モフって一体なんなのさ!

文字数 7,859文字

―― とある日の夜。


万姫(ワンヂェン)の海賊船

エマ・フローリア号にて。

ンア"ァ"ー…………。

(大剣を研いでいる)

万姫(ワンヂェン)ったら、怖い顔してどうしたのー?

そんなに乱暴に研いだら刃が欠けちゃうよ?;

聞いてよ、スー。

ボスがちっとも電話に出てくれないんダ。

時々でいい、5分でもいいから声が聞きたいのに、忙しい手が放せないばっかりデ……。

大人しく待ってても連絡が来ることはないシ。

あ"ぁ"~寂しいヨォ~~……。

万姫を悲しませるなんて酷い(ひと)……。

ボスってそんなにお忙しい方なの?
……詳しくは知らなイ。

ボスは幹部であるアタシ達にも素性を明かさないからネ。

でもそんなボスとアタシは確かに婚約してるんダ。 

誓約書も、婚約の証だってあル。

今はボスの野望を叶えることが先決だと……分かってはいるけど、

もう少し婚約者であるアタシを大事にしてくれたっていいと思うんダ……(シュン)

さみしい想いを押し殺してまで熱心に慕うのだから、

さぞ素敵な方なのでしょうね……?

あぁそうサ。ボスは……アグ・ラム様は本当にお優しい方なんダ。

アグ・ラム様の家系は何代にも渡ってひとつの野望を抱いてきタ。そのために悪を演じているが、多くの犠牲を払ってきたこと、誰より心を痛めている筈だヨ……。

それも野望が実現すれば無駄ではなかったと誇れるだろウ。

私はそれを理解し、支えてゆくと誓ったんダ……!

へぇ……私には難しくてよく分からないけど、

そこに万姫の幸せがあるなら応援してまあす♪

ありがト。

式をあげる時は招待させて……と言いたいところだが、それもいつになる事やラ。

ハァ……(シュン)

……。

万姫って、ほーんと人を見る目がないよねぇ……。
うン?

なんか言った?

……ううん、なんでもない。

それより、もう休んだらどう?

なんだか疲れてるみたいだし、月だってほら……あんなに高い位置にある。

それが最近寝つけなくてサ~。

変に(たかぶ)ってるというか、肩の力が抜けなくテ。

だからボスの声を聞いて安心したかったんだけど……それも叶わないシ。

酒に頼るしかないカ~~~。

ええっ、寝れてない!?

大変……どうして教えてくれなかったの??;

きっと緊張やストレスが溜まってるんだね。万姫は昔から頑張り屋さんだから。

そうだ、私が全身をマッサージしてあげる♡

……いや、いいヨ。

アンタこそもう休みナ。

遠慮しないで?

私はちっとも疲れてないし、万姫の役に立てるならむしろー……

……いいって言ってんノ!

明日もアンタには頼みたい仕事があるんだから部屋に戻りナ!

心配いらないヨ。アタシには究極の切り札があるんだからネ。

(携帯電話ピ・ポ・パ☆)

またボスに電話~……?;

あ~もしもし、アタシよアタシ!

アンタいま何処で何してるノー?

(通話)

『よーー(ワン)ちゃん!

おじさんはねぇ、今お昼ご飯にTKGを食ってるとこー。

あ、TKGっうのは『卵・唐揚げ・ご飯』の略ね。

(もぐもぐ)』

いいね~、美味そうじゃン。

その唐揚げのとこステーキにして山ほどご馳走するからさぁ、

今すぐこっちに来てもらいたいんだけど……駄目?

えっ、ええっ??;

どうして彼を呼ぶの……????;;;

『どうした。

なんか問題でもあったか』

いや~最近、全然眠れなくてサ~(笑)

睡眠薬の在庫も切らしちゃっテ。

気晴らしにちょっと遊び相手になってヨ~。

『はぁあーー????

おまっ……オレがいま何処にいるか分かってんのかぁ?

お前のいるモートン海とは地球の反対側にある、ザノード海だぞ。

しかも理由が寝れないとかー……ふざけてんのか』

……。
そ、そうだよぉ万姫。

男性の相手が欲しいならこの船にだっているし、

他の船長に迷惑をかけたら駄目だと思うよぉ?;

『そういう事はだなぁ…………

睡眠薬を切らす前に言わないと駄目でしょーが!!

