モフって一体なんなのさ!
文字数 7,859文字
エマ・フローリア号にて。
ボスがちっとも電話に出てくれないんダ。
時々でいい、5分でもいいから声が聞きたいのに、忙しい手が放せないばっかりデ……。
大人しく待ってても連絡が来ることはないシ。
あ"ぁ"~寂しいヨォ~~……。
ボスは幹部であるアタシ達にも素性を明かさないからネ。
でもそんなボスとアタシは確かに婚約してるんダ。
誓約書も、婚約の証だってあル。
今はボスの野望を叶えることが先決だと……分かってはいるけど、
もう少し婚約者であるアタシを大事にしてくれたっていいと思うんダ……(シュン)
アグ・ラム様の家系は何代にも渡ってひとつの野望を抱いてきタ。そのために悪を演じているが、多くの犠牲を払ってきたこと、誰より心を痛めている筈だヨ……。
それも野望が実現すれば無駄ではなかったと誇れるだろウ。
私はそれを理解し、支えてゆくと誓ったんダ……!
(あぁ~~~っもう! どうして!?
どうして万姫は私よりあの男を選ぶの!?!?
……わかった。モフを求めているのね。どうしてもモフでなければならない理由があるんだわ。
いいわ、今度こそ私の透視能力で真相を突き止めてやる……!)
満月を横切る飛竜の影。その足枷には組織の紋。
鞭をふるって飛竜をあやつり、ヤグールは単身、エマ・フローリア号に到着した。
大勢が出迎えるなか、
ヤグールは飛竜から降りるなり万姫のもとへ駆けつけた。
ここに居られるのは3日までだ。オレは万姫の部屋で寝泊まりする。
その間に要求するのはただ一つ。
(周囲を見渡しながら)
……お前ら、船長室に近付くんじゃねぇぞ。
絶対にだ。破ったらタダじゃおかねぇからな。
副船長
「かしこまりました! 姐さん!」―― 船長室(万姫の部屋)。
人払いを終えて船長室のドアを閉めると、万姫がぐらりと傾いた。
倒れる前に抱きかかえ、ヤグールは万姫をベッドへと運んでゆく。
眠れたと思ってもすぐ目が覚めて、その繰り返シ。
こうなるのには周期があるんだけど、生理とは違うみたイ。
あぁ情けないったらないヨ。一体どうなってるノ……??
疲れてるのに、体の内側からザワザワとなにかが込み上げてくるんダ。
スーはストレスのせいだって言うけど、違うと思ってル……。
なんやかんや、
だがお前がストレスで潰れちまう程度なら剣闘士時代にとっくに潰れてるだろうし。
まったく……謎だねぇ。
なんか思い当たることはないのかー?
変な薬を飲んだとか、頭打ったとか、不安な取引きがあるとか。
こう何度も呼び出されちゃあ、おじさんもたまらねぇからよ。
少しでも気になること正直に言ってみ。
(ホットココアを差し出す)
(壁に立て掛けてある大剣を眺めながら)
あの大剣に触れてると妙に力が湧いてくるんだよネ。
闘技場にいた時はそれが気付け薬みたいになって助かったけど、
船長になって人を斬る機会が減ってからというもの、
なんか生気吸い取られてる……気がすル。
アタシ、呪われてんのかネ?
(ココアをひとくち)
(……大剣……か。
そういや以前、うちのクヌアが万姫に気に入られようとして、
会うたび密かに大剣を磨いてたことがあったなぁ。
確かその時、なんだかの理由で万姫の部下と殴り合いの喧嘩になってたっけ。
あのクヌアがキレるなんて珍しいと思ったが……
それから数日もイラ立ってたくせ、突然けろっとしやがって。
妙だったのが、キレた理由を思い出せないとか。
今更だが引っかかるな……)
なーーーに弱気になってやがる!
剣に生気吸い取られるとか、そんなことあるかい!
……オレ達ぁ相当な数の恨みを買ってるだろうが、んなもん、気にすることはない。
なんならお前の分までオレが肩代わりしてやらぁ!
うははははは!
……それよか、オレはあのボインちゃんの視線がウザったくて仕方ねぇ。
お前も手を焼いてるようだし、この際売っちまったらどうだ?
スッキリするかもよ?
一応、ネヴァサの一員でもないつもりダ。
……スーは生まれた時から人間に仕えるよう思想教育された竜族でネ。
アタシが皇女だった頃は侍女として仕えてくれていたんダ。
……母代わりみたいなもんだっタ……。
でも、まだアタシのことを小さな子供だと思ってるんだろウ。
いまや自由の身だってのにその発想すらないのか、
堕ちたアタシを追いかけてまで甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてサ……。
関わるなって言ってもきかないシ。
いなくなったら……ちょっと寂しいけど、スーには自由になって欲しいのが本音。
アンタには危害を加えないよう言いつけてあるから、気にしないでやってヨ。
ズホンをおろして首をポキポキと鳴らした。
そして大きな背伸びをひとつ。
床に伸びた影が輪郭を変えてゆく……!
