第97話
文字数 4,768文字
菊池リンの父親が、五井長井家出身であることは、わかった…
が、
なぜ、菊池リンが、五井長井家に味方するのか、わからない…
そして、話の流れから、彼女が、五井長井家に、情報を流したのだろう…
おそらく、FK興産の保有する伊勢原周辺の土地が、価値があると、五井長井家に情報を流したのも、彼女だろう…
彼女、菊池リンだろう…
が、
なぜ、菊池リンが、そこまで、五井長井家に、味方するのか、わからなかった…
皆目、わからなかった…
が、
突然、菊池リンが、
「…パパは、おとうさまは、半端にされてた…」
と、怒った口調で、言った…
そして、
「…おばあさまのせいよ…」
と、怒った目で、和子を、睨みつけた…
私は、意味がわからなかった…
なぜ、和子が、責められるのか、意味がわからなかった…
すると、ナオキが、
「…どうして、おばあさまのせいなんですか?…」
と、菊池リンに聞いた…
菊池リンは、FK興産に勤務していた…
私を見張るために、勤務していた…
だから、社長のナオキと面識がある…
それゆえ、ナオキは、彼女に質問したのだろう…
「…それは、おとうさまを、おあばさまが、五井東家に、招いたからです…」
「…どういう意味ですか?…」
ナオキが、聞く…
「…おかあさまの婿にして、五井東家に招いたからです…」
菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…
「…正直、おかあさまと、おとうさまは、合わなかった…娘の私から、見ても、合わなかった…」
菊池リンが、激白する…
「…それでも、二人は、結婚した…おばあさまのせいよ…」
菊池リンが、容赦なく、和子を攻撃した…
正直、見ていて、決して、気持ちのよいものでは、なかった…
なにより、和子が、疲れ切っていた…
だから、余計に、和子が、可哀そうに、思えた…
すると、
「…そう…たしかに、私のせいかもしれない…」
と、和子が、疲れ切った声で、言った…
「…そうよ…おばあさまのせいよ…」
菊池リンが、激しい口調で、言う…
「…おとうさまも、おかあさまと結婚さえ、しなければ…」
「…でも、それは、仕方ないのよ…リン…」
「…なにが、仕方ないの?…」
「…五井は、一族内で、結婚するのが、掟…私の力で、どうにか、なるものじゃ、なかった…」
「…ウソ!…」
「…ホントよ…リン…それに…」
「…それに、なに?…」
「…リンのおとうさまは、優秀だった…だから、リンのおかあさんと、結婚させて、東家を守ってもらうつもりだった…」
「…でも、二人は、合わなかったじゃない!…」
菊池リンが、怒鳴った…
「…オマエのおかあさんが、強すぎたのよ…」
「…」
「…リン…今のオマエを見ても、そう…外見は、可愛く、おとなしく見えても、中身は、違う…」
「…」
「…見た目からは、想像もできないほど、激しく荒々しい気性…そして、それが、五井…それこそが、五井…五井の歴史は、女の歴史…強い女が、五井の男たちを支えたゆえに、五井は、400年の長きに渡り、繫栄した…そして、それは、苗字に現れている…」
「…苗字に?…」
思わず、私は、呟いた…
すると、和子が、私を見た…
そして、笑いながら、
「…だって、本家の苗字は、諏訪野だし、東家は、菊池…誰も、五井を名乗ってないでしょ?…」
と、私に言った…
「…これは、五井の婿取りを現している…本来、五井を束ねるのは、女…五井の女たち…女たちが、それぞれ、優秀な男たちを、婿にして、五井の会社を、任せた…だから、五井は、繁栄した…」
「…だから、繁栄した…」
と、私。
「…そして、その繁栄は、明治になってから…明治になってから、娘たちが、結婚して、独立した…その結果、各分家が、それぞれの裁量で、会社を経営して、繁栄した…それゆえ、本家、分家とも、苗字が、異なる…」
「…」
「…でも、それが、良かったけれども、弱点ができた…」
「…弱点?…」
「…血が薄まること…元々、ご先祖様は、400年前…でも、五井が、繁栄したのは、明治期で、今も言ったように、五井の女たちが、それぞれ、優秀な婿を取ったから、繁栄した…しかも、それぞれが、独立経営というか…各分家で、自由に会社を経営できた…それが、五井の繁栄の理由…でも、その結果、血が薄れた…それゆえ、五井としての団結心がなくなった…」
「…」
「…だから、戦後は、その反省で、一族内での結婚を奨励することになった…これ以上、血が薄まれば、ますます、他人に近くなり、団結心がなくなる…私と姉が、五井本家に嫁いだのも、同じ理由…そして、娘も、同じ…」
「…同じ…」
「…要するに、一族内で、結婚相手を見つける…」
「…」
「…その結果、五井長井家から、婿を取ることになった…」
「…」
「…でも、これが、うまくいかなかった…二人の相性が悪かった…」
「…」
「…それで、最終的に、リンの父嫌は、東家を出て行ってしまって…」
和子が、落ち込んだ様子で、語る…
そして、それを、聞いた菊池リンが、
