ハッピーハロウィン2023!【後編】
文字数 6,492文字
満月にかかるうろこ雲。光は淡くぼやけてゆき、白薔薇の影が深くなる……。
そろそろハ~ロウィ~ンの催しを始めようぞ!
みなの者、準備はよいか?
エミエルが声を張ると、遊んでいた子供達が集まってきた。
それぞれが手にしているのは、
様々な表情をしたお手製のジャック・オ・ランタン。
それを頭にすっぽり被せて、子供達はパンプキン・ゴーストになった!
あら可愛い。
お化けの仮装だけでなく、被り物まで用意したんですねぇ。
うんむ。
カボチャがあまりに余ったのでな。消費に貢献するため先程みんなで作ったのだ。
中身はもちろんジギに提供したぞ♪
しっかし……
みんな同じ格好に、カボチャ頭までお揃いになっては、誰が誰だかわからないのでは……?
問題ない。
子供の数は20名!
これさえ覚えておけばよい。
それでそれでっ!?
これから何をするのん?
オレは何をすればいいのん!?
(ウキウキ)
まぁ、まずは聞くがよい。
……では改めて、ルールを説明する!
お化けとなった今夜だけは、夜の白薔薇庭園で遊んでも良いこととする。
庭園のあちこちにはお菓子が隠れているぞ。
皆もよく知る美味しいヤツゆえ、探さねば損である♪
ヒントはカボチャの灯りなり。
制限時間は1時間! より多くの種類のお菓子を見つけた者には、
ハ~ロウィ~ンの主役であるパンプキン・キングの称号を与えよう!
「パンプキン・キングになりた~い!」
「よーし、負けないぞ~!」
「なんだかドキドキしてきた……」
「一緒に行動しようね!」
「どんなお菓子があるんだろう♪」
あの広いお庭の中でお菓子を探すゲームだね!
めっちゃ楽しそう!
(……そういえば、
なんでハ~ロウィ~ンって変なとこ伸ばしてるんだろう。
わざとなのか間違えてるのか。なんか気になるけど触れないでおこぅ……)
そうそう。
魔王に怒られたくなければ、花をむしって遊ぶでないぞ?
あと、城に入ることは禁ずる。患者達を驚かせてはならないからな。
時間になったら合図するゆえ、それまでうんと楽しむがよい。
……小さなかわゆいお化け達よ、夜の庭を駆け回れーっ!
子供達はバスケットを持ち、元気いっぱいに宿舎を飛び出していった。
全員が庭園に向かったのを見届けてから、
エミエルは実行委員達に振り返った。
よしよし……ここまでは順調なり。
それでは実行委員のみなに役割を言い渡す。
見ての通り、孤児院の保育士達は今ここにはいない。
今夜は城の患者や従業員にもご馳走を振る舞うそうでな。蟲達では火が扱えぬゆえ、
竜族である保育士達が城の厨房に入り、夕飯作りを手伝っているのだ。
ユケイ、お前はホタル蛾とともに子供達の様子を見守ってくれ。
白薔薇庭園は迷路なり。迷子になる者が出ないようにな。
オッケー、任せといて!
実行委員! さっそく行動開始だよっ!
(カボチャのランタンを持って飛びだす)
かしこまりました。
(お辞儀をしてユケイの後を追ってゆく)
ふふふっ、ユケイ君ったら張り切っちゃって。
こういう時になると妙に頼もしくなるんですよねぇ~(笑)
お前には宿舎の奥にいる寮母とともに、夕飯の準備を手伝ってもらいたい。
ハ~ロウィ~ンパーティらしくなるよう、飾りつけも必要である。
頼めるか?
そこにある椅子やテーブルを並べて、食器を配っておけばいいんですね?
その通りだ。
詳しくは寮母に尋ねよ。
配置や装飾のあれこれは、お前のセンスに任せたぞ!
我は全てを見守るなり。
困りごとがあればいつでも声をかけよ。
では、実行委員も駆け回るがよい! 散!
(エミエル……見た目はユケイ君とそう変わらないのに、
場を仕切ることに慣れているというか……子供らしからぬ統率力を感じますねぇ。
さすがは竜族の『王』といったところでしょうか……)
むむ?