おい、あんまし興奮すんな。
添い寝してやるからとにかく横になってろ。
……いやしかしだなぁ、
ビビられることはあっても、こうして好かれるなんて今でも不思議でならねぇや。さては
ケモナーだなあ?//////
……フフフ♡
ネヴァサの船長が魔族の……それも獣人虎族だなんて知れたら大問題だヨ~??
見世物小屋に売り飛ばされたくなかったら、こうして定期的にアタシにモフを捧げるこト!
いいネ!?
(モフモフ)
虎は動物のなかで一番好キ。
風の国には白陀伝説っていう有名な物語があるんだけド……。
『むかしむかし、人々が幸せに暮らしていたところに、
黒く恐ろしい大蛇の化け物が現れ、人々を喰らい、平和を乱した。
そこへ白蛇の化身たる勇者が、青き眼の虎に乗って現れた。
その一振は暗雲を払い、二振にして力を束ね、三振りに奇跡を伴いて、
大蛇の化け物を討ちとって世に平和を取り戻した』
……まぁ、おとぎ話ヨ?
その様子が描かれた立派な絵画が皇宮にあってネ。
幼い頃、はじめてその絵画を見た時、青い眼の虎に一目惚れしちゃってサ。
それから虎に興味を持つようになっタ。
本物の虎を目にする機会はなかったけど、
この手で虎に触ること、虎の背中に乗って走ること、ずっと憧れだったんダ。
ふと思いついたように、ヤグールが呟いた。
ヤグールははっと目を覚ました。
腕のなかで万姫が右に左に寝返りをうち、
なにやら
あたふたする目の端で、ヤグールは嫌な気配を感じ取った。
それは壁に立て掛けてある万姫の大剣。
風もないのにカタカタと揺れ、まるで共鳴している様ではないか。
ヤグールはベッドを降り、恐る恐るその大剣に近づいてみた。
暗がりのなか、窓から射し込む月明りに黒い刃がぎらりと笑う。
前々から思っていたが、
この悪趣味な代物は一体なんなんだ~??
……えっ、マジで呪いとかそういうヤツじゃないよね?
怖いよ~~~!!!!!!!;;;;(涙目))
その時 ――。
嫌な気配がピタリと消え、万姫の寝息が穏やかになった。
その後、
滞在している間に妙な現象が起こることはなく、
モフのおかげで万姫はよく眠り、全てが気のせいのように思えていた。
万姫を起こすことなく、ヤグールは甲板にて飛竜の鞍を締め直していた。
準備を手伝う者達のなかに、スーの姿もあった。
表はにこにこ微笑みながら、
内心ではモフを知ることが出来ずやきもきしていた。
万姫ったら、こんな時に限って大量のお使い事をよこすだなんて。
それに追われていたら、モフを探る時間を失ったじゃない……!
このまま帰すわけにはいかない……。
せめて何か聞き出さなくては気が済まないわ……!!)
あ、あの……ヤグールさん。
この度は万姫のために有難うございました。
じゃあせめて教えて下さい。
万姫は貴方をとても慕っています。
今回だって私の手助けを拒んで、わざわざ遠方にいる貴方を必要とした。
でも私は万姫に嫌われているわけではない……。
貴方の目線から見て、これって何故だと思いますか??
そんな万姫を、私は赤ん坊の頃からずっとお世話してきました。
万姫は私をとても頼りにしてくれて、私もそれが嬉しくて。
けれど貴方と会ってから、少しずつ私を必要としなくなっている気がして……。
んでもって、万姫はもうガキじゃない。
母親にいつまでも寄りかかっているわけにはいかない。
弱ってる姿を見せたくない、心配させたくないって思うんだろうよ。
その点、他人のオレになら頼り易いってだけだ。
親からすりゃあ水臭いだろうが、子からすれば一人前だと認めてほしいのよ。
じゃなきゃアンタ、いつまでも万姫を子供扱いして傍から離れないだろ?
万姫がアンタに首輪をつけない理由を考えろ。
自由になって欲しいんだよ。
ほぉ。
……まぁ思うことがあってな。あの大剣は部屋の飾りにでもして、
これからは必要なら銃を使えと言っといてくれ。
とにかく今後、万姫にあれを使わせるな。
お前が万姫を娘のように想ってるんなら、協力してくれるな?
……あいつは死ぬ寸前まで気丈に振る舞うタイプだからなぁ。
冗談交じりにでも弱音吐いてたら、もう限界だと察してやってくれ。
オレがいてやれない間は、お前が万姫を守るんだ。あくまで影からなぁ。
頼んだぜ、ボインちゃん。
(飛竜に乗って去る)
スーが船長室に食事を運ぶと、
万姫が陽を浴びながら筋トレをしていた。
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