、保健所や警察に届け出たり、お昼休みや仕事後に近所の動物病院に写真を持って知りませんかと尋ねたりしていた。けれども全然手がかりはなかった。
 マスターに言うと恐縮されてしまうのでとても言えはしないのだけれど。

「見つかりませんねぇ。本当に困りました」
「にゃぁ」
「サバカンはちっとも困ってないみたいですね」

 困るべきだ。マスターの手前、そこまでは口には出さないけれど、マスターの悩みの種になっているとはとんでもない。
 けれどもサバカンも1週間も経つとカウンターの内側に降りるとマスターが困ることを学習したのかカウンター上が定位置になっていた。だから文句も言い出しづらい。
 ひょっとしたらこいつは悪の秘密組織に注射でも打たれて猫の姿になっているだけで本当は喪女とかではないだろうかと思うとその注射を打たれて自分もアイリスに入り浸りたいという気分にもなるものだ。

「餌代もそれなりにかかるので、代わりに飼って頂ける方を探そうかなと思いまして」
「そういえば鯖缶って結構しますよね」
「ええ。他にも与えていますが安い餌は食べてくれないのです」

 なんですと。ブルジョワジーめ。
 マスターも商店会や近所の住民に聞き込みをしてみたけれど、サバカンを知る者も姿を見た者もいないらしい。

「近所の人もみんな知らないんだとしたら、どうしてサバカンはアイリスの前にいたんでしょう。そこに何かヒントがあるような気がします。初心に立ち返りましょう」
「ヒント、ですか……。それまで見たことはなかったのですが。そうですね、確かに敷石の前にきちんと座って、アイリスが開店するのを待っていたようでした」
「アイリスの開店は7時でしたっけ」
「ええ。そうです。開けるとすぐにモーニングのお客様がいらっしゃいます」

 モーニングにアイリスに来るのは夢だ。私の職場はアイリスとは正反対の方角なので平日には来れない。流石に有給を取ってモーニングに来るというのも何か違う気はするし、そこをやってしまうと歯止めが効かなくなる気がするから自重している。
 アイリスは官庁街のど真ん前だから平日以外はだいたい休みだから機会はない……。

「近くの人が知らないなら、どこか遠くから来たんでしょうか。それでこのお店の匂いを知っていた、とか」
「匂い、ですか。珈琲にはこだわってはおりますが、そこまで違いが感じ取れるものかは疑問に思えます」
「でもでも! 猫は嗅覚が鋭い? のでは?」
「そういえばあの日はクリスタルマウンテンですね。確かに珈琲の中でも香りは高いものではありますが」

 そう言ってマスターはクリスタルマウンテンをドリップしてカウンターに置くとサバカンはにゃぁと鳴いた。鳴き声の違いはよくわからない。
 サバカンがいつもどおりぐるぐると喉を鳴らしながら顔を撫でるのを見ながら、マスターは珈琲はそのまま、サービスです、と私の目の前に置いた。
 至福。

「吉岡様、飼い主がわかったかもしれません」
「マスター?」
「いつもモーニングにいらっしゃるお客様がサバカンが来たころからお見えになっていません」
「そ、それは遠くの方なのでしょうか!!
「いえ、県庁にお勤めの方なのですが、1週間程度の出張も多い方なのでそのパターンかと思っておりました。その相澤(あいざわ)様という方はいつもクリスタルマウンテンをお飲みになられていたのです」

 えっお金持ち。
 クリスタルマウンテンは単品で頼むととても高いのだ。1杯850円もする。ブレンド、アメリカン、本日の珈琲が500円だから私はその時くらいしか飲めないというのに!
 そういえばサバカンは高い餌しか食べないんだっけ。それにパッとト見のホワイトタイガー感も高級感漂う。
 県庁というと公務員、お金持ち、首輪もサバカンからも飼い主は何となく綺麗なお姉さん感がする。ぐああ全てが負けている⁉
 それで毎朝マスターとモーニングを?
 私が500円貢いでいるところを850円貢いでいる?
 脳内で打ちのめされた気分。勝ちようがないではないか!

「でも困りました。県庁は平日のみです。営業時間中ですからお尋ねするわけにはいきませんし」
「私がいきます! 私が!」
「吉岡様が? けれども吉岡様もお仕事では」
「いえ! 明後日たまたま有給をとっておりまして!」
「そんな、せっかくのお休みなのに」
「午後から出かける予定があって!! それで午前なら全然オッケーです!!

 当然ながら予定なんて全然なく、そもそも有給は明日申請する予定だがきっと通るだろう、いや、推しのためなら通してみせるのだ。うちの会社はそれなりに緩いから助かった。
 歯止めが効かなくなる?
 これは推しのためであり、だから特別なのだ! 毎日来るわけではない! 来たいけどさ。

 それでその翌々日。
 課長にはもっと早く申請しなさいとかブツブツいわれたが、遠くの親戚が危篤になったと不謹慎なことを呟いてしまい、何故か午後休をもらってしまった。
 うちの会社は緩いと思いながらなんだかとても居たたまれなくなり、会社を飛び出して早速県庁を目指す。

 観光課は5階。相澤伊織(いおり)。30後半。
 名前からもスラリとした美人しか浮かばないアレ。
 ハァ。こちらはしがない会社員だ。なんとなく比較対象にすらならない感が満々である。ハァ。

 ため息を付きながら観光課に足を踏み入れると雑然としていた。カウンターに近寄れば、同い年くらいの髪を短くカットした若い女性が席を立つ。名札を見ると『相澤』じゃない。
 この中に『相澤伊織』がいるのかと思ってぐるぐる見回すと女性は何人かいて、みんな美人だった。ハァ。