今から出発しても1日以上はかかっちまうが、

必ず行くからそれまで持ちこたえてくれよお!?!?

(ブチィ!! / 通話終了)』

(携帯電話 / ツーツー……)


アハッ。来てくれるっテ。

ほんとヤグールはアタシの頼みを断らないネ~♪

ヤグールさんは暇なのかしら?;

到着まで時間がかかりそうだけど……

今夜はどうするの? やっぱり私がマッサージを……

何度も同じこと言わせないデ。

今夜は深酒して寝ル。

おやすミ。

(手ひらひら / 去)

…………。


(あぁ~~~っもう! どうして!? 

どうして万姫は私よりあの男を選ぶの!?!?

……わかった。モフを求めているのね。どうしてもモフでなければならない理由があるんだわ。

いいわ、今度こそ私の透視能力で真相を突き止めてやる……!)

最後の電話から約1日後。


満月を横切る飛竜の影。その足枷には組織の紋。

鞭をふるって飛竜をあやつり、ヤグールは単身、エマ・フローリア号に到着した。


大勢が出迎えるなか、

ヤグールは飛竜から降りるなり万姫のもとへ駆けつけた。

万ちゃん生きてるかーーー!?!?

(ゼェゼェ……)

思ったより早かったネー!!

遠路はるばるご苦労様。

盛大にもてなすから、まずはゆっくり休んでヨ。

我が(あるじ)のためにご足労頂き、ありがとう御座います。

お食事の用意が出来ておりますので、どうぞこちらへ……。

せっかくだがいらん。

ここに居られるのは3日までだ。オレは万姫の部屋で寝泊まりする。

その間に要求するのはただ一つ。


(周囲を見渡しながら)

……お前ら、船長室に近付くんじゃねぇぞ。

絶対にだ。破ったらタダじゃおかねぇからな。

えっ……あ、あの!;

船長室には生活に必要な設備が一通り揃っているとはいえ、

3日間も2人きりで一体なにを?

お食事はどうされるおつもりで??;

飯はオレが食堂に取りに行く。

朝昼晩、それなりの時間に向かうからテキトーに用意しとけ。

……やっぱテキトーじゃヤダ。

オレぁ肉が喰いたいんで、よろしこ。

万姫~……?;
アタシからもお願イ。

今から3日間のことは副船長、アンタに頼んダ。

悪いね~船長同士で極秘の作戦会議があるんだヨ。

副船長

「かしこまりました! 姐さん!」
……。



―― 船長室(万姫の部屋)。


人払いを終えて船長室のドアを閉めると、万姫がぐらりと傾いた。


倒れる前に抱きかかえ、ヤグールは万姫をベッドへと運んでゆく。

ったく、強ぶりやがって。顔が真っ青じゃねぇか。

……そら、横になってろ。

クヌアからの差し入れでココアを持ってきた。

あったかいの作ってやるから、ちょっと待ってなー。

ウゥゥ……。

しんどいヨォ……。

(めそめそ)

お前なぁ……。

眠れないからって睡眠薬とか酒に頼って寝ようとするな。

身体おかしくなるぞ。

……わかってはいるんだけど、あまりにも眠れなくて死にそうなんだヨ。

眠れたと思ってもすぐ目が覚めて、その繰り返シ。

こうなるのには周期があるんだけど、生理とは違うみたイ。


あぁ情けないったらないヨ。一体どうなってるノ……??

疲れてるのに、体の内側からザワザワとなにかが込み上げてくるんダ。

スーはストレスのせいだって言うけど、違うと思ってル……。

そうだなぁ。

なんやかんや、組織(うち)に来てから3ヶ月にいっぺんはこうなってるもんなぁ?

だがお前がストレスで潰れちまう程度なら剣闘士時代にとっくに潰れてるだろうし。

まったく……謎だねぇ。


なんか思い当たることはないのかー?

変な薬を飲んだとか、頭打ったとか、不安な取引きがあるとか。

こう何度も呼び出されちゃあ、おじさんもたまらねぇからよ。

少しでも気になること正直に言ってみ。

(ホットココアを差し出す)

気になること、あえて言うなら……

(壁に立て掛けてある大剣を眺めながら)

あの大剣に触れてると妙に力が湧いてくるんだよネ。

闘技場にいた時はそれが気付け薬みたいになって助かったけど、

船長になって人を斬る機会が減ってからというもの、

なんか生気吸い取られてる……気がすル。


アタシ、呪われてんのかネ?

