第14話 放送塔

文字数 747文字

【お題】 もう二度と会いませんように


 ブティックに勤めていた時、放送塔と呼ばれる人がいた。
 客は狭い地域の人たち。知り合いも多い。
 常連客の放送塔さんがいると帰ってしまう客がいた。何を言われるかわからない、恐ろしいから、と。
 ご主人は元警察官。褒賞も受けた方だ。地元の大きな家に住んでいる。

 この方は、悪口が3度のごはんより好き……アンテナを張り巡らし、自転車で駆け回る。他人の家の事情に詳しい。人の不幸は蜜の味。

 あそこのご主人は自殺した。あそこの息子は、バカでアホで……誰々に男がいる、女がいる……嘘か誠か知らないが、放送塔は野放しにされていた。

 つまらない人生、と思うのだが本人は悪口を言っている時が楽しそうだ。表情も豊かで生き生きしている。
 何度かトラブルにもなり、絶交されたり、店にも出入り禁止になったりしたが治らなかった。これは、家族もわかっているのだろう。生きがいなのだ。

 話を聞き出すのが上手い。家族のことを聞いてくる。ご自分の旦那様もお子さんも立派な方だ。お子さんは有名企業に勤めている。私も1度ひどい目にあった。子供のことを聞かれたときに謙虚に言った。
 勉強しない。赤点ばかり。帰りが遅い。バイトばかり……
「どこでバイトしているの?」
「はい、地元の回転寿司です」

 そしたら、わざわざ見に行った。どんなバカだか見に行った。そうして私が休みの時に皆に喋った。
「ブッサイクなの」
 不細工? うちの娘は確かにバカだけど、不細工ではないと思うが……親の欲目か?

 これは頭にきた。顔には出さないが……

 もう、閉店になり10年経つ。近くに住んでいるのに会わない。会いたくはないが……

 いつかバッタリ会ったら鬱憤を晴らしてやろう。
 客の間では、あなたへの悪口がいちばん多かったですのよ、と。
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