「本日はどのような御用でしょうか」
「えっと、あの、相澤さんはいらっしゃるでしょうか」
「相澤は生憎休みを頂いておりまして」
「お休み……。あの、実はこの猫が相澤さんの猫じゃないかという話がありまして。その、今喫茶店で預かっているのですが長期の預かりが難しく」
「えっ」

 鞄から毎日持ち歩いているチラシを取り出しカウンターに広げる。

「ああ、これはアイリスさんの……。この猫が相澤さんの……?」
「何かご存でしょうか」
「その、今相澤さんは休みをとっておりまして、ただ猫がいなくなって心配だ心配だと騒いでおりまして、その」

 カウンターでそんなやり取りをしていると次第に職員が集まって来た。

「え、相澤さんの猫ってこの猫なの?」
「全然ミケじゃないじゃん」
「でも相澤さんでしょ? あの人、柄とか気にしないでしょ」
「あー名前適当につけそうな印象」

 個人情報だから秘密ね、と言われて聞いた内容は、相澤さんは10日程前に出張先で事故にあった。怪我自体は軽傷なものの意識が戻らないので緊急入院したそうだ。
 それで5日経過して目を覚まして驚天動地して、医者に止められながらも真夜中にも関わらず隣県からタクシーを飛ばして自宅に帰り、飼い猫の『ミケ』がいないことに気がついてそっからは屍のように引きこもっているらしい。
 どんだけメンタル……いや、大事な飼い猫がいなくなったらそのくらい取り乱しても仕方がないのかも。

 それで安静にしていたほうがいいのは間違いないから自宅療養という扱いにしているけれど、真に何もしないから毎日誰かがご飯を買って夜に持っていきつつ、課内全員で『ミケ』を探し回っていたらしい。
 サバカンはトラであっても三毛じゃないよな。そもそも2色だし。いや、目の青もいれたら3色ではあるのか……。

 なんだか盛大にすれ違ってたようだけれど、とりあえず今晩職員が相澤さんを尋ねてチラシを持って聞いてみる、ということになったそうだ。
 それで該当すればアイリスに直接連絡をいれるとのことだった。

 明けて朝。
 今日は有給を取ったけれど、本来今日すべきことは既に昨日のうちにやり終えて、その相澤さんが飼い主なら恐らくアイリスに連絡が行っているだろう。
 それで今私は猛烈に悩んでいる。
 アイリスでモーニングに行く。そうすればその相澤さんとバッティングする可能性がある。何故なら相澤さんはアイリスの朝の常連らしいからだ。
 昨日県庁で聞いた話を自分の頭の中で思い浮かべると、相澤さんは仕事はめちゃめちゃできるけれどちょっと抜けたところがあって、皆にご飯を買ってきてもらえるほど愛されている。

 その人と比較されるのか……。
 自分のポンコツぶりが中々刺さる。いや、行こう。
 せっかくの有給だ。これを逃すと恐らく行く機会などない。
 なのでまあ、普段着の中でもちょっと上等な綺麗めの服を来て、とりあえず出かけた。

 平日のアイリスの朝はそれなりに賑わっているようで、窓ガラスからお客さんがたくさん入っているのを見かけた。いつも喜び勇んで開けているアイリスのドアに手をかけ、ちょっとだけ躊躇うのだ。
 いや、私は推しの役に立てればそれでいいのだ。
 そう思って押し開けた扉はカラリと音を立て、代わりに内側からふわりと珈琲の香りが漂った。これはブルマン……じゃなくてクリスタルマウンテン?

 きょろきょろと見渡すとカウンターの上にサバカンがいた。サバカンじゃなくてミケなんだっけ。ともあれまだ来ていないか、違う猫だったか。
 そう思ってマスターを見るとニコリと微笑まれた。尊い。

「いらっしゃいませ、吉岡様」
「本日の珈琲をお願い致します」
「もちろんですとも」

 いつもどおりカウンターに腰掛けるとミケがニャンとないた。三毛、じゃないよな。

「相澤様、こちらの方が吉岡様ですよ」

 その瞬間、隣に座っていたおっさんと目が合って、次の瞬間強烈なタックルを受けた。

「ぎゃあぁあ何だ? 何‼︎」
「ありがとう! ありがとう! あんたがいなければ!」
「相澤様おやめ下さい!! 警察を呼びますよ!!
「助け……相澤さん?」

 慌てて離れる『相澤』さんはなんかイケオジだった。
 やけに彫りが深く身長は180ほど、きりりとした眉毛に通った鼻筋、澄んだ切れ長の瞳に鍛えてるっぽい体格。めっちゃモテそう。
 あれ? 相澤さん? うん? 男? 伊織って男名だっけ。
 そして気づくと相澤さんはアイリスの床に綺麗に土下座していた。

「吉岡様。ありがとうございます。この相澤伊織、吉岡様のためであれば炎の中でも」
「相澤様、本当におやめ下さい。吉岡様が困っていらっしゃいます」

 今朝マスターがアイリスを開けようとすると入り口でミケと同じように相澤さんが土下座をしていたらしい。慌てて店にいれるとミケに飛びつこうとしてミケはぴょんと逃げていったようだ。塩対応らしい。
 ともあれ、その日、お礼は号泣する相澤さんにモーニングを奢ってもらうという羞恥プレイで落ち着いた。なんか愛されそうな人だなとは思った。
 ともあれ相澤さんがライバルでないことにホッとした。

 以降、ミケはたまに相澤さんの家を脱出して朝アイリスの前に行き、相澤さんがミケの所在を確認して出勤することがたまにあるそうで、アイリスでたまにミケを見かけることがある。
 ライバルは結局増えたままである。

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