どうした、我のかわゆい触角に蝶でもとまっているか?
いーえ。
(えっ、それ羽っぽい髪じゃなくて触角なの……?!)
で、では翠ちゃんも行動開始で~すっ★
(すたこらさっさ)
――その頃。
ユケイが庭園に到着すると、
そこには来た時にはなかった光が点々と灯っていた。
お菓子の目印である、カボチャのランタンだ。
それらが程よく足元を照らし、暗いなかでも快適に動く事ができた。
カボチャの頭には皿が乗っており、一口サイズのお菓子が並んでいた。
場所によって種類が異なり、クッキー、キャンディ、蒸しケーキ。
ドーナツ、焼き菓子、ちょっとしたケーキまである。
どれもこれもハロウィン仕様で、ユケイはぐっと生唾を呑んだ。
ってゆーか、ハロウィンの話をしてから4時間くらいしか経ってないのに、
ジギはこーいうのをささっと作れちゃうのかな?
それとも魔法使いだから魔法で作るとか?
どっちにしても、めっちゃスゲーー!!
自身も本場ハロウィンの出身として(?)負けていられないと、
ユケイは子供達のために迷路のような白薔薇庭園を奔走した。
お菓子を一人占めする子を窘め、喧嘩があれば仲裁し、
迷っている子がいれば誘導してあげた。
ホタル蛾とすれ違った際には、順調のハイタッチ。
我ながらいい仕事をしているな~と巡回を続けていると、
庭園の隅、いばらの暗がりにぽつりと座り込んでいる子供がいた。
ユケイはにこりと微笑んで、灯りを掲げて近づいていった。
そんなところで何してるの~ん?
……あれあれ? キミ、一つもお菓子を持ってないね。
じゃあオレと一緒に探そっか!
あのね、お菓子はもういいんだ。
ねぇお兄ちゃん、一緒に遊ぼうよ。
かくれんぼがいいな。ボクが隠れるから、見つけてね。
えっ、ちょっと待って!
……あれぇ、もう見えなくなっちゃったよ;
参ったな~~でも見つけないわけにもいかないし、探してあげよう。
確かこっちに向かったよね。
突然かくれんぼをはじめた子供を探して、ユケイは庭園のはずれへと踏み入っていった。
カボチャの灯りがないことから、この辺りにお菓子はないことがわかる。
そんな場所の茂みの奥に、隠れきれていないカボチャ頭を見つけた。
みーっけぴ!ここは暗くて何もないからさ、遊ぶならあっちで遊ぼうよ。
ねぇお兄ちゃん、お馬さんごっこして。
ボクを乗せて走ってほしいな。
おっけー。
そしたら皆がいるところまで乗せてあげるよんっ!
はい、どーぞ♪
(四つん這いなる)
わぁいわぁい。
ありがとう、優しいお兄ちゃん。
(ユケイの背中に乗る)
はいどーはいどー♪
ヒヒーン!
オレのことは紅きサラブレッドと呼んでくれぇー!
違うよ、サラブレッド!
めっちゃ早いお馬さんだよっ!
その場を駆け回って暫く、ユケイはこのまま皆のいる場所まで子供を連れてゆこうとした。
賑わう場所まであと少し。背中からひょいと重みが消えた。
影をまとって佇む子供にユケイは小首を傾げながらも、
優しくその手を差し伸べた。
もちもちのろんなんだよ!
あっ、もしかしてイジワルなヤツがいて怖いとか?
小さな声を遮って、集合の合図が鳴った。お菓子集め終了の時間だ。
ホラ! もう帰る時間だよ!
この後みんなでお夕飯なんだって、楽しみだね?
急がなくっちゃ。さぁ行こう?
ユケイはその子の手を引いて、賑わいのなかに混じっていったのを見届けた。
子供の数は20名。
全員ちゃんと揃っていたのでユケイは宿舎の扉を閉めた。
皆さんお帰りなさ~い。
仮装をとって、おててを洗ってからパーティの席について下さいね~!
