カフェ・アイリス2 メロンソーダなアラモード
文字数 4,465文字
樫の木の少し重いドアをキィと開けると、今日もカフェ・アイリスには芳醇な香りが漂っていた。
このチョコレートっぽい香りはエチオピアの……多分ハラー?
そう思って『本日の珈琲』を見るとカファだった。惜しい。
でも私がコーヒーを飲むようになったのはこのカフェ・アイリスに通うようになってからだ。だからまあそんなに経ってないし全然有り。それで早速『本日の珈琲』を頼もうと口を開こうとした時、私の推しマスターの笹川 さんと目があった。
「吉岡 様。よろしければ本日はメロンソーダは如何でしょうか」
「め、めろんそーだですか?」
「吉岡様がこれまでジュース類を注文されたことがないとは記憶しているのですが、今回はサービスに致しますので」
お、おう。マスターがいうのであれば私は何でも飲みますとも!
何故ならば私が『本日の珈琲』ばかり頼むのは最初にきたときにマスターが『本日の珈琲』をおすすめしたからですので! なんならこれから毎日メロンソーダでもよろしいですよ!
という気持ちはとりあえずおいておいて。
「はい、それでは是非」
「どうぞ。お口に合えばよろしいのですが」
マスターが作ってくれた飲み物が口に合わないわけがないじゃないですか!
そういえば言い忘れていたような気はするが、私はマスター推しでほぼ毎日のようにこのカフェ・アイリスに通っている。とはいえ別にマスターを狙っているわけではない。そんな烏滸 がましい。
私はこのなんだか、時代に取り残されたような喫茶店に泰然と佇む、このオークの一枚板のカウンターのような渋さに溢れているけれどもなんだかちょっとかわいい60代のマスターを愛でているだけでそれで満足なのだ。
そしてプチプチと泡のはじける明るいグリーンの液体に口をつける。
うん、普通のメロンソーダ! 普通の……。
なんとなくマスターの珈琲を飲み慣れた私にとってはちょっと物足りない。
そう考えると私はマスターの味に馴染んでしまっているのだな、それはそれで自己満足感が酷く高い……。けれどもマスターは私をじっと見つめている。それはそれで萌えキュンなんだけど。
こういう場合は忖度せずに正直に話したほうがいいよね。
「えっと、普通にメロンソーダです」
「そうですよね」
「あの、何かメロンソーダに問題が?」
マスターは少し考えるように首を傾けた。萌え。
「私が若いころには若い女性はみなさまメロンソーダやクリームソーダをご注文いただいていたのです。けれども最近はほとんど出なくなってしまって。炭酸ものですから一度開けてしまうとなかなかもたないのですよね。それでメニューから外してしまおうかと悩んでおりまして」
「な、なるほど?」
ウホー! マスターの若い頃とか! 妄想滾 る。
それはそうとしてメロンソーダ、か。私は別にメロンソーダが嫌いなわけじゃない。けれども別にわざわざ高い金を出して喫茶店で飲もうとは思わない。だって自販機で売ってるもの。そしてクリームソーダは明確に嫌いだ。私は珈琲を飲むときでもブラック派だ。クリームソーダはなんていうか、あの時間が立つにつれバニラアイスがソーダに溶け出してなんだかもったりしたというか中途半端な味になっていくのがどうにも我慢できない。出されて速攻で食べてしまってもあの白いのがちょっと残ってしまうわけだしそれなら別でアイスを頼みたい。
つまり私にこれを聞くのは完全にミスディレクションなのだ。
「私にはよくわからないですけど、なんといいますか私は折角喫茶店に来たのなら珈琲を飲みたいな、と」
「ありがとうございます。喫茶店冥利につきます」
マスターのほのかな笑顔に昇天しそうです。
でもメロンソーダかぁ。そもそもメロン成分は色しかないよね。昔はメロンは高価だったから流行ったのかな。それともこのどぎつい緑色? なんとなく少し尖ったカップをなでながらどうしたものかなと思う。
「そうですねぇ、最近はインスタ映えとかありますからやっぱりきれいな色のは流行ると思うんですが」
「いんすたばえですか……」
そう思って店内を見回す。ここはおしゃれなカフェではなくオールドクラシカルな落ち着いた喫茶店なわけで、それはそれでインスタ映えはするといえばするのだけどオシャレ感の方向性は少し違う気がする。
「吉岡様はその、いんすたばえのする喫茶店にはよく行かれるのでしょうか」
「え、ええまぁ。たまには」
「あの、もしよろしければ……そのいんすたばえのするメロンソーダのある喫茶店に連れて行っては頂けないでしょうか。誠に恐縮なのですがその、流行りの喫茶店というものに興味はあるのですが一人では入れなくて」
固まった。
それは、それはひょっとしてデートのおさそいなのでせうか!!!!!?