「…おばあさまのせいよ…そして、おかあさまのせい…」
と、言って、涙ぐんだ…
「…そう、たしかに、私のせい…」
和子が、力なく言った…
「…でも、リン…アナタのおとうさまは…」
「…言い訳は、聞きたくないわ…」
「…リン…」
「…おとうさまとおかあさまの間に、なにが、あったか、知らないけれども、おとうさまが、家を出て行ったのは、事実…まぎれもない事実よ…」
「…」
「…私は、おとうさまが、好き…大好きだった…」
菊池リンが、激白する…
「…そのおとうさまを、追い出した、おかあさまと、おばあさまは、許せない!…絶対、許せない!…」
菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…
まさに、菊池リンの本性が現れた瞬間だった…
その愛くるしい顔に隠された本性が、現れた瞬間だった…
実に、激しく荒々しい気性の素顔…
外見と内面が、まるで、違う…
ビックリするほど、違う…
たしかに、この菊池リンの母親も、菊池リンに似ていれば、夫も逃げ出したのも、頷ける…
逃げ出したのも、納得できる…
誰もが、外見から、入る…
男でも女でも、まずは、外見を見て、相手を判断する…
つまりは、外見が、良ければ、有利…
男は、イケメン…
女は、美人…
なら、有利…
あるいは、外見が、おとなしそうだったり、いわゆる、ヤンチャに見えたり…
それで、判断する…
が、
実際は、違う…
中身は、違うということだ…
見るからに、おとなしそうな人間が、おとなしいとは、限らない…
また、ヤンチャに見える人間が、全員、性格が悪いわけでもない…
つまりは、見た目と中身は、違うということだ…
そして、それは、ハッキリ言えば、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…
それは、なぜか?
それは、やはり、会社や学校では、見せない姿を見せるからだ…
いわゆる、プライベートと、パブリックの差というか…
プライベート=家庭…
と、
パブリック=会社、学校…
の違い…
会社や学校では、いいひとを演じていて、家では、我がまま放題とか…
あるいは、会社や学校では、テキパキ動くのに、家では、おおげさに言えば、左のものを、右に動かすことも、しない面倒くさがり屋ということもある…
要するに、家では、しないことを、学校や会社では、する…
よく見られたいからだ…
恰好をつけたいからだ…
周囲からの評価を上げたいからだ…
つまりは、そういうことだ…
だから、おそらく、この和子は、菊池リンの母親の婿を選ぶにあたって、一族の評判だけを信じたのだろう…
あるいは、元々、選択肢がなかったのだろう…
一族内で、結婚相手を見つけるとなると、どうしても、選択肢が、限られる…
例えば、十人の男から、一人を選ぶ選択肢もないかも、しれない…
それは、なぜか?
独身の男女の数は、限られるからだ…
おまけに、年齢がある…
普通に考えれば、例えば、この菊池リンは、今、23歳…
彼女の夫選びを考えたとき、せいぜい35歳ぐらいまでが、限度だろう…
また、真逆に、菊池リンが、35歳で、あれば、23歳の男と結婚するのは、難しい…
男が、嫌がるからだ…
今の時代、多少は、女が上でも、構わないが、男が、23歳で、あれば、5歳ぐらい年上が、限度だろう…
そう考えると、ますます選択肢が、狭められる…
だから、もしかしたら、菊池リンの母親が、結婚するにあたって、一族内で、菊池リンの母親と、結婚できる男が、驚くほど、少なかった…
そんな可能性がある…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、私が、考えていると、ナオキが、突然、
「…失礼ですが、ちょっと、お聞きしたいことがあるんですが…」
と、口を挟んだ…
そのナオキの一言で、その場の全員が、ナオキに視線を向けた…
「…なんですか? …藤原さん?…」
和子が、聞いた…
「…FK興産の持つ土地…伊勢原に持つ土地ですが、そんなに、価値があるんですか?…」
「…」
「…いえ、うちのような従業員千人程度の会社が、手に入れた土地です…それが、手に入るか否かで、五井の序列が崩れるような…そんな大事になるのか? 疑問があって…」
ナオキが、言う…
考えてみれば、当たり前だった…
FK興産は、たしかに、それなりに、世間に知られているが、それは、主に、ナオキが、テレビのキャスターをしているから…
週一に過ぎないが、テレビに出ている…
そのおかげで、世間に知られている…
もっとも、それは、ナオキが、長身のイケメンであることが、大きいが(笑)…
とにかく、そのおかげで、世間に知られている…
が、
それは、ともかく、そんなに大きな会社ではない…
五井から見れば、吹けば飛ぶようなチンケな会社(笑)…
そんな、小さな会社が、持つ、土地が、いかに値上がりしようと、その土地を持つか否かで、五井の序列が、崩れるような、大事になるのだろうか?