(ココアをひとくち)

(……大剣……か。

そういや以前、うちのクヌアが万姫に気に入られようとして、

会うたび密かに大剣を磨いてたことがあったなぁ。

確かその時、なんだかの理由で万姫の部下と殴り合いの喧嘩になってたっけ。

あのクヌアがキレるなんて珍しいと思ったが……

それから数日もイラ立ってたくせ、突然けろっとしやがって。

妙だったのが、キレた理由を思い出せないとか。

今更だが引っかかるな……)

なーーーに弱気になってやがる!

剣に生気吸い取られるとか、そんなことあるかい!

……オレ達ぁ相当な数の恨みを買ってるだろうが、んなもん、気にすることはない。

なんならお前の分までオレが肩代わりしてやらぁ!

うははははは!


……それよか、オレはあのボインちゃんの視線がウザったくて仕方ねぇ。

お前も手を焼いてるようだし、この際売っちまったらどうだ?

スッキリするかもよ?

スーは誰にも売らないヨ。

一応、ネヴァサの一員でもないつもりダ。


……スーは生まれた時から人間に仕えるよう思想教育された竜族でネ。

アタシが皇女だった頃は侍女として仕えてくれていたんダ。

……母代わりみたいなもんだっタ……。

でも、まだアタシのことを小さな子供だと思ってるんだろウ。

いまや自由の身だってのにその発想すらないのか、

堕ちたアタシを追いかけてまで甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてサ……。

関わるなって言ってもきかないシ。

いなくなったら……ちょっと寂しいけど、スーには自由になって欲しいのが本音。


アンタには危害を加えないよう言いつけてあるから、気にしないでやってヨ。

母代わりねぇ……。

それにしちゃあ、お前を見つめる目がやたらとギラギラしてやがる。

あれは親が子を見守る目じゃねぇ。

……獲物を狙う目だ。

危険分子だと、おじさんは思うけどねぇ?

スーを悪く言うのはやめテ……!

スーは昔から大の男嫌いだから、警戒心を振りまいてるだけだヨ。

肉食種だけど性格は穏やかだし、けっこう天然なんだかラ。

……だといいが。


さぁーて、オレを呼んだ目的はアレだろ?

寝かしつけてやるから元気だしな!

ヤグールは上着を脱ぎ、装飾品を外し、

ズホンをおろして首をポキポキと鳴らした。


そして大きな背伸びをひとつ。

床に伸びた影が輪郭を変えてゆく……!

へいお待ち♡

あ~ん、これこれぇえ~♡

モフいねモフいねモッフモフだネェ~~♡

(思いっきり抱きつく)

うはははは! くすぐってぇ。

そんなにワサワサしないでくれぃ。

この図体! ぽかぽかな体温! もっちもちの肉球!

おっさん臭とは違う独特な(けもの)臭!

そして固すぎず柔らかすぎない、この、この絶妙な毛触リィッ!!

んはぁぁ最っ高ォ……♡

(ぎゅうう~♡)

ひえっ。目がキマってやがる……。

おい、あんまし興奮すんな。

添い寝してやるからとにかく横になってろ。


……いやしかしだなぁ、

ビビられることはあっても、こうして好かれるなんて今でも不思議でならねぇや。さては(ワン)ちゃん、

ケモナーだなあ?//////

ケモナーってなにヨ。

……フフフ♡

ネヴァサの船長が魔族の……それも獣人虎族だなんて知れたら大問題だヨ~??

見世物小屋に売り飛ばされたくなかったら、こうして定期的にアタシにモフを捧げるこト!

いいネ!?

(モフモフ)

あぁ、弱みを握られ……悲しきかな。

うへへへ♪

そら、ぺろぺろりーん。

アハハハ!

鼻息がくすぐったいヨ~♪

おじさんの姿だったら真っ二つにしてやるところだが、虎さんなら許せちゃうネ~♡

なんか知らんが虎に生まれといてよかった。

万ちゃんは虎が好きかい?