マスターの少し恥ずかしそうなもじもじする表情は何かをとてもそそる。
「あの、やはり駄目ですよね。申し訳有り」
「だだだだだだだ大丈夫ですッ‼‼‼ 光栄でありますッ!」
思わず固まってしまって返事を怠ってしまい申し訳有りませんッ!
ホッとした顔のマスターがまた萌ゆ。
ええとそうすると、どうすればいいんだ?
万難を廃してマスターの役に立つカフェを探さねばならなぬ。
私は家に帰る途中の本屋で神津のカフェブックを買った。ここからもっともマスターのお役に立てそうなカフェを探すのだ! マスターはご高齢であられるからおそらくカフェの梯子は難しいだろう。となれば私がこの本の中にあるカフェのなかで面白そうなメロンソーダのある店を片っ端から巡らねばならない。
フンス!
そこで私は友達を呼び出して片っ端からカフェ巡りをした。
もちろん私はそんなにメロンソーダを飲めない。そもそも好きなわけではない。がぶがぶになってしまう。だから私は1番小さいカップのエスプレッソショットを頼んで友人が頼むメロンソーダを一口だけもらうのだ。
10店舗も周る頃には私はちょっとイガイガしていて、友人はブクブクしていた。
だが友人の貴重な犠牲によって私はとうとうマスターと訪れるカフェを1つ選びぬいたのだ! いろいろな要素が詰め込まれたものがいいかと思って。
◇
「ここがそのカフェですか」
「はい。クウェス・コンクラーウェといいます。少し遠くてすみません」
「いえ、神津の近くであれば行くこともあるかもしれませんが電車に乗り継いでまでは来ませんので。」
神津駅から急行にのって20分で辿りついた辻切中央駅から約10分程歩いたところにあるオシャレカフェ。
やや高級ではあるけれど、アイリスと同じく市街にあるカフェ。ホテルや高級住宅地にあるようなアイリスとかけ離れたカフェでもない。だから参考になるだろう。
オープンテラスに続くエントランスをくぐるとそのままカウンターに繋がりそこで注文をして奥のカフェスペースに抜けていく。『都市の中にある緑』がコンセプトの広い店内は自然採光に溢れ、それを遮らないようラティスで自然に区切られてそこに緑がからまっている。まるで森の中にいる感じ。
カフェ・アイリスもウッディな感じではあるけれど、あちらは木造の木でできた家っていう感じだから少し違うかな。開放感というよりは御籠もり感というか。
マスターはメロンソーダを頼み、私はスペシャルメロンソーダを頼んだ。
マスターはお金を払おうとしたけれど、私の中ではこれはお仕事のお手伝いではなくマスターとのデートなのでお金は自分で払うのだ! 対等な感じで。
スペシャルメロンソーダは1400円するから結構お財布にもダメージなのだけれども推しとは貢ぐためにある。
スペシャルは時間がかかるのでマスターだけメロンソーダを受け取って席につく。
それにしても渋いマスターがメロンソーダを飲んでいるのはなんだかグっとくる。
「濃いめのメロンソーダのシロップに少しだけジンジャーが混ざっているのですね」
「美味しいですか?」
「ええ。これは面白い発見です」
マスターの柔らかな微笑みに恐縮する。
すいません、尖ったのしか頼んでなくて普通のは見落としていました。
そうこうしている間に店員がスペシャルメロンソーダを掲げてやってくる。
マスターは驚愕に口をぽかんとあける。いつもと違う髭角度、萌ゆ。
ここのメロンソーダはメロンソーダの名前を冠しているが実際はメロンパフェなのだ。
