第六章 柏さんから見た江藤さん

文字数 1,083文字

帰り道。
江藤さん、どうしたんやろ。急にどっか行ってもーて。
ってか! ウチもなんでカスタネットなんか買うとんのやろな!?
そりゃ店ン中で騒いで迷惑かけたからなんか買わんと気まずかったけど、
他にあるやろ他に!
後から考えればマラカスとかならギリギリアイドルのパフォーマンスでも使えそうだったんに。
一番安いカスタネットに目が行ってもーたとか、ホンマに貧乏性でイヤやわー。
あら? 誰かと思えば由田さん。
柏さん!? まだ家帰ってへんかったん?
スイミングスクールの帰りよ。
スイミングって、まだ五月半ばやん!? 考えただけで寒っ!
そう? そろそろ暑くなってきたかと思うけど……いつもベスト着てるし、由田さんって寒がりかしら。
あー、言われてみれば。どちらかと言えば寒がりかもなぁ。
あー、そや。柏さんって江藤さんと仲良かってんよなー。
あんな、実はさっき楽器店で江藤さんに会って、それでな――。
ハァ!? 萌花をアイドルにスカウトした!?
ちょっと、萌花を珠里さんの代用品みたいに使わないでよ!
わー! ちゃうって! それは誤解や! ってか人聞き悪っ!?
今朝の時点で江藤先輩の方に声かけようと思ってたんは事実やけど、「江藤先輩の妹やから代わりに」とか思ったわけやのーて、ウチは本気で江藤さんの歌に聴き惚れたんや!
……萌花の歌を聞いたのね。
それで声かけたんに、なんか逃げられてもーて。柏さんならなんか事情知っとるかと思ったんやけど。知らん?
――萌花はね、珠里さんの妹として、昔から珠里さんと比べられてきたの。
特に音楽に関しては、ピアノ係を頼まれたりしても、「お姉さんほどうまくないね」って言われたりして。
そらぁ災難やな……。
(ウチもクリスさんからスカウトされた身やから、いずれはクリスさんと比べられる日が来る。そン時にそー言われない自信ははっきり言って全然ないわぁ)
あれ? でも今日聞いたピアノは、江藤先輩と比べても遜色ない音色やったけどなぁ。
これでもCDショップのバイトやっとって、音楽に関しては素人やないつもりやったんやけど、そんなウチでもわからん違い、たかだか中坊にわかったりするもんなん?
昔、萌花が珠里さんに劣るって言われてたのは、単に萌花の方が年下だからよ。
子供の頃は当然、年上の方が上手いに決まってるわ。
でも、そんな差、努力家の萌花なら簡単に埋められる。
今現在の実力で言ったら、萌花は珠里さんと同レベル――いえ、下手したら珠里さんよりわずかだけど上だわ。
ただ、萌花にはその自覚がないの。そのことを伝えられる人が居ないから。
私が言っても、お世辞だと思って素直に受け取ってくれないし。
――。
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登場人物紹介

|由田≪よしだ≫いす|香≪か≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
|音笛瑠野≪いんふえるの≫商店街のCDショップでバイトする、アイドルが大好きな少女。
ある日クリスに誘われて、伝説のライブ「プリティーヘブン」を目指すことに。
ドジで自分に自信が無かったけれど、アイドル活動をするようになって少しずつ変わっていく。

|叶≪かのう≫クリス 三十三歳
かつて世界を震撼させたトップアイドル。
今は活動を休止して、新たな世代のアイドルを指導することに力を入れている。
新たな伝説を作るライブ「プリティーヘブン」の主催者。
謎多き人物。

|江藤≪えとう≫|萌花≪もか≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
天才的なピアノの腕を持つ江藤|珠里≪じゅり≫の妹でありながら、自分も作曲の才能を持つ。
引っ込み思案ながら心優しい性格で、娘CUTEsのまとめ役でもある。

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