第6話 男泣き

文字数 863文字

 お盆休み、子どもたちが孫を連れてやってくる。泊まっていく。狭い我が家に。

 飲み会。大酒飲み会。
 飲む。飲む。
 私と、妊娠中の次女以外は。
 大変だ。酒の用意に料理……
 キッチンは暑い。扇風機を置き回す。

 用意した料理がすごい勢いでなくなる。ビールの空き缶が次々と。

 8月生まれが4人いるのでまとめてハッピーバースデイ。
 ケーキをふたつ焼き、孫5人にデコレーションさせる。きのこの山にたけのこの里に小枝、チョコのスプレー等。
 10歳の年長の孫がライターでロウソクに火をつける。時間がかかる。下手だから指が熱くなる。それでも自分でやりたがる。早くしないとロウが垂れるよ……
 なんとか点け終わり写真を撮って、電気を消してフーッ。パチパチパチ。
 
 
 10歳の男の子が息子と将棋を始めた。本将棋を覚えて夢中なのだ。
 将棋盤と駒は私の父が使っていたものだ。父は将棋が好きだった。私もよく相手をした。車角抜きでも簡単に負けた。
 
 孫は前日は夫と対戦し、なんとか夫が勝っていた。
 孫はまだ息子には1度も勝ったことがないという。息子が将棋をやるのは聞いたことがなかった。ふたりとも初心者だ。
 ふたりはかなり長い時間指していたが、突然孫が叫んだ。
「勝った!」
 飛び跳ねた。
「勝った。おとうちゃんに勝った」
 この子は、パパ、ママとは呼ばない。3歳の妹は「おと、おか」と呼ぶ。

 この子は5人の孫の中でもいちばん手が掛からなかった。 いちばん年上なので、いつも我慢しがちで、クールなのだが……
 
 父親に勝ったことがよほど嬉しかったのだろう。ソファに座っていたおかあちゃんの膝に飛び込み顔を埋めて、感激のあまり大声で泣いた。

 男泣き。あんなに熱いあの子を初めて見た。
 しばらく泣いていた。おかあちゃんのズボンの膝が染みるほど。
 
 真剣に全力を出して戦ったのだろう。
 ちょっと、オリンピックより感激! 

 その日は勝ったまま終わりたいと将棋はおしまい。買ってもらったバットを持って、近くのバッティングセンターにゾロゾロ出かけて行った。

【お題】 あつすぎるぜ〜
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