第20話 思い出したこと

文字数 349文字

 もう半世紀、もっと前のこと。
 父の給料日。
 まだ現金でいただいていた時代。
 父は自転車置き場で隣の荷台にカバンを置き、そのまま家まで帰ってきてしまった。

 慌てて戻るとすでに消えていた。
 交番へ届けると、
「あんた、家に帰れるのか?」
と言われたらしい。

 家に戻り、酒を1杯飲み、打ち明けた父を母は責めなかった。
 もちろん戻ってこなかったが。

 酔うと父は言った。
「ロクな死に方はしない」
 
 どうしただろうか? 
 からの弁当箱や古い鞄で豊かでないことはわかっただろうに。
 すぐに捨てたのだろうか?

 父は、あの時責めなかった母が亡くなるともうボロボロ。
 優しい娘がいてよかったけど。

 届けなかったやつはどうしただろう?
 ばちが当たっていないだろうか?
 後悔していないだろうか?
 

【お題】 落とし物を届けたら
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