クリームこそ入ってはいないけど、そこにはメロンの果肉の16切りがドンと刺さり、3種類くらいのメロンが球や橋やハートの形にカットされたものがメロンソーダの中におもちゃのように浮かび、そのソーダを挟んだ下にはメロンジュレ、ソーダの上にはメロンソルベが浮かんでいる。まさにメロンづくしの全部のせ! この中でどれか流用できるようなポイントがあればいいと思ったのだけど。
……でもよくかんがえるとそもそもメロンに特化するのはひょっとして……違ったのだろうか。
ぽかんとしたマスターの顔を見ていて不安になった。
そうだよね、費用対効果を考えればカフェ・アイリスでこんな豪華なパフェは似合わないし
なんだかせっかく遠出してもらったのに申し訳ないような、気がして、推しとデートしたかったし、ええと。
恐る恐る顔を上げるとマスターはふっと微笑んだ。
「ありがとうございます。私ではこのような発想は浮かびませんでした」
「あの、なんていうか、私はその、マスターのお役にたちたくて」
「ええ。とても勉強になりました。ありがとうございます。けれどもアイリスのメロンソーダはベーシックなものが合っているのかなと思い直しました。ここのメロンソーダもとても美味しゅうございますが、アイリスはこれほどお洒落ではありませんので」
確かにジンジャー風味のメロンソーダなんて昭和の香り漂うアイリスにはそぐわなかったかも。失敗した。申し訳ない。くぅ。
「吉岡様。本日はお誘いいただきまして誠にありがとうございました。吉岡様のメロンソーダを拝見して、ミニプリンアラモードに季節ごとに果物を絞ってジュレを添えるのも良いかと思いまして」
「プリン、アラモード」
「はい。あれもそれほど数は出ないので果物の廃棄が出てしまい、少々残念に思っていたところです」
アイリスのミニプリンアラモードはプリンを中心に生クリームとさまざまな果物がちりばめられている。3、4種類はフレッシュフルーツが入っている。毎日用意しているのだろうからコスパはよくなさそうだ。
「あのメニューも一度はやめようか悩んだのですが、やはりお恥ずかしながら流行 というものはいつまでも追いたいなと思っておりますので」
少し気恥ずかしそうなマスターにキュン死する! ぐふふ。そういえばマスターはこないだもラテアートにトライしていた。
そして次にアイリスに行ったとき、丸くくり抜かれたメロンと生クリームとジュレが綺麗にトッピングされていて、真ん中にプリンが載っていた。
食べる前から美味しいことが約束されている。
「どうでしょうか」
「すごくオシャレでアラモードな感じです!」
Fin.
このチョコレートっぽい香りはエチオピアの……多分ハラー?
そう思って『本日の珈琲』を見るとカファだった。惜しい。
でも私がコーヒーを飲むようになったのはこのカフェ・アイリスに通うようになってからだ。だからまあそんなに経ってないし全然有り。それで早速『本日の珈琲』を頼もうと口を開こうとした時、私の推しマスターの
「
「め、めろんそーだですか?」
「吉岡様がこれまでジュース類を注文されたことがないとは記憶しているのですが、今回はサービスに致しますので」
お、おう。マスターがいうのであれば私は何でも飲みますとも!
何故ならば私が『本日の珈琲』ばかり頼むのは最初にきたときにマスターが『本日の珈琲』をおすすめしたからですので! なんならこれから毎日メロンソーダでもよろしいですよ!
という気持ちはとりあえずおいておいて。
「はい、それでは是非」
「どうぞ。お口に合えばよろしいのですが」
マスターが作ってくれた飲み物が口に合わないわけがないじゃないですか!