うン。

虎は動物のなかで一番好キ。

風の国には白陀伝説っていう有名な物語があるんだけド……。


『むかしむかし、人々が幸せに暮らしていたところに、

黒く恐ろしい大蛇の化け物が現れ、人々を喰らい、平和を乱した。

そこへ白蛇の化身たる勇者が、青き眼の虎に乗って現れた。

その一振は暗雲を払い、二振にして力を束ね、三振りに奇跡を伴いて、

大蛇の化け物を討ちとって世に平和を取り戻した』


……まぁ、おとぎ話ヨ?

その様子が描かれた立派な絵画が皇宮にあってネ。

幼い頃、はじめてその絵画を見た時、青い眼の虎に一目惚れしちゃってサ。

それから虎に興味を持つようになっタ。


本物の虎を目にする機会はなかったけど、

この手で虎に触ること、虎の背中に乗って走ること、ずっと憧れだったんダ。

触るのはまぁヨシとして、

馬じゃねぇんだから虎には乗れないだろ……。

エッ!

虎って乗れないノ!?

その絵画では、勇者が虎に跨がって月夜の草原を走ってんだヨ?

それ絵だろぉーー?

お前、賢いくせに天然が過ぎるぞ。

ウソ~~~……;

夢がひとつ(つい)えたヨ。

悔しいからアンタの背中で我慢しようかネ。

悪いがオレぁ獣人ってヤツで、四足歩行なんてしたことねぇからよぉ。

お前を背中に乗せてやるとしたら、それはおんぶになるな!

ンンン……。

なんか、違ウ。

(モフモフに顔をうずめる)

暫しの沈黙の後、

ふと思いついたように、ヤグールが呟いた。

なぁ……万ちゃんよ。

オレと2人でネヴァサを抜けてみるか。

そうすりゃー月夜の草原でも、何処でだってお前を乗せて走ってやらぁ。

おんぶだけどね。

う~ン……ンフフ♡

(モフモフ)


……ハア!?

なんか今とんでもないこと言ったネ!?

たとえアンタでもボスへの裏切りは許さないヨ!

冗談だ。

……ボスが本当に結婚してくれると思うのか?
信じてル。

あの人と一緒になれば、私はきっと幸せになれル。

あぁそうかい……。


よぉーし、お喋りはここまでだ。

おじさんが耳元でゴロゴロしといてやるから、目を閉じろ。

人間寝ないと死ぬんだぞー。

(優しく喉を鳴らす)

あぁこのゴロゴロ音……、

落ち着クゥ~……。


……zzZZ。

(スヤァ)

万姫が眠ったのを見届けて、ヤグールは部屋を消灯した。

ったく。

お前はほんっっと、人を見る目がねぇよなぁ……。




その夜、

ヤグールははっと目を覚ました。


腕のなかで万姫が右に左に寝返りをうち、

なにやら(うな)されているのだ。

ウー…………;

……ッ;

……。

(お……? 怖い夢でも見てんのか?

寝不足のとこ悪いが、ここは起こしてやるか……)

おーい万ちゃー……、っ!?

グ、グギギギ……!

足りな"い、血が足りなイ。

もっどよ"こセ。血を"。血……ヲ。


あ、ゥ……;

(おいおいおい、これは一体どういう状態なんだぁ????)

あたふたする目の端で、ヤグールは嫌な気配を感じ取った。

それは壁に立て掛けてある万姫の大剣。

風もないのにカタカタと揺れ、まるで共鳴している様ではないか。


ヤグールはベッドを降り、恐る恐るその大剣に近づいてみた。

暗がりのなか、窓から射し込む月明りに黒い刃がぎらりと笑う。

(鉄とも鋼とも違う……謎の黒い素材でできてやがる。

前々から思っていたが、

この悪趣味な代物は一体なんなんだ~??


……えっ、マジで呪いとかそういうヤツじゃないよね?

怖いよ~~~!!!!!!!;;;;(涙目))

ガルルルル……!!

(なんだかよくわからんが、

こいつが原因なら海に捨てちまうか!!)

ヤグールが大剣に手を伸ばしかけた、

その時 ――。


嫌な気配がピタリと消え、万姫の寝息が穏やかになった。

すゥ……。

(寝)

……お?

…………気のせい、だったのか??

ふーむ…………。

その後、

滞在している間に妙な現象が起こることはなく、

モフのおかげで万姫はよく眠り、全てが気のせいのように思えていた。




―― 3日後の早朝。


万姫を起こすことなく、ヤグールは甲板にて飛竜の鞍を締め直していた。

準備を手伝う者達のなかに、スーの姿もあった。


表はにこにこ微笑みながら、

内心ではモフを知ることが出来ずやきもきしていた。

(ぐぬぬ……! 

