第三章 イヤホンを取り戻せ

文字数 1,056文字

ぐすん、ぐすんっ……。
あー、やっぱりるいちゃんかー。
その子は?
当店の常連客、|成国≪なるくに≫るいちゃんや!
で、るいちゃんどうしたん? そんなに泣いて、何かあったんか?
ママに買ってもらったイヤホンが、カラスに取られちゃったの……。
な!? どれどれ?
いす香が街路樹を見上げると、カラスの巣の中に、場違いなピンク色に輝くイヤホンが見えた。
うっわー、随分と高いところに持ってかれてもうたなー。
うう……お気に入りだったのに……。
よっしゃ、お姉ちゃんに任しときな! 今ちょちょいと上って取ってきたるからな!
ほんとに!?
ああ! こう見えてお姉ちゃん、木登り名人やからな!
高校の木登り大会で一位になったこともあるんよ!
よっしゃー! やったるでー!
そう言って、いす香はゆっくりと木を登り始める。
んっしょ……んっしょ……思ったよりキツいなぁ。
あとちょっと……!
カーッ! カーッ!
うわ、ウッソ! カラスさん? こりゃお早いお帰りで……って、言っとる場合か!
ちょっ、タンマタンマ! 今そんなん来られたら本気で落ち……うわ、ちょ、ちょっと!
ドシーン! と、大きな鈍い音を立てて、いす香は受け身もとれず、木から勢いよく落ちた。
痛たたたた! 何すんねんカラスこのボケーっ! 覚えとけよーっ!
お姉ちゃん、大丈夫!?
あはは! 大丈夫大丈夫! これぐらいで骨折とかせーへんよ。
お姉ちゃん、毎日牛乳一リットル飲んどるからなー。カルシウムたっぷりで骨が丈夫なんや!
んー? その割に背も胸もたいしたことない? ってやかましいわ!
ほ、本当に大丈夫? 頭とか打ってない?
いや、このノリはホンマに平常運転なんで、なんかそんな心配されると地味にショックなんやけど……。
まあええわ! それより、ほらコレ! お姉ちゃんがばっちり取り戻したったわ!
わあ、わたしのイヤホンだ! お姉ちゃん、ありがとう!
これでさっそく、今日発売のCDが聞けるよ!
今日発売のやつやったら、|与那≪よな≫|恭子≪きょうこ≫デビューシングルやな!
うん、きっとまだ初回限定盤が残っとるな!
よっしゃ、るいちゃん、店までダッシュや! 店長が待っとるで!
うん、お姉ちゃん、本当にありがとねー!
……ねえ、あなた。さっきはなんであんな嘘を?
嘘? はて、なんのことでっしゃろ?
あなたの服、|有義選≪ありぎえり≫学園の制服よね。
有義選学園に木登り大会なんてふざけた学校行事はないわ!
ちょ、「ふざけた」って何やねん! ウチがせっかく一生懸命頭をフル回転させて十三秒で考え出した――。あ。
……やっぱり嘘じゃない。
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登場人物紹介

|由田≪よしだ≫いす|香≪か≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
|音笛瑠野≪いんふえるの≫商店街のCDショップでバイトする、アイドルが大好きな少女。
ある日クリスに誘われて、伝説のライブ「プリティーヘブン」を目指すことに。
ドジで自分に自信が無かったけれど、アイドル活動をするようになって少しずつ変わっていく。

|叶≪かのう≫クリス 三十三歳
かつて世界を震撼させたトップアイドル。
今は活動を休止して、新たな世代のアイドルを指導することに力を入れている。
新たな伝説を作るライブ「プリティーヘブン」の主催者。
謎多き人物。

|江藤≪えとう≫|萌花≪もか≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
天才的なピアノの腕を持つ江藤|珠里≪じゅり≫の妹でありながら、自分も作曲の才能を持つ。
引っ込み思案ながら心優しい性格で、娘CUTEsのまとめ役でもある。

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