疑問だった…
だから、和子を見た…
なんと、答えるのか、知りたかったからだ…
すると、
「…たしかに、そうね…」
と、和子が呟いた…
「…五井長井家が、FK興産を手に入れて、伊勢原周辺の土地を手に入れる…それが、伊勢原に小田急の車両基地ができるからと、いって、その土地が、値上がりしても、正直、五井の序列を崩すほどの力はない…」
「…だったら、どうして?…」
と、ナオキ…
「…今は、いい…将来のため…」
「…将来のため?…」
と、私。
「…今回のことが、契機になって、五井の序列が、崩れるのが、困る…正直、五井長井家が、あの土地を手に入れようと、手に入れまいと本家や東西南北の4家の序列は、変わらない…でも、その他の分家の序列が、変わりかねない…」
「…その他の分家の序列?…」
と、私。
「…他の8家もまた、序列がある…皆、平等ではない…五井長井家が、伊勢原の土地を手に入れることで、他の8家の序列が、崩れたら、困る…」
和子が、FK興産の株を半分、手に入れた真意を説明する…
が、
和子の説明に異を唱えた者が、いた…
他ならぬ菊池リンだった…
「…ウソ!…」
菊池リンが、大声を出した…
「…なにが、ウソなの? …リン…」
和子が、彼女をたしなめるように、言う…
「…FK興産の株を半分、手に入れた理由は、五井長井家は、関係ない…五井の序列は関係ない…」
「…関係ない? …どうして、関係がないの?…」
「…本当の目的は、寿さん…綾乃さん…」
「…エッ? …私?…」
「…綾乃さんと伸明さんを結婚させるためでしょ?…」
彼女が、言った…
菊池リンが、言った…
仰天の言葉を、言った…
が、
なぜ、菊池リンが、五井長井家に味方するのか、わからない…
そして、話の流れから、彼女が、五井長井家に、情報を流したのだろう…
おそらく、FK興産の保有する伊勢原周辺の土地が、価値があると、五井長井家に情報を流したのも、彼女だろう…
彼女、菊池リンだろう…
が、
なぜ、菊池リンが、そこまで、五井長井家に、味方するのか、わからなかった…
皆目、わからなかった…
が、
突然、菊池リンが、
「…パパは、おとうさまは、半端にされてた…」
と、怒った口調で、言った…
そして、
「…おばあさまのせいよ…」
と、怒った目で、和子を、睨みつけた…
私は、意味がわからなかった…
なぜ、和子が、責められるのか、意味がわからなかった…
すると、ナオキが、
「…どうして、おばあさまのせいなんですか?…」
と、菊池リンに聞いた…
菊池リンは、FK興産に勤務していた…
私を見張るために、勤務していた…
だから、社長のナオキと面識がある…
それゆえ、ナオキは、彼女に質問したのだろう…
「…それは、おとうさまを、おあばさまが、五井東家に、招いたからです…」
「…どういう意味ですか?…」
ナオキが、聞く…
「…おかあさまの婿にして、五井東家に招いたからです…」
菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…
「…正直、おかあさまと、おとうさまは、合わなかった…娘の私から、見ても、合わなかった…」
菊池リンが、激白する…
「…それでも、二人は、結婚した…おばあさまのせいよ…」
菊池リンが、容赦なく、和子を攻撃した…
正直、見ていて、決して、気持ちのよいものでは、なかった…
なにより、和子が、疲れ切っていた…
だから、余計に、和子が、可哀そうに、思えた…
すると、
「…そう…たしかに、私のせいかもしれない…」
と、和子が、疲れ切った声で、言った…
「…そうよ…おばあさまのせいよ…」
菊池リンが、激しい口調で、言う…
「…おとうさまも、おかあさまと結婚さえ、しなければ…」
「…でも、それは、仕方ないのよ…リン…」
「…なにが、仕方ないの?…」
「…五井は、一族内で、結婚するのが、掟…私の力で、どうにか、なるものじゃ、なかった…」
「…ウソ!…」
「…ホントよ…リン…それに…」
「…それに、なに?…」
「…リンのおとうさまは、優秀だった…だから、リンのおかあさんと、結婚させて、東家を守ってもらうつもりだった…」
「…でも、二人は、合わなかったじゃない!…」
菊池リンが、怒鳴った…