そういえば言い忘れていたような気はするが、私はマスター推しでほぼ毎日のようにこのカフェ・アイリスに通っている。とはいえ別にマスターを狙っているわけではない。そんな
私はこのなんだか、時代に取り残されたような喫茶店に泰然と佇む、このオークの一枚板のカウンターのような渋さに溢れているけれどもなんだかちょっとかわいい60代のマスターを愛でているだけでそれで満足なのだ。
そしてプチプチと泡のはじける明るいグリーンの液体に口をつける。
うん、普通のメロンソーダ! 普通の……。
なんとなくマスターの珈琲を飲み慣れた私にとってはちょっと物足りない。
そう考えると私はマスターの味に馴染んでしまっているのだな、それはそれで自己満足感が酷く高い……。けれどもマスターは私をじっと見つめている。それはそれで萌えキュンなんだけど。
こういう場合は忖度せずに正直に話したほうがいいよね。
「えっと、普通にメロンソーダです」
「そうですよね」
「あの、何かメロンソーダに問題が?」
マスターは少し考えるように首を傾けた。萌え。
「私が若いころには若い女性はみなさまメロンソーダやクリームソーダをご注文いただいていたのです。けれども最近はほとんど出なくなってしまって。炭酸ものですから一度開けてしまうとなかなかもたないのですよね。それでメニューから外してしまおうかと悩んでおりまして」
「な、なるほど?」
ウホー! マスターの若い頃とか! 妄想
それはそうとしてメロンソーダ、か。私は別にメロンソーダが嫌いなわけじゃない。けれども別にわざわざ高い金を出して喫茶店で飲もうとは思わない。だって自販機で売ってるもの。そしてクリームソーダは明確に嫌いだ。私は珈琲を飲むときでもブラック派だ。クリームソーダはなんていうか、あの時間が立つにつれバニラアイスがソーダに溶け出してなんだかもったりしたというか中途半端な味になっていくのがどうにも我慢できない。出されて速攻で食べてしまってもあの白いのがちょっと残ってしまうわけだしそれなら別でアイスを頼みたい。
つまり私にこれを聞くのは完全にミスディレクションなのだ。
「私にはよくわからないですけど、なんといいますか私は折角喫茶店に来たのなら珈琲を飲みたいな、と」
「ありがとうございます。喫茶店冥利につきます」
マスターのほのかな笑顔に昇天しそうです。
でもメロンソーダかぁ。そもそもメロン成分は色しかないよね。昔はメロンは高価だったから流行ったのかな。それともこのどぎつい緑色? なんとなく少し尖ったカップをなでながらどうしたものかなと思う。
「そうですねぇ、最近はインスタ映えとかありますからやっぱりきれいな色のは流行ると思うんですが」
「いんすたばえですか……」
そう思って店内を見回す。ここはおしゃれなカフェではなくオールドクラシカルな落ち着いた喫茶店なわけで、それはそれでインスタ映えはするといえばするのだけどオシャレ感の方向性は少し違う気がする。
「吉岡様はその、いんすたばえのする喫茶店にはよく行かれるのでしょうか」
「え、ええまぁ。たまには」
「あの、もしよろしければ……そのいんすたばえのするメロンソーダのある喫茶店に連れて行っては頂けないでしょうか。誠に恐縮なのですがその、流行りの喫茶店というものに興味はあるのですが一人では入れなくて」
固まった。
それは、それはひょっとしてデートのおさそいなのでせうか!!!!!?
マスターの少し恥ずかしそうなもじもじする表情は何かをとてもそそる。
「あの、やはり駄目ですよね。申し訳有り」
「だだだだだだだ大丈夫ですッ‼‼‼ 光栄でありますッ!」
思わず固まってしまって返事を怠ってしまい申し訳有りませんッ!
ホッとした顔のマスターがまた萌ゆ。
ええとそうすると、どうすればいいんだ?
万難を廃してマスターの役に立つカフェを探さねばならなぬ。
私は家に帰る途中の本屋で神津のカフェブックを買った。ここからもっともマスターのお役に立てそうなカフェを探すのだ! マスターはご高齢であられるからおそらくカフェの梯子は難しいだろう。となれば私がこの本の中にあるカフェのなかで面白そうなメロンソーダのある店を片っ端から巡らねばならない。
フンス!
