第五章　いす香、アイドルデビュー！

文字数 1,015文字

ステージと客席の準備も整ったし、SNSで告知も打ったよ。
急だからどれぐらい人が集まるかはわからないけれど……。

そう、ありがとうございます。
曲は準備できなかったから、私の曲のカヴァーになっちゃうけど……。
カラオケ音源は持ち歩いているから、これを使って。
あとは、衣装……近くのお店で急遽見繕ってきたものだけれど――そろそろ着替えが終わったかしら？

あ、あのー。着替えて来ましたけど。

あらあら。

え、えーっと。こんな感じでどうでっしゃろ？　おかしくない？

とても似合ってるわ。

うーん、そやろか？
なんか自分で言うのもアレやけど、完璧に衣装に着られてる感あるんすけど。

うふふ、そのうち似合うようになってくるから大丈夫よ。

あ！　今遠回しに似合ってない言いましたやん!?　ひどいなぁホンマに！

うふふ。ほら。いい感じに緊張、ほぐれたんじゃないかしら？

あ、ホンマや。さっきまでばくばくしとったんに、もうフツー……。

って、緊張ほぐすためでも言ってええことと悪いことあるやろが！

って、あー！　もう！　そんなこと言うとったら時間や！
まだまだ言いたいこと聞きたいことたくさんあるけど！　しゃーない！
行ってくるわ！

いす香がステージに出ると、そこには狭い会場ながら、その三分の二ほどを埋め尽くす観客の影が見えた。

うっそ、直前にSNSで告知しただけでこんな集まるん!?
このライブハウスの集客力なめとったわ！

でも……お客さん、みんなキラキラしとるな。
わざわざライブハウスのアカウントをフォローして、こんなシロートのデビューライブに飛んでくるようなお客さんや。
超のつくアイドル好きに決まっとるもんな……。

ほんならっ！　お客さんみんなに笑顔になって帰ってもらうのがウチの仕事や！
商人、由田いす香――やったるでー！
みんなー！　今日は楽しんでってなー！

流れる音楽に合わせて、いす香は歌い、踊り出す。
ダンスはまだまだ未熟だけれど、歌声だけはみんなに届くよう、高らかに。

真っ暗な部屋の中で　一人泣いていたんだ
だから歌声上げたんだ　誰かに届くように

空と海と大地と　世界　ぐるぐるまわって
友達　たくさん　できるかな

広い広いこの世界で　みんなと歌えるの
このステージの真ん中で

会場のあちこちから聞こえる歓声。数は少ないが鳴り止まない拍手。

いす香はまだ荒い息のまま、ぺこりと頭を下げる。

皆さん、今日はホンマありがとっしたー！

――うん、私の目に狂いはなかったわね。

あの子には、星が宿っているわ。

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