夏の日の思ひ出【ドタバタ☆コンビ編】【後編】
文字数 4,653文字
人もまばらとなった黄昏時のビーチ。
波打ち際に腰掛けて、夕陽を見詰める竜族の三姉妹。
はぁぁ……。
結局なにも得るものはなく、
ただただ時間を無駄にしただけだった……。
(参加賞のスイカ)
そんな気を落とさないでよ~!
姉様は健闘してたし、有名人さえ出てこなければ絶対優勝してたんだから~!
でもスイカはいらなかったね。
あたし達肉食だし(笑)
そもそもなんで美女コンテストに出るハメになったのか、
何故か思い出せない~~(頭抱え)
……あのアルテミシアとかいう者の歌声、どうやら負の感情を削ぐ力があるようです……。
ふむ、姉様もCDを購入して日常的に聴くのがよいかと……。
それは私が常日頃からイライラしていると言いたいの……!?
……だってそうでしょう。
振り回される私達の身にもなって頂きたい……。
お~い、スー!
こんなところにいたんだネ。探したんだヨ。
話しはミーから聞いたヨ。
道化女の挑発に乗るなんて、アンタらしくないじゃン。
あははっ、別に大したことじゃないんだよ?
海に来たはいいものの、やることがなくて暇だったから。
旅行券が手に入ったら万姫にプレゼントしようと思ってたんだけど……
ざんね~ん(笑)
……こちとら『遊覧船で行く☆野生のイルカと戯れようツアー』をキャンセルして、
協力までしてやったんダ。
ここで嘘吐かれちゃあ納得いかないんだガ……?!
うぅ……。
だって万姫が私を海に誘ってくれないから……。
私はいつだって万姫と一緒にいたいのに、最近そいつとばっかり仲良くするから。
万姫の気分も尊重してあげなきゃって分かってはいるけど、心が荒らんじゃって……。
わがまま娘に金を吸い尽くされた挙げ句、ボインちゃんにまで恨まれてるとか、
おじさんの夏は散々だなあオイ!
うはははははは!!
ハア!?
アンタ、そんな事で荒らんでるとかバッカじゃないノ~!?
そうだよね、私って重いよね。
万姫が私のことを嫌いになるのも無理ないよね……。
(シュン)
いやアンタを海に誘わなかったのは、
……アンタが水着なんて着たら絶対に周囲の男どもが放っておかないヨ。
そうなったら男嫌いのアンタは嫌な思いをするだろウ?
だから海は諦めて、冬に温泉にでも誘おうと思ってたんダ。
女二人で水入らずの、絶景露天風呂にネ~♪
ええっ!? そうだったの!?!? 嬉しいっ!
私、凄く嬉しいよ万姫っ!!!!
絶対絶対、約束だからねっ!?
本当はサプライズにしておくつもりだったんだが…………ってイダダダダ!
竜族の馬鹿力で抱きつくんじゃないヨ!!
なんだなんだぁ?
よくわからねぇが、一件落着って事でいいのかあ?
……そのようです( ´ v `)三3。
ささ、御二方の邪魔をしてはなりません。
我々は退散すると致しましょう……。
ここからは女同士でお楽しみってか~?
それじゃあ、独りぼっちになってしまった可哀想~なおじさんの相手をしてくれるのは君達かなぁ~?
なんでもご馳走してあげるから、おじさんについておいで~げへへ。
(デレデレ)
ミーとリーは一瞬たりとも構うことなく、黒鱗の竜となって飛び去っていった。
夕陽に届かん勢いで、
ヤグールの叫びが虚しく響く……。
ところ変わって夕暮れのビーチ。
いやぁ~あそこで芸能人は……芸能人は反則ですよ……。
(参加賞のスイカ)
も~ユケイ君ったら怒らないで下さいょぅ。
これでも翠ちゃんはビーチの平和とユケイ君の楽しい夢を守ったんですよ?
……とまぁ、すっかり夕焼けになってしまいましたが、今からでも釣りします?
ほらぁ魚は暗い方が釣れやすいって言うし~。
…………(´・ω・`)。
ああ~っ、これから何をしたらいいのか分かんな~い。
時間を有効に使いたいな~。
こんな時、誰かが予定を考えていてくれたらなぁ~~っ?
え~っさっすが~!
聞きたいな~聞きたいな~~!
(くねくね)
しょ~がないなぁ((o( ̄ー ̄)o))
(A 4メモ登場)
オレの完璧メモによると、このあと花火大会があるんだよ。
ホテルの窓からよく見えるんだってさ。
時間にはまだ余裕があるけど、これからバスに乗ってホテルに戻ろう。
はぁ~い♪ では花火のつまみでも買って帰りますか!
おジュースと何がいい? 枝豆かな~?
チップスもいいですね~?
いらないっ。
寄り道したらまた翠がどっか行っちゃうかもしれないからねっ。
(プイッ)
足早にゆくユケイのあとを、翠がとぼとぼ追いかける。
二人はお着替えを済ませ、ホテルへの帰路についた。
バスに乗って暫くのこと。
ユケイは神妙な顔つきで翠の裾をくいくい引いた。
えぇ……あと30分程で着きますから、もう少し我慢して?