食堂は見違えるほど華やかに飾りつけられていた。
子供達は翠に誘導され、円卓の席についてゆく。
ふと、いい匂いがして窓の外を覗くと、
城の方から魔王と保育士と赤蟻の魔物達が料理を運んでくるのが見えた。
子供達と同じように、ユケイとエミエルも目を輝かせた。
待たせたなァ……。
おかわりは沢山あるから、皆好きなだけ食べてくれ。
今夜の献立はカボチャのシチュー、コーンサラダ、パン、ぶどうジュース、お芋プリンだ。
しっかりとよく噛んで、喉につまらせるなよォ……?
施設の子供達
「「「 わあああっ! 」」」
「「「 美味しそう~~! 」」」
「「「 魔王さまありがとう! 」」」
順番に配っていきますから、お席で待っていて下さいね~。
……コホン。
それでは、料理が揃うのを待ちながら、今夜のハロウィン・キングを発表しよう!
たくさんのお菓子を見つけたのは、この子なり~~~!
(あれ? この声はさっきの子だ。
なーんだ、ちゃんとお菓子を集めてたんだね)
おめでとー!(拍手)
ハロウィン・キングには、王冠の髪飾りを授ける!
そして特等席にご案内なり。みんなのお顔がよく見える、一段高いお席である。
さらにさらに、デザートのプリンが1つ増えます。
施設の子供達
「「「 ハロウィン・キング! おめでとー! 」」」
さぁハロウィン・キングよ、皆の席に料理が揃った。
「頂きます」の合図を頼む。
元気いっぱいの大きな声でな♪
ハロウィンパーティはとても賑やかなものになった。
子供たちの笑顔を見ていると、ユケイは実行委員として鼻が高い気分になった。
そして同時に、故郷のイギリスを思い出して心が少しきゅっとなった……。
オィ……(つんつん)。
いつまでそこに立っているつもりだァ……?
まさかお前も協力してくれているとは思わなかったが、ご苦労だった。
……こっちにきて一緒に食べろ。
ユケイく~ん!
実行委員にもご馳走がありますよ~!
今日は色々とお疲れ様でしたね。さぁこちらへキャモーン!
ふぁああぁああああ!!!!
美味いっ! 美味いぞっ! うまうまなりや~~~!!
(床をのたうち回る)
待ってました~~!
オレめ~~~~っちゃお腹が空いてるんだよ!
いっただっきま~す!
カボチャのシチューってオレはじめて食べるけど、
これなら毎日でも食べられるよ!
オレ、ジギん家の子になりたいなぁ。
よきよき。
お前もジギの子になれ。
ジギはみんなのママなりや。
ちょ、なに言ってんですかユケイ君。
翠ちゃん悲しいぃ~~ピエーーーン。
はい、ちゃんとサラダも食べなさいね~~?
エミエル、ちゃんと噛んでるかァ……?
喉に詰まらせるなって、お前の事なんだからなァ??
前々から思っていたんですけど、
貴方ってエミエルちゃんに過保護すぎません?
今夜見ていた限りでは、エミエルちゃんはかなり自立していると思いましたよ。
だからママって言われちゃうんでしょう。このロリコンめぇ(ボソッ)。
……過保護だとォ?
そもそも、だ。エミエルは王であり、一応オレ様の主にあたる。
至って普通に尽くしているだけであって、趣味でもなんでもない……。
このショタコンがァ(ボソッ)。
あのね、私がいない間にこっそりやってきて、
ユケイ君を手懐けようったってそうはいきませんから!
だったらあまり目を離さないことだなァ……!
夜な夜なコソコソ出かけるらしいが、まったく怪しい女だぜェ……!
やれやれ。
なにやらママ同士が火花を散らしているな。
喧嘩するほどなんとやら~……。
なぁユケイ。あの2人、お似合いだとは思わぬか?
えっ、オレには仲が悪いように見えるけど……。
ってゆーか翠はやめた方がいいよ。つき合ったら絶対苦労するよ?
