第11-2話 クラスメートの独り言

文字数 1,509文字

「ふう…最初の襲撃後にも随分と来たが、何とかなった」

 ガリカルとしての作業をある程度まで終えた やふら は、クラスメートに近づくと足で軽く小突き、反応ないか確かめる。

「それにしても、何で粂戸(くめと)じゃなくて、こいつがついてきたんだろうね…って、あいつ、どんだけ運が良いんだよ」

 二度三度、やふら の足が和技(わぎ)の代役であるAIを八つ当たりに蹴る。もちろん和議の代役は、うめき声もピクリとも動かない。

「っと、傷モノにすると姐さんに怒られる。
 悪いな、棚島(たなじま)。恨むんなら粂戸にしろよ」
「……」

 無反応でなければ困るが、無反応なのも無視された気分になり、再度、理不尽に蹴った。

「にしても、血が一滴も出ないのは、物足りないよな」

 彼がぼやいたように、ナタのような鋭い一撃を受けているのにも関わらずAIに傷はなく、それはモンスターに飲み込まれた『特別狩り』たちも同じだった。
 やふら は改めて床に倒れている人達を大まかに観察するが、顔見知りの者は見つからない。

粂戸(あいつ)、まだ捕まっていないのかよ…気にくわねぇ…。
 それはそうと(粂戸の)ねーちゃん、いるのか? 似たような顔している奴はいなさそうだけれども……ふっ」

 やふら はこみ上げてくる感情を素直に応じ、歪んた笑みを浮かべた。

「ほんと、あいつ、間抜けだよな。小中学校違うのに、なんであいつの姉ちゃん知っているんだよって。こっちの嘘に、まんまと引っかかってやんの」

 広い休憩室に笑い声が響いたが、すぐに静かになった。

「ふん」

 休憩室は沢山の人がいた。

 最初の襲撃後にも、モップモンスター達が狩った『特別狩り』たちが瞬間移動で運ばれており、テーブルを移動してできたスペースだけでは足りず、今は、テーブルの上や通路にまで置かれている。

 人形か死体のように行動不能になった者たちが横たわる異様な光景。
 それを見下ろす やふら は優越を感じた。

「クラスB(普通の人達)のくせして…『特別な人達』にたてつこうなんてありえねぇんだよ。粂戸(くめと)も…」

 最後に吐いた言葉は、やふらに怒りの火をつける。

「そうだよ、あいつだよ。クラスBのくせに、何で優等生なんだよ。
 テストもランキング上位だし、コミュニケーションもチート入ってる……姫原(ひめはら)さんまで…」

 やふら の頭中で嫌な光景が浮かんだ。学校で気になる子と粂戸が仲良く話している光景を

「…」

 その記憶により生まれた怒りの感情エネルギーをぶちまけるため、近くのイスを蹴りつける。
 勢いによりテーブルが倒れ、派手な音が響いた。

「何なんだよ、あいつ。特別でないくせに、オフラインゲームに耐えられないくせに、何であんなに恵まれているんだよ」

 わめく声と、あたりを攻撃する音がしばらく響いたが、やがて、暴れて息を切らす呼吸音だけになった。傷つけないように命令されているが、何人かは人形のように転がっている。

「はぁ…。まあ、良い。偶然とはいえ、基他(きた)新町に招待したんだから、ボコボコにしてやる。
 なんたって、このイベント中は法に触れる事をしても 捕まらないんだからな」

 再び武器を取り出そうとスマホを手にしたのと同時に着信を告げる画面に変わった。

「もしもし…はい、お疲れさまです………はい、今の状況ですね」

 ガリガルの一員として逆らえない立場からの通話に、やふら はスマホ越しであっても営業スマイルを浮かべ、穏やかに答える。

「現在の所、生き残っている『特別狩り』はあと9人になりましたよ。56人から1時間たってこの数なら早い方じゃないですか……あぁ、はい、そうですね。モンスターどもに言っておきますよ…はい……えぇ、もちろんですよ。
 女帝ジィズ様の計画を進めるため…失礼します」


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