みんなで行こう!温泉旅行!【前編】
文字数 3,430文字
―― よく晴れた冬の日のこと。
ユケイと翠は水の国の繁華街を訪れていた。
長旅に必要なあれやこれやを新調するためである。
おしゃれな店が立ち並ぶ大通り。
2人はしっかり手を繋ぎ、人混みの中をかき分けて、大規模なデパートにやって来た。
広告の横断幕が風に揺れ、一帯には愉快な音楽が流れていた。
ユケイはそれをぽかんと見上げ、
館内に入ってからはキョロキョロうろちょろ。
ショーウィンドウに駆け寄っては目を輝かせていた。
そんな様子にキュンキュンしつつ、
翠は平静を装い後を追う。
メモを片手に各階へ。
誰かがストリートピアノを弾いていたり、壁が水族館のようになっている場所があったりと、
時には見物しながら館内をまわってゆく。
一式買い揃えてみると、なにやら青色ばかりが目立った。
お夕食も買い込んで、
お買い物を堪能すること半日。
そろそろ帰ろうかといった矢先、なにやら長蛇の行列があった。
興味に誘われ辿ってみると、それは何かのイベントに際したくじ引きだった。
レシートを合算し、所定の金額につき一回引けるというもの。
当たりは3種類。
【3等】は商品券。
【2等】はグルメギフト。
そして【1等】は、超高級旅館で楽しむ温泉旅行の宿泊券だ。
帰る前の一興。翠は主人公の運を試してみたくなった。
くじ引きと聞いてユケイもやる気満々。
前列の子供がハズレのティッシュを受けとり、いよいよユケイの番がきた。
挑戦権は3回。
翠は応援を装いながら、内心では2回連続でハズレ、3回目で何かしらの景品が当たるだろうと予想していた。
なにせ主人公だし。
ガラガラのなかで波打つ出玉。
ユケイは慎重にハンドルをまわす。
2個目のティッシュを小脇に抱え、最後の1回には青い魂の念を込める!!
その真剣すぎる横顔に翠は笑いを堪えていた。
受け皿に落ちる黄金の玉。
大当たりの鐘が鳴り響き、並んでいる人達をざわつかせた。
翠の予想は的中し、やはり主人公は【1等】を当ててしまうのだった。
その一式が進呈され、温かい拍手に包まれた。
そしてお待ちかね。
ユケイによる開封式のもと、
【1等】の景品である宿泊券とパンフレットがテーブルに広げられた。
温泉旅行に誘うべく、みんなに会いにゆくのだった!
旅行の誘いは好感触!
ユケイは嬉しくなって楽しくなって、その勢いで魔界へ赴き、
魔王ジギにも宿泊券を差し出した。
……えーっとえっとぉ。
それについてはパンフレットに書いてあるみたいだね!
『事前に連絡を下されば、お食事はご信念や宗教を考慮することも可能です』
だってさ! さすがは高級旅館。
これは宗教でも好き嫌いでもない、少々複雑な問題でなァ……対応してもらえるならありがたい。
無精卵と蜂蜜はいいが、肉と魚と牛乳は駄目だと伝えておいてくれ。
エミエルにはオレ様から話を通しておこう。当日を楽しみにしているぜェ……。
豪華客船にて共に窮地を乗り越えた、アルテミシアの弟であるエルクに送るのだった!
奔走すること
宿泊券を配り終え、
ユケイは意気揚々と宿屋に戻った。当日に想いを馳せながら、ユケイは机にかじりつき筆勉を走らせる。
果たして、
このカオスな10名の団体客は、
何事もなく温泉旅行を楽しむ事ができるのだろうか!?
【中編】へ続く!
(ドコドンッ!!)
(ログインが必要です)