第四章 いす香の好きなもの

文字数 1,004文字

せ、せやかて! あそこはウチが行くっきゃないですやん?
るいちゃんは小さいからこんな木い登れんし、クリスはんはトップアイドルなんやから顔でも怪我したら大変やろ!
それで私たちを納得させようとあんな嘘を?
誰か他の人を呼んでくるなど考えなかったの?
いや、呼んでくる間にカラス戻ってきたらどうするん。
巣の中で暴れたらイヤホンなんてすぐ断線するやろ。
それで、結局最悪のタイミングでカラスが戻ってきて木から落ちてるわけだけれど……。
あうう……こりゃ、恥ずかしいところをお見せしました。
運が悪いのは生まれつきですん。
そうじゃなくて……痛くなかった?
ええ全然! さっきも言ったでっしゃろ、一日一リットル牛乳飲んどるから骨が丈夫で――。
それも嘘でしょう。
うー……クリスはんにはかないませんわーホント。
でも本当に、木から落ちたくらいなんともあらへんよ!
やってイヤホン取り戻せたし、るいちゃんめっちゃ嬉しそうやってんもん。
ウチな、根っからの商売人やさかい、お客さんの笑顔が一番好きや。
それが見れただけで、あんなん平気や!
――まあ。
――あなた、ますます気に入ったわ。ついてきて。
はい!? ウチ、これからバイトですけど!?
店長さんには私があとで言っておくわ。さ、こっちこっち。
え、いや、どこ行くん!? つか手え引っ張らんで!?
――ついたわ。ここよ。
ここは……ライブハウス? うちの町にこんなんあったんや。
懐かしいわ。インディーズで活動してた頃、よく利用してたのよ。
メジャーデビューしてからもたまに顔は出していたけれど、それでも最近特に忙しかったから、三年ぶりくらいかしらね。
へー、思い出の場所なんやね。それでなんでウチをこんなところに……?
――すみません! 今ステージ空いてますか?
飛び入りでこの子のライブを開催したいんですけど!
うわあやっぱりこうなった!? なんで!? ウチ、断ったやん!?
うふふ。それでも私は、あなたには素質があると思ったのよ。
おや、クリスじゃないか。随分と久しぶりだね。
えーと、その子は?
私が見つけたアイドルの卵です。
え、えーと。由田いす香です。えーと……。こんなん本当なんかの間違いやないかと思うんですけど……。
いや、ええい! ここまで来たらとりあえず今回のライブに関しては腹をくくるか!
キャンセルしてもライブハウスの人に迷惑やろし!
そのあとのことはまたおいおい考えよ!
すんません! 今日はよろしくお願いします!
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登場人物紹介

|由田≪よしだ≫いす|香≪か≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
|音笛瑠野≪いんふえるの≫商店街のCDショップでバイトする、アイドルが大好きな少女。
ある日クリスに誘われて、伝説のライブ「プリティーヘブン」を目指すことに。
ドジで自分に自信が無かったけれど、アイドル活動をするようになって少しずつ変わっていく。

|叶≪かのう≫クリス 三十三歳
かつて世界を震撼させたトップアイドル。
今は活動を休止して、新たな世代のアイドルを指導することに力を入れている。
新たな伝説を作るライブ「プリティーヘブン」の主催者。
謎多き人物。

|江藤≪えとう≫|萌花≪もか≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
天才的なピアノの腕を持つ江藤|珠里≪じゅり≫の妹でありながら、自分も作曲の才能を持つ。
引っ込み思案ながら心優しい性格で、娘CUTEsのまとめ役でもある。

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