万姫ったら、こんな時に限って大量のお使い事をよこすだなんて。

それに追われていたら、モフを探る時間を失ったじゃない……!

このまま帰すわけにはいかない……。

せめて何か聞き出さなくては気が済まないわ……!!)


あ、あの……ヤグールさん。

この度は万姫のために有難うございました。

うん?

いいってことよ!

同僚は大事にするのがオレの信条なもんでね。

まぁ、立派なのですね。

そうだとしても万姫には特に手厚いようにも見えますが、

なにか特別な理由でも?

特別な理由?

んなもん決まってる。

万ちゃんがピッチピチの20代女子だからだ!

男ばっかのむさ苦しい組織だもんで、若い娘は可愛いがってやらにゃあ!

うへへへ♪

(あぁ、やっぱりそういう下品な理由なのね……)


そうですか……。

ところでモフとは一体なんなのですか?

よければ私にも伝授して頂きたく。

悪いがモフに関しては秘密だ。

万姫がお前に話していないなら、オレも話すわけにはいかない。

残念でした~。今度はボインちゃんが眠れなくなるか??(笑)

……チッ。


じゃあせめて教えて下さい。

万姫は貴方をとても慕っています。

今回だって私の手助けを拒んで、わざわざ遠方にいる貴方を必要とした。

でも私は万姫に嫌われているわけではない……。

貴方の目線から見て、これって何故だと思いますか??

……?

確かお前、万姫の母代わり……なんだってな?
ええ、万姫は物心がつく前に母君に先立たれてしまったのです。

そんな万姫を、私は赤ん坊の頃からずっとお世話してきました。

万姫は私をとても頼りにしてくれて、私もそれが嬉しくて。

けれど貴方と会ってから、少しずつ私を必要としなくなっている気がして……。

いいかぁ、万姫にとってお前はもはや母親そのものだ。

んでもって、万姫はもうガキじゃない。

母親にいつまでも寄りかかっているわけにはいかない。

弱ってる姿を見せたくない、心配させたくないって思うんだろうよ。

その点、他人のオレになら頼り易いってだけだ。


親からすりゃあ水臭いだろうが、子からすれば一人前だと認めてほしいのよ。

じゃなきゃアンタ、いつまでも万姫を子供扱いして傍から離れないだろ?

万姫がアンタに首輪をつけない理由を考えろ。

自由になって欲しいんだよ。

私は自由ですよ。

自由であって、自分の意志で万姫に仕えているんです。

そっか。万姫は優しいから、遠慮しちゃうんだね……。

はぁ……なんだかな。


おっ、そうだ。

オレからも一つ聞きてぇことがある。

はい。

なんでしょう?

万姫の愛刀だが、

あれを万姫にやったのは誰だ?

あぁ……

万姫から聞いた話ではボスからの贈り物で、婚約の証なんだとか。

それで肌身離さず大事にしてるんです。

……それがなにか?

ほぉ。

……まぁ思うことがあってな。

あの大剣は部屋の飾りにでもして、

これからは必要なら銃を使えと言っといてくれ。

とにかく今後、万姫にあれを使わせるな。

お前が万姫を娘のように想ってるんなら、協力してくれるな?

なんだかよく分かりませんがー……

万姫の為になるなら喜んで。

……あいつは死ぬ寸前まで気丈に振る舞うタイプだからなぁ。

冗談交じりにでも弱音吐いてたら、もう限界だと察してやってくれ。

オレがいてやれない間は、お前が万姫を守るんだ。あくまで影からなぁ。

頼んだぜ、ボインちゃん。

(飛竜に乗って去る)

フン……。

貴方が万姫のなにを知っているというの……!?

―― 正午。


スーが船長室に食事を運ぶと、

万姫が陽を浴びながら筋トレをしていた。

いや~会議は実に有意義で、久々にぐ~~っすり眠れたヨ。

やっぱストレスだったのかナ~??

ヤグールはどコ?

おはよう万姫!

ヤグールさんなら今朝帰っていったよ。

私はそのお見送りをしました♪

なによ、アタシに一言も言わないデ。

手土産くらい持たせたかったのニ。

きっと万姫を起こしたらいけないと思ったんだね。
……。

で、ヤグールはなんか言ってタ?