「…オマエのおかあさんが、強すぎたのよ…」
「…」
「…リン…今のオマエを見ても、そう…外見は、可愛く、おとなしく見えても、中身は、違う…」
「…」
「…見た目からは、想像もできないほど、激しく荒々しい気性…そして、それが、五井…それこそが、五井…五井の歴史は、女の歴史…強い女が、五井の男たちを支えたゆえに、五井は、400年の長きに渡り、繫栄した…そして、それは、苗字に現れている…」
「…苗字に?…」
思わず、私は、呟いた…
すると、和子が、私を見た…
そして、笑いながら、
「…だって、本家の苗字は、諏訪野だし、東家は、菊池…誰も、五井を名乗ってないでしょ?…」
と、私に言った…
「…これは、五井の婿取りを現している…本来、五井を束ねるのは、女…五井の女たち…女たちが、それぞれ、優秀な男たちを、婿にして、五井の会社を、任せた…だから、五井は、繁栄した…」
「…だから、繁栄した…」
と、私。
「…そして、その繁栄は、明治になってから…明治になってから、娘たちが、結婚して、独立した…その結果、各分家が、それぞれの裁量で、会社を経営して、繁栄した…それゆえ、本家、分家とも、苗字が、異なる…」
「…」
「…でも、それが、良かったけれども、弱点ができた…」
「…弱点?…」
「…血が薄まること…元々、ご先祖様は、400年前…でも、五井が、繁栄したのは、明治期で、今も言ったように、五井の女たちが、それぞれ、優秀な婿を取ったから、繁栄した…しかも、それぞれが、独立経営というか…各分家で、自由に会社を経営できた…それが、五井の繁栄の理由…でも、その結果、血が薄れた…それゆえ、五井としての団結心がなくなった…」
「…」
「…だから、戦後は、その反省で、一族内での結婚を奨励することになった…これ以上、血が薄まれば、ますます、他人に近くなり、団結心がなくなる…私と姉が、五井本家に嫁いだのも、同じ理由…そして、娘も、同じ…」
「…同じ…」
「…要するに、一族内で、結婚相手を見つける…」
「…」
「…その結果、五井長井家から、婿を取ることになった…」
「…」
「…でも、これが、うまくいかなかった…二人の相性が悪かった…」
「…」
「…それで、最終的に、リンの父嫌は、東家を出て行ってしまって…」
和子が、落ち込んだ様子で、語る…
そして、それを、聞いた菊池リンが、
「…おばあさまのせいよ…そして、おかあさまのせい…」
と、言って、涙ぐんだ…
「…そう、たしかに、私のせい…」
和子が、力なく言った…
「…でも、リン…アナタのおとうさまは…」
「…言い訳は、聞きたくないわ…」
「…リン…」
「…おとうさまとおかあさまの間に、なにが、あったか、知らないけれども、おとうさまが、家を出て行ったのは、事実…まぎれもない事実よ…」
「…」
「…私は、おとうさまが、好き…大好きだった…」
菊池リンが、激白する…
「…そのおとうさまを、追い出した、おかあさまと、おばあさまは、許せない!…絶対、許せない!…」
菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…
まさに、菊池リンの本性が現れた瞬間だった…
その愛くるしい顔に隠された本性が、現れた瞬間だった…
実に、激しく荒々しい気性の素顔…
外見と内面が、まるで、違う…
ビックリするほど、違う…
たしかに、この菊池リンの母親も、菊池リンに似ていれば、夫も逃げ出したのも、頷ける…
逃げ出したのも、納得できる…
誰もが、外見から、入る…
男でも女でも、まずは、外見を見て、相手を判断する…
つまりは、外見が、良ければ、有利…
男は、イケメン…
女は、美人…
なら、有利…
あるいは、外見が、おとなしそうだったり、いわゆる、ヤンチャに見えたり…
それで、判断する…
が、
実際は、違う…
中身は、違うということだ…
見るからに、おとなしそうな人間が、おとなしいとは、限らない…
また、ヤンチャに見える人間が、全員、性格が悪いわけでもない…
つまりは、見た目と中身は、違うということだ…
そして、それは、ハッキリ言えば、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…
それは、なぜか?
