第16話 眼鏡を探した頃

文字数 634文字

 この頃、眼鏡を置き忘れるから、縦型の眼鏡ケースを3つ買って、食卓、リビング、寝室に置いた。絶対にそこ以外には置かないこと……
 と思っても置き忘れて探す。洗面所、トイレ、新聞の上。

 見つからない、見つからない。

 イライラして、2度と、眼鏡ケース以外の場所には置きません、と思うのだが。

 でも、なければ困ると感じているうちはまだマシか。


 数年後 (?)、私の眼鏡はユニットのキッチンのIH調理器の上に置いてあった。
 もう眼鏡はかけるものではなく、おもちゃになってしまった。いじって壊してしまうから取り上げられたのだろう。
 だからって、夜勤さん、IHの上に置くなんて。 
 高かったんです。その眼鏡。勤めていたブティックで売上のために買ったのよ。桁が違う。

 でももう、眼鏡も入れ歯も補聴器もわからなくなってしまった。眼鏡は壊す。入れ歯も壊す。壊したから当分ソフト食にペースト粥。食事は口に運ばず混ぜて遊んでいる。時々投げて怒られる。

 補聴器は高かっただろうに、水につけてしまうから、つけてくれない。だから、なにを言われても聞こえない。
 音楽も、童謡なんか聴きたくないのに、大音量でかけてくれている。
 聴きたいのは、藤圭子とディープパープル。

 シーツ交換に入った職員が、タンスの上の写真を見ている。旦那様との仲の良さそうな写真。
 旅行先でのツーショット。品の良いメガネは今ではひん曲がったまま。

 旦那様は迎えに来てくれない。私が行くのが嫌なのか? 


【お題】 眼鏡が見つからない
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