第18話 夢がうつつか幻か

文字数 653文字

 100歳のカリンさんはよく夢を見た。
 夜は一睡もしていません、という申し送りが多かったので、昼間寝ている。昼夜逆転だから、時間をずらしての食事になる。

 車椅子に座り、夏でも毛糸のカーディガンを羽織り、ひざ掛けを。頭にショールを巻いている時もあった。
 それでも、スプーンで自分で召し上がる。刻み食に粥だが残さない。コーヒーも砂糖を入れておいしそうに飲む。
 手は掛かるが皆に好かれていた。
 
 よく夢を見るようだ。

 布団に犬が3匹も入ってきて、掛け布団を剥がしていく。寒くて寒くて眠れない、と嘆く。

 私がシーツ交換で部屋に入ると、
「犬がいるから気をつけて」
と、真顔で言われた。
「私が飼えればいいんだけど、苦手なの」
「じゃあ、誰か飼ってくれる人、探しておきますね」

 この方は実際に見えてしまう病気なのだ。
 カーテンになにかいる、と言ったときに、旦那様は施設入所を決めた。

 その旦那様はすでにいない。

 それまでは毎日会いに来ていた。ご主人も相当なお年だったろう。
 カリンさんの車椅子を補助車にして歩いてきた。寒い日も酷暑の日でも。
 歩いてたどり着けば疲れて奥様のベッドで横になる。奥様より先には逝けない、とおっしゃっていたのに。
 カリンさんは、もはや旦那様だとは思っていない。
「かわいそうなおじいさんに部屋を貸してるの」

 長寿は残酷だ。共に生きた連れ合いを看取ることもできず、知らされもせず。なお生きる。
 
 妄想が悩ます。泥棒が全部持っていった。焼夷弾が足に刺さった。頭に塩酸をかけられた……。


【お題】 夢見る昼寝
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