花言葉ものがたり
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文字数 1,944文字
tukinoniwa
今年初めのお花は椿にしました。
椿全体としての花ことばは『控えめな素晴らしさ』『気取らない優美さ』ですが、色によって少しずつ違ってくるようです。
今回のイラストはイラストACさんから歩夢さん作品をお借りいたしました。
あれはどなたの主催の夜会であったか。
初対面の男が不躾に声をかけてきた。
「やあ、君は君自身というものをまったく分かっていないらしい」
「あなた、誰ですの?」
胸の内に芽生えた不快感を押し殺す。
「君の父上の古くからの友人だよ」
燕尾服が良く似合うその男は、私の父よりもずいぶんと若く見えた。
「君の家の乙女椿の生け垣は、今もまだあるのかい?」
「もちろんですわ。あれは父が私のために植えてくださったもの……」
男は私が言い終わる前に、出し抜けに笑い出した。
「あのさえない男は、君にそんな風に?」
そしてまたひとしきり嗤う。
「あれは君、彼女を閉じ込めるための檻さ。控えめな女。優しい女。君にふさわしい花。あの男は自分の妻に呪をかけたのさ」
男が私の亡くなった母のことを話しているのだと理解するまでに少しばかりの時間を要した。
「君には似合わないな」
男の手が乙女椿の髪飾りを抜き取る。
かわりに飾られたのは、どこかで手折ってきたらしい白く作り物ではない椿の花だ。
「君、本当の自分に逢いたければいつでも訪ねておいで」
男の背中を見送る私の手に、一枚の名刺が残されていた。
こんにちは。あべせつです。椿の花言葉、色によって意味がちがうというのが興味深いです。
調べてみますと、裏花言葉に「罪を犯す女」というのを見つけました。
ひとつお話が思いついたのですが、投稿させていただいてもよろしいでしょうか?
abesetsu
「白椿」
君はいつも胸元に、白いブローチをつけていた。
僕はそのブローチの意味なんてもの考えてもいなかった。
僕に彼女がいることを知っていた君は、そのブローチをつけるたびに何を考えていたのだろう。
君が僕の部屋に置いていったそれが、実は椿なんだって知ったのは
君を失ってからだった。僕はその「カメリア」を君の分身として扱うようになった。
もう彼女とは別れたんだよ。だから帰ってきてほしい。
そうメッセージをしたのに、君は返事をくれない。メールをしても手紙も。
「ああ、僕は捨てられたんだな」
きっと泣かせてしまったに違いないんだ。
いつもつけていたあの香水が懐かしい。
あれから何年経とうが、僕は自分の気持ちに気が付かなかった自分が許せないんだ。
毎年咲く白い椿を見つめながら、君の明日を除く。幸せになっていたらいいなと思うんだ。
lunagon
どうぞご参加ください。
楽しみにしております。
切なく大人な雰囲気の作品。素敵です。
椿というのは、どこか気品のようなものも感じます。
行間調節がうまくいかないとのことで、勝手ながら私が代理で投稿します。
罪を犯す女 あべせつ
夜毎繰り返される、贅の限りを尽くした舞踏会に私は心底うんざりしていた。
ローズ・ベルタンの最新流行のドレスも、屋敷一つが買えるほどの高価な宝飾品の数々も、私の心を浮き立たせてはくれない。
「マリー様、今日も一段とお美しいですわ」
ありがとうと微笑みながら、このハイエナのようにまとわりついてくる、ずる賢い連中の輪からするりと抜け出し夜気に満ちたベランダへと出る。
夫は、この馬鹿げた狂騒の中に私一人置いたまま、地下室にこもって錠前を作っている。
嫁いでから今まで一度でも私の孤独に気付いてくれたことがあるのだろうか。
「マドモワゼル、お一人ですか」
美男子が、私に語り掛けてきた。初めて見る男だ。外国人らしく私が誰かを知らない。
「ええ」
その答えに男の目が私の胸に注がれた。
一輪の純白の椿を見ると、男は私の手を引いて屋根裏部屋へと誘う。
椿姫は月の二十五日を白い椿で愛を誘った。私はその逆。
月の三日だけ純白の椿で気に入った男を愛の褥へと誘う。
うまくいけば、美しい子が授かれるだろう。あの醜い夫の姿にまったく似ぬ玉のような子が。
それが私の、あの男への復讐。 終
どこか私の作品とつながりあっているような作品。嬉しいです。
椿はヴェルディのオペラ「椿姫」(「La traviata」)のイメージからどこか物悲しさが付きまとってしまいます。
あまりに素晴らしい作品のモティーフに使われてしまったことが、この花に影をまとわせてしまったのでしょう。
「花首から落ちる」様子から打ち首を連想させるので縁起が悪いという話も、江戸末期まではそんなことなかったとか。
時代とともにその意味を変化させる、とても興味深いお花です。
アップロード可能なファイルは5MまでのPNG、JPEGです。
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