それは、やはり、会社や学校では、見せない姿を見せるからだ…
いわゆる、プライベートと、パブリックの差というか…
プライベート=家庭…
と、
パブリック=会社、学校…
の違い…
会社や学校では、いいひとを演じていて、家では、我がまま放題とか…
あるいは、会社や学校では、テキパキ動くのに、家では、おおげさに言えば、左のものを、右に動かすことも、しない面倒くさがり屋ということもある…
要するに、家では、しないことを、学校や会社では、する…
よく見られたいからだ…
恰好をつけたいからだ…
周囲からの評価を上げたいからだ…
つまりは、そういうことだ…
だから、おそらく、この和子は、菊池リンの母親の婿を選ぶにあたって、一族の評判だけを信じたのだろう…
あるいは、元々、選択肢がなかったのだろう…
一族内で、結婚相手を見つけるとなると、どうしても、選択肢が、限られる…
例えば、十人の男から、一人を選ぶ選択肢もないかも、しれない…
それは、なぜか?
独身の男女の数は、限られるからだ…
おまけに、年齢がある…
普通に考えれば、例えば、この菊池リンは、今、23歳…
彼女の夫選びを考えたとき、せいぜい35歳ぐらいまでが、限度だろう…
また、真逆に、菊池リンが、35歳で、あれば、23歳の男と結婚するのは、難しい…
男が、嫌がるからだ…
今の時代、多少は、女が上でも、構わないが、男が、23歳で、あれば、5歳ぐらい年上が、限度だろう…
そう考えると、ますます選択肢が、狭められる…
だから、もしかしたら、菊池リンの母親が、結婚するにあたって、一族内で、菊池リンの母親と、結婚できる男が、驚くほど、少なかった…
そんな可能性がある…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、私が、考えていると、ナオキが、突然、
「…失礼ですが、ちょっと、お聞きしたいことがあるんですが…」
と、口を挟んだ…
そのナオキの一言で、その場の全員が、ナオキに視線を向けた…
「…なんですか? …藤原さん?…」
和子が、聞いた…
「…FK興産の持つ土地…伊勢原に持つ土地ですが、そんなに、価値があるんですか?…」
「…」
「…いえ、うちのような従業員千人程度の会社が、手に入れた土地です…それが、手に入るか否かで、五井の序列が崩れるような…そんな大事になるのか? 疑問があって…」
ナオキが、言う…
考えてみれば、当たり前だった…
FK興産は、たしかに、それなりに、世間に知られているが、それは、主に、ナオキが、テレビのキャスターをしているから…
週一に過ぎないが、テレビに出ている…
そのおかげで、世間に知られている…
もっとも、それは、ナオキが、長身のイケメンであることが、大きいが(笑)…
とにかく、そのおかげで、世間に知られている…
が、
それは、ともかく、そんなに大きな会社ではない…
五井から見れば、吹けば飛ぶようなチンケな会社(笑)…
そんな、小さな会社が、持つ、土地が、いかに値上がりしようと、その土地を持つか否かで、五井の序列が、崩れるような、大事になるのだろうか?
疑問だった…
だから、和子を見た…
なんと、答えるのか、知りたかったからだ…
すると、
「…たしかに、そうね…」
と、和子が呟いた…
「…五井長井家が、FK興産を手に入れて、伊勢原周辺の土地を手に入れる…それが、伊勢原に小田急の車両基地ができるからと、いって、その土地が、値上がりしても、正直、五井の序列を崩すほどの力はない…」
「…だったら、どうして?…」
と、ナオキ…
「…今は、いい…将来のため…」
「…将来のため?…」
と、私。
「…今回のことが、契機になって、五井の序列が、崩れるのが、困る…正直、五井長井家が、あの土地を手に入れようと、手に入れまいと本家や東西南北の4家の序列は、変わらない…でも、その他の分家の序列が、変わりかねない…」
「…その他の分家の序列?…」
と、私。
「…他の8家もまた、序列がある…皆、平等ではない…五井長井家が、伊勢原の土地を手に入れることで、他の8家の序列が、崩れたら、困る…」
和子が、FK興産の株を半分、手に入れた真意を説明する…
が、
和子の説明に異を唱えた者が、いた…
他ならぬ菊池リンだった…
「…ウソ!…」
菊池リンが、大声を出した…
「…なにが、ウソなの? …リン…」
和子が、彼女をたしなめるように、言う…
「…FK興産の株を半分、手に入れた理由は、五井長井家は、関係ない…五井の序列は関係ない…」
「…関係ない? …どうして、関係がないの?…」
「…本当の目的は、寿さん…綾乃さん…」
「…エッ? …私?…」
「…綾乃さんと伸明さんを結婚させるためでしょ?…」
彼女が、言った…
菊池リンが、言った…
仰天の言葉を、言った…