そこで私は友達を呼び出して片っ端からカフェ巡りをした。
もちろん私はそんなにメロンソーダを飲めない。そもそも好きなわけではない。がぶがぶになってしまう。だから私は1番小さいカップのエスプレッソショットを頼んで友人が頼むメロンソーダを一口だけもらうのだ。
10店舗も周る頃には私はちょっとイガイガしていて、友人はブクブクしていた。
だが友人の貴重な犠牲によって私はとうとうマスターと訪れるカフェを1つ選びぬいたのだ! いろいろな要素が詰め込まれたものがいいかと思って。
◇
「ここがそのカフェですか」
「はい。クウェス・コンクラーウェといいます。少し遠くてすみません」
「いえ、神津の近くであれば行くこともあるかもしれませんが電車に乗り継いでまでは来ませんので。」
神津駅から急行にのって20分で辿りついた辻切中央駅から約10分程歩いたところにあるオシャレカフェ。
やや高級ではあるけれど、アイリスと同じく市街にあるカフェ。ホテルや高級住宅地にあるようなアイリスとかけ離れたカフェでもない。だから参考になるだろう。
オープンテラスに続くエントランスをくぐるとそのままカウンターに繋がりそこで注文をして奥のカフェスペースに抜けていく。『都市の中にある緑』がコンセプトの広い店内は自然採光に溢れ、それを遮らないようラティスで自然に区切られてそこに緑がからまっている。まるで森の中にいる感じ。
カフェ・アイリスもウッディな感じではあるけれど、あちらは木造の木でできた家っていう感じだから少し違うかな。開放感というよりは御籠もり感というか。
マスターはメロンソーダを頼み、私はスペシャルメロンソーダを頼んだ。
マスターはお金を払おうとしたけれど、私の中ではこれはお仕事のお手伝いではなくマスターとのデートなのでお金は自分で払うのだ! 対等な感じで。
スペシャルメロンソーダは1400円するから結構お財布にもダメージなのだけれども推しとは貢ぐためにある。
スペシャルは時間がかかるのでマスターだけメロンソーダを受け取って席につく。
それにしても渋いマスターがメロンソーダを飲んでいるのはなんだかグっとくる。
「濃いめのメロンソーダのシロップに少しだけジンジャーが混ざっているのですね」
「美味しいですか?」
「ええ。これは面白い発見です」
マスターの柔らかな微笑みに恐縮する。
すいません、尖ったのしか頼んでなくて普通のは見落としていました。
そうこうしている間に店員がスペシャルメロンソーダを掲げてやってくる。
マスターは驚愕に口をぽかんとあける。いつもと違う髭角度、萌ゆ。
ここのメロンソーダはメロンソーダの名前を冠しているが実際はメロンパフェなのだ。
クリームこそ入ってはいないけど、そこにはメロンの果肉の16切りがドンと刺さり、3種類くらいのメロンが球や橋やハートの形にカットされたものがメロンソーダの中におもちゃのように浮かび、そのソーダを挟んだ下にはメロンジュレ、ソーダの上にはメロンソルベが浮かんでいる。まさにメロンづくしの全部のせ! この中でどれか流用できるようなポイントがあればいいと思ったのだけど。
……でもよくかんがえるとそもそもメロンに特化するのはひょっとして……違ったのだろうか。
ぽかんとしたマスターの顔を見ていて不安になった。
そうだよね、費用対効果を考えればカフェ・アイリスでこんな豪華なパフェは似合わないし
なんだかせっかく遠出してもらったのに申し訳ないような、気がして、推しとデートしたかったし、ええと。
恐る恐る顔を上げるとマスターはふっと微笑んだ。
「ありがとうございます。私ではこのような発想は浮かびませんでした」
「あの、なんていうか、私はその、マスターのお役にたちたくて」
「ええ。とても勉強になりました。ありがとうございます。けれどもアイリスのメロンソーダはベーシックなものが合っているのかなと思い直しました。ここのメロンソーダもとても美味しゅうございますが、アイリスはこれほどお洒落ではありませんので」
確かにジンジャー風味のメロンソーダなんて昭和の香り漂うアイリスにはそぐわなかったかも。失敗した。申し訳ない。くぅ。
「吉岡様。本日はお誘いいただきまして誠にありがとうございました。吉岡様のメロンソーダを拝見して、ミニプリンアラモードに季節ごとに果物を絞ってジュレを添えるのも良いかと思いまして」
「プリン、アラモード」
「はい。あれもそれほど数は出ないので果物の廃棄が出てしまい、少々残念に思っていたところです」
アイリスのミニプリンアラモードはプリンを中心に生クリームとさまざまな果物がちりばめられている。3、4種類はフレッシュフルーツが入っている。毎日用意しているのだろうからコスパはよくなさそうだ。
「あのメニューも一度はやめようか悩んだのですが、やはりお恥ずかしながら
少し気恥ずかしそうなマスターにキュン死する! ぐふふ。そういえばマスターはこないだもラテアートにトライしていた。
そして次にアイリスに行ったとき、丸くくり抜かれたメロンと生クリームとジュレが綺麗にトッピングされていて、真ん中にプリンが載っていた。
食べる前から美味しいことが約束されている。
「どうでしょうか」
「すごくオシャレでアラモードな感じです!」
Fin.