二人はやむなく途中下車。
去りゆくバスを背中で見送り、翠がビシッと茂みを指差す。
おかえり。
ったく、バス乗る前にトイレ行っとかないからぁ。
バス亭が近くにあったんで次の時間を見てきたんですが、
2時間後になっちゃう。
これは歩いた方が早そうですね。
ユケイ君、ホテルまで歩けるー?
そうですねぇ……(携帯の時計)、
まぁ20時くらいにはなるんじゃないですか?
仕方ないでしょ~?
案外テレビでやってるかもだから、それ見て寝ましょ。
はい、気をとり直して! 夜のお散歩レッツゴー♪
夜のビーチを遠くに臨む、小高い山道。
三つ目のバス亭を過ぎ、二人はひたすら道路沿を歩いていた。
なんでそんなゆっくり歩いてるの!?
花火……花火が始まっちゃうよ……!
ホテルのお部屋の窓から見るんだもん。
じゃあ早歩きでいいから!
オレが翠のことおんぶするからぁ!
もっと絵面が悪いわ!
いいからお散歩を楽しみましょ。
ほーら、鈴虫が鳴いてて風流ですね~?
む~……オレ、今日のこと、前から、
いっぱいいっぱい、考えてきたのにぃ……
ふぇ~~~ん(涙)
あらやだ。
こんな所で泣かないで下さいよぉ~~;
も~~~~……(よしよし)
その時、花火の大輪が夜空にあがった。
一発ならず、二発三発。
視界に収まりきらないほどの色鮮やかな打ち上げ花火が、
瞳のなかでキラキラ輝く。
夏風がユケイの涙を拭う。
翠はガードレール越しに周囲を見渡し、崖下にちょっとした広場を見つけた。
おんや? あんなところに花火の打ち上げ場があるじゃないですか。
ホテルから見える花火って、あそこから上がってたんですね。
ふふ、まさかの散歩が思わぬ収穫でしたね★
ちょっとちょっとユケイ君っ、座れる場所探しましょ!
花火を見上げながら歩いていると、道端に休めそうなベンチを見つける事ができた。
人気もなく、空を遮るものもなく。
その廃れたベンチは最高の特等席だった。
ユケイはサンダルをぷらぷらさせながら、すっかり上機嫌。
ねぇねぇ翠はどの花火が好き?
オレはねっ、あのボバーンってなるやつ!
ほんとかなぁ~~~~????
……って、なに撮ってんだよ!/////
あんね、どーいのない撮影はとーさつっていって犯罪なんだよ~?
大人のくせに知らないの~~ん????
ぷぷぷぷ!
やかましいわ!
あと翠ちゃんはギリ未成年ですから★
じゃあ花火をバックに一緒に撮りましょ?
それならいいでしょ?
ほんと翠ってお写真撮るの好きだよね。
行く先々で撮ってるもんね。
ユケイ君と翠ちゃんのラブラブ♡日誌に貼るためです!
なにそれ。
そんなの作ってるなんてオレ聞いてないんだよ!
なぁに、至って健全な旅のアルバムですよ。
ふふふのふ。
思い出がまた1ページ増えました★
なんだかな~ん。
ホテル戻ったら見してね。
変なこと書いてないかチェックしなきゃ!
あーら失礼な(´ε ` )
そうだユケイ君、花火の掛け声知ってますか?
詳しくは知らないけれど、立派な花火が上がった時に叫ぶといいんですよ。
きっとあれだ、幸せのおまじないか何かですよ★
翠ちゃんがたーまやーって言ったら、ユケイ君はかーぎやって言って下さいね!
ユケイ君の好きな花火が上がったら言いましょ!
あっ、きましたよ!
たーまやーーー!
(あれじゃないんだけどなぁ……)
か、かーぎやーーっ!
KAAGIYAAAAHーー!! (オレは一体何を言わされてるんだー!?)
いゃあ~日頃のストレスがふっ飛ぶようですね!
ノッてきたところでお次はポージングも交えて!!!?
(スンッ)
……オレ、花火は静かに見たいな……。
(スイカを一口食べる)
こうして、ユケイと翠は満天の花火を楽しんだのだった。
花火が終わって暫く、次のバスに乗ることができた。
残響が耳に残るなか、ユケイと翠は残りの道のりをバスでゆったりと過ごした。
そういえば、美女コンテストでユケイ君は翠ちゃんに投票してくれました~?
もちのろん?
えっ。
翠には投票してないよーんだ!
あんな嘘ぽんだらけの自己紹介に、オレは騙されたりしないんだ。
なんですか~嘘も方便って言うでしょう?
それに全部が嘘じゃないですし。
ほらあああ名前しか合ってないじゃんんん!!
てゆうかオレは翠の正体が知りたいな!
翠は現実世界のオレとどういう関係なの?
家族? 友達? 近所の人ー!?
ふふ。それは最後にわかります。
美女に秘密はつきものなんです!
やがてユケイはうつらうつら。
ホテルにつく頃にはすっかり爆睡していた。
握りしめていたA 4完璧メモにはこのあとの予定も書かれていたが、
あまりにぐっすり眠っているので、翠は溜め息まじりに微笑んだ。
ユケイは翠に抱っこされて宿泊中の部屋に戻り、
そのままお布団なかで今日の一日を終えるのだった。
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