例えば今後のこととか、アタシに対する文句でもあれば聞くヨ。

……んーん。

なあんにも言ってなかったよ♪

フフッ。

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登場人物紹介

【 ユケイ 】

CRYSTAK CROSSの主人公。

ひょんな事から7つのクリスタルに封じられた記憶を取り戻すべく、翠と一緒に頑張る10歳児。

口癖は「ほーん」「~なんだよ」「~だよん」。

お化けが怖くて夜一人でトイレにいけない。

同年代や年下の前では頼もしいが、年上相手には甘えん坊になってしまう。

必殺技に変な名前をつけがち。

現実世界:エディ・ウィローシュ(10歳)

【 翠《すい》】

水のクリスタル所持者

ユケイ君が可愛すぎて毎日がハッピー☆

他のクリスタル所持者達を裏切りユケイの味方をしているが、色々とヒミツだらけ。

その姿はクリスタルの能力によってできた水の分身体であり、本体の所在は不明。

本の世界のルールについて、なにかと詳しいようだが……?

【 シバ 】

ユケイを利用して成り上がった、海賊船の船長。

銃の腕は超一流。

現実世界:シルヴァ・アディントン(16歳)

【 リズ】

無口で謎の多い竜族の女の子。

ユケイに執着しており、どこまでも追いかけてくる。

現実世界:リズリット・ローリー(10歳)

【イナフ】

竜族の研究所に囚われていた竜族の青年。

ユケイと共に研究所からの脱出を試みる。

身のこなしが素早く、足技が得意。

現実世界:イアン・ハイアット(16歳)

【エミエル】

光のクリスタル所持者

竜界の覇者であり、竜族達を束ねる王。

少女の姿をしているが2000年以上生きており、その正体は巨大な竜である。

魔王ジギとは仲良しこよし同盟を結んでいる。

好きな食べ物は苺。水が苦手で風呂嫌い。

【 ジギ 】

闇のクリスタル所持者

魔界の支配者であり、魔族達を従えている王。

闇の魔法を操る魔法使い。気付いたらエミエルのお世話を焼いている。

見た目の雰囲気に反して、可愛い小物やお菓子作りや裁縫が好き。

キュンは1日3度まで。4度目は死(?)に至る。

万姫《ワンヂェン》

三大海賊団『ネヴァサ』の船長がひとり。

千人斬りの異名を持つ。

元は風の国の第一皇女。全ては敬愛するボスの為に。

現実世界:王・深緑(ワン・シェンリュ)(17歳)

ヤグール

三大海賊団『ネヴァサ』の船長がひとり。

魔獣使いの異名を持つ。

万姫を気にかけている。

現実世界:ヤーコフ・スミス(44歳)

バル・ムワ

三大海賊団『ネヴァサ』の船長がひとり。

強欲の王の異名を持つ。

スー

竜族三姉妹の長女。

万姫のお世をしている竜族。

透視や近い未来を予言する能力をもっている。

現実世界:王・思颖(ワン・スーイン)(42歳)

【イルヴァ】

竜族の王国を守護する白薔薇騎士団の団長。

エミエルに絶対の忠誠を誓っている。

三度の飯よりイナフのことが好き。

超泣き虫。

現実世界:オリヴァー・イェリデン(15歳)

【 ラダリェオ 】

類まれな戦闘の才を持っているが、

残酷なことが嫌いな変わり者のロゴドランデス族。

セスとイナフにはめっぽう弱い。

わりとツンデレ。

現実世界:ランドルフ・ハイアット(38歳)

【 エバ 

人間界に生まれ竜界で育った、

砂漠に住まう力自慢の竜族。

マイブームはラダリェオと戦うこと。

現実世界:エマ・アシュバートン(36歳)

【 レヴァン 

砂漠出身の、力自慢の竜族。

白薔薇騎士団の副隊長。

元反王国派だったが、今はエミエルに忠誠を誓っている。

好戦的で猪突猛進。

なにかとイルヴァにつっかかる。

現実世界:レオン・タイラー(15歳)

【 エルク 

竜族の歌姫・アルテミシアの弟。

歌声に特殊能力を持ち、聞いた者の状態を操る。

豪華客船にて、窮地のところをユケイに救われ、固い友情が結ばれた。

リズとも仲良し。

現実世界:エリック・アンダーソン(10歳)

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