あれはね、男を尻に敷くタイプだから。絶対。
耐えられるのは多分オレくらいなもんだ。
そうなのか? ふふ、すまんな。
……はぁ。ジギもよい年頃であるし、番でも見つければ良いと思うのだがな。
若くして器量もよいのに、仕事ばかりの毎日では勿体のないことだ。
ジギはお前を気に入っているようだからな、いい感じの女性がいれば紹介してやってくれ。
我は2000年以上生きているからな。
大人びて見えるのならば、それは年の功である♪
口元をべたべた汚しまくって、このまごうことなきお子様達がァ……!
オレ様が拭いてやろうかァ~????
―― こうして、魔界でのハロウィンパーティは何事もなく終了……すると思われた。
突然、
宿舎の扉が開かれて、兵隊蟻が現れた。
同伴しているのは泣きべそをかいたひとりの子供。
なんと、庭園の迷路で迷ったまま取り残されていたという。
うわ~~ん!
気付いてくれないなんて、みんな酷いや~!
寒かったよ~! お腹空いたよ~!(大泣)
えっえっえ~~!?;;
オレちゃんと全員いるの数えたよ!?;
ねっホタル蛾さん!; オレと一緒に確認したもんね!?;(大慌)
え、ええ……;
確かに私も確認したのですが、まさか見落としを……?;
魔王様、竜王様、申し訳ございません……!(跪)
でも妙ですねぇ、子供の席は20名分。
5名ずつの4つの円卓。全部埋まっていましたよ?
いない子がいたなら席が余るはずですけど……。
なんかよくわからんが、今きた子を加えて数えなおせ。
今すぐにだ。
17,18,19……20。
何度数えても20名……ですね。
やはり確認を誤ったのでしょう。
うぅ……(触角シューン)
……。
……とにかく無事でよかった。
さぁ体を温めて、料理はまだ残っているから安心してくれ。
どれ、泣く子は我に任せよ。
おぉよしよし。泣くでない泣くでない。
ええ?
なんかおかしくないですか??;
おかしいと思うの、翠ちゃんだけーー!?
確かに埋まっていたはずの、子供のための20席。しかし後からひとり現れ、数え直すも20名。
実行委員達が首を傾げるなか、ハロウィンパーティはおひらきとなるのだった。
―― 翌朝。
エミエルとホタル蛾は、ジギの書斎を訪れた。
ジギぃ~~~……昨晩はすまぬ。
我の監督不足なり。無念。
……そんな顔をするな。
あのウルサイ女が最後まで異議を唱えるものだから、
本当に単なる数え間違いだったのか原因を調べさせてみた。
そこで昨晩の謎が解けたから、お前達にも伝えておこうと思ってなァ……。
ほう。
その手にあるのはハロウィン・キングに授けた、王冠の髪飾りだな?
なぜお前が持っている?
保育士いわく……これの持ち主が見つからないそうだ。
だが現在も、子供はちゃんと20名いる……。
そしてオレ様を含め、被り物をとったハロウィン・キングの顔を誰も覚えていないときた。
つまりだ、ハロウィンに紛れて本物がやってきたらしい……。
……そしてオレ様は、それが誰だか心当たりがある。
イリア……。
数日前に病気で亡くなった、猫族の男の子だ。
保護した当時から体調を崩しがちで城での入院生活の方が長かったが、
孤児院にいた時はたくさんの友達ができたと聞いていた。ずっと孤児院に戻りたがっていたんだが、結局叶わなかったな……。
これが馬の置物の上に乗せてあったと聞いて、ピンときたんだ。
あの子は最期まで、お馬さんごっこが好きだったからなァ……。
今夜、イリアの墓にこの冠を供えにいこうと思う。
お前達も来てくれるか……?
ええ、是非……!
私はカウンセラーとして、あの子と多くを語り合いましたもの。
………だが!
それと子供が庭園に取り残されていたのは別問題だ。
庭園には多くの兵隊蟻が巡回しているからよかったものの、
オレ様は、あの子達をこれ以上悲しませたくないんだ。
以後気を付けてくれェ……。
はい……。
……ジギ様の御心に添えますよう、尽力して参ります。
……。
来年のハロウィンはどうしようかとも思ったが、
この様な来訪者が訪れるなら、それを歓迎するのもアリだなァ……。
ククク……来年はもっと盛大に、完璧にするぜェ……♪
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