七菜の呟き·第4話 敗北の涙と手作り弁当

文字数 1,485文字

3年の9月にレスリングの試合があったんだよね。
で、あたしも山内君も中学部門で出場した。
あたしはジュニアの時から出てるけど、彼にとっては初めての公式戦。
「頑張って二人とも勝とうね!」
ってお互いに応援してた。
その時さ、知らない女の子が応援席に来てたんだ。
こんなレスリングの試合会場なんかに不釣り合いな可愛らしい女の子。
試合は彼の勝ち。
あたしもその後に試合控えていてたけどさ…。
一言「おめでとう!」て言いたくて控え室に行ったんだ。
そしたらそこにはさっきの女の子が来ててさ…。
紹介された。

山内君の彼女なんだって。

同じ中学の。

彼はあたしのことも彼女に紹介してくれた。
あたしのコト…。
いつも一緒に練習するパートナーで、道場で一番仲のいい「トモダチ」だって。
同じ高校受験することも話してた。
その子さ…、

「じゃあ、合格したら同じ高校になるね。よろしくね!」

って笑顔言うんだ。

彼女がいるなんて、全然知らなかった。
全部あたしの独りよがりの思い込みだったんだ。
もしかしたらあたしのコト好きと思ってくれてるかもって…。

あたしってバカみたい。

恥ずかしくて、みじめで、悲しくて…。

でも、そんな気持ちを悟られないように必死で取り繕った。
彼にもだけどさ、何よりその彼女には絶対悟られたくなかった。
だってさ、あたし今でも忘れてないよ。

あたしを見たときに浮かべた…、

あの彼女の、勝ち誇った様な微笑み。

悔しかった。

あたしがもっと可愛いらしい女の子だったら。

あんな子に負けないぐらい綺麗だったら。

だってさ、全然違うんだもん。
その子とあたし。
山内君、こんな風な子が好みだったんだね。
背も彼より低くて、色白で、綺麗で可愛らしい女の子。

そりゃ無理だよね。

あたしなんかじゃさ。


その後の試合はもうボロ負けだった。
正直、試合なんてもうどうでもよかったけどね。
控え室では平気な顔で
「負けちゃいました~(笑)」
みたいな感じでへらへらしてた。

でもね、やっぱ堪えきれなくなってさ…。

独りで会場の裏に行って大泣きした。

ひとしきり泣いて、気がついたら、会場から歓声や拍手が聞こえてきた。
道場の先輩たちはまだ試合してるん。
きっとアイツら二人して応援席で観戦してるんだろうな。

「あんたの座ってるその席!本当はあたしが座るはずだったんだよ!」

そう思ったらまた泣けてきた。

あたしね、その日はムッチャ朝早くから起きてお弁当作って行ったんだ。
二人分。
試合おわったら応援席で一緒に食べようと思って。

もうさ、あたしメチャクチャ可哀想でしょ!?
あ、ダメだ。
思い出したら泣けてきたよ。

そういえば、食べずに持って帰った二人分のお弁当箱…

やけに重たく感じたな。

そのお弁当?
お兄ちゃんたちが食べたよ。
見た目は悪いけど味も不味いってさ。

彼に食べささなくて良かったかもね。

その後しばらくは、彼の顔を見るのが辛くて、道場行く日をわざとずらしてたんだけどさ。結局辞めちゃった。

高校受験もさ、お母さんに無理に頼み込ん、今の学校、私立女子校専願に変更させてもらったんだ。
だってあたしの学力だと、他の公立は受からないし。
そんな時期から勉強したって手遅れだよ。

だからってさ、あの二人と同じ高校行かないといけないなんて、酷(こく)すぎるでしょ?

レスリング辞めることも、女子高行く事も、お父さんは反対だったけど、お母さんは

「これでちょっとは女の子らしくなる」

って言って喜んでたな。
お父さんも、空手はちゃんと続けるのを条件に許してくれた。
私も空手は続けたかったしね。

そんなわけで今の高校に無事入学出来たってワケ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み