第二章 「プリティーヘブン」

文字数 1,072文字

あら、イヤやわお客さんお上手ー。
でもな、この店ってほら、チェーン店やから。ウチの一存でまけたりできんの。
ほんま堪忍なー。
冗談なんかじゃないわ。――ほら、これ。私の名刺。
あら、こりゃどーも。手盆で失礼しますー。
って、叶クリス!? 本物!?
って、本物の叶クリスが何やってウチなんかスカウト!?
自分がトップアイドルなんやから、他のヤツスカウトなんかせんでええやん!
……ごめんなさい。今はまだ詳しいわけは話せないわ。
でも、私はいつまでもトップアイドルではいられない。
後継となるアイドルを育てたいの。
う、うーん。よーわからんけど、なんか事情あり気やな。
お願い。あなたでちょうど十二人目なのよ。
ん? 十二人目ってどういうこと?
私は私の後継となるトップアイドルを探しているの。
でも、いくら実力のあるアイドルだって、みんなに認められなければトップアイドルとは言えないわ。
だからね、私はあなたを含めて、十二人の女の子に声をかけたの。
十二人も!? そりゃあ随分とご苦労さまで……。
その十二人の中で一番のアイドル。
私はその子のために、来年の春にライブを開催するわ。
題して伝説のライブ「プリティーヘブン」。
「プリティーヘブン」!? なんか、よーわからんけどすごそうな響きやな!
舞台は|春曲≪はるまげ≫ドームに、世界最高レベルの機材、世界最高レベルのスタッフを揃えているわ。
すごっ!? 春曲ドームって世界最大のドームやろ!?
ウチ、一回客で入ったことある!
――まあそん時はアイドルのライブやのーて、野球の試合やってんけど。
だからね。私はあなたに「プリティーヘブン」を目指してほしいの。
私が声をかけた十二人の中でトップになってほしい。
ルールは簡単。CD売り上げランキングで一位になればいいのよ。
ソロである必要もなし。お友達を誘ってユニットを組んでくれても構わないわ。
う、うーん。随分とざっくりしてるんやね。
変にルールを決めて競ってしまうと、本当の一番がわからなくなっちゃうもの。
それで、どう? 参加する気はあるかしら?
う、うーん……。
確かにそんなライブに出れたら、一躍時の人! で、そんなん女の子の憧れや。
ウチやってアイドル好きやし、イヤや言うたら嘘になる。
でもな。だからこそ、そんな重役ウチには務まらんと思います。
だからこの話はナシの方向でお願いしますわ。
……そう。
あ、でもでも! 客としては絶対見に行きますんで!
その代わりチケット安く譲ってやー、なんつって。
うわーん!
あら……? 外で誰かが泣いてるみたい……。
いす香ちゃん、ちょっと見てきてくれないか?
はい! もちろん!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

|由田≪よしだ≫いす|香≪か≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
|音笛瑠野≪いんふえるの≫商店街のCDショップでバイトする、アイドルが大好きな少女。
ある日クリスに誘われて、伝説のライブ「プリティーヘブン」を目指すことに。
ドジで自分に自信が無かったけれど、アイドル活動をするようになって少しずつ変わっていく。

|叶≪かのう≫クリス 三十三歳
かつて世界を震撼させたトップアイドル。
今は活動を休止して、新たな世代のアイドルを指導することに力を入れている。
新たな伝説を作るライブ「プリティーヘブン」の主催者。
謎多き人物。

|江藤≪えとう≫|萌花≪もか≫ 私立|在義選≪ありぎえり≫高校一年生。
天才的なピアノの腕を持つ江藤|珠里≪じゅり≫の妹でありながら、自分も作曲の才能を持つ。
引っ込み思案ながら心優しい性格で、娘CUTEsのまとめ役でもある。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色