第11-1話 バックヤード

文字数 1,686文字

 和技(わぎ)が300年後の世界に戻っている間や授業中に修復士としての活動をする時、今回のような特別な時は代役としてAIが架空世界で活動する。
 『特別な人達」にデビューしてからの全行動を読み取り、和技として行動をしてくれるAIは横たわり、スマートフォンを操作する者の近くにいた。

「今の襲撃で12人か…少なくね」

 声の主は視線を画面から下に向ける。哀れなクラスメートに。

「あれ、まだ目が開いてる」

 粂戸(くめと)の友達グループの1人である やふら は足でAIの向きを180度、変えて視界をそらさせた。

 AIに抵抗する力はないが、靴の固い感触もない。



 人を飲み込み襲いかかってきたモップモンスターから逃げるため、やみくも走ったAIは、いつの間にか粂戸とはぐれ、気づいた時には彼の仲良しグループの1人である やふら と共に店の裏側、バックヤードに入っていた。
 華やかさが消えた地味な従業員用の空間には、店に並べる前の商品が積み重ねられた一時置場があり、身を隠そうと思えば可能だったが、足を止めない やふら にAIも通り過ぎた。
 長い廊下を進み、目に入った扉を開ける。隠れて安全を確保したい一心で中に侵入した。

「……」

 そこは広めの部屋で自販機やテーブルが置かれていて、どうやら休憩所のようだ。
 従業員の姿はなく、AIは呼吸を整えてから、モンスターが追ってこないか扉をゆっくり開けて確認する。

「…ふう。逃げ切れたみたい」

 安全をクラスメートに告げて安堵した後、AIは改めて部屋を見回した。

「?」

 そして違和感を持った。奥の方だけテーブルが端に寄せていて、初めて入った者でも分かるほど空いた空間がある事に。
 休憩所に何か置くためだろうかと思いつつも、AIは近づく。

「!」

 スペースには倒れている人がいた。それも1人でない。

「誰かが倒れている」

 異変を知らせるため振り返ったAIは、ナタのような鋭い武器を振り上げるクラスメートを目にした。
 和技の代わりに普通の人として生活するAIに回避や反撃する力はなく、それに触れた途端、体が動かなくなり後ろから倒れる。背中や頭に固い床が当たるが痛みがない。

「墓穴を掘るとは、この事だよね。おかげで回収する手間が省けた」

 ガルカリに関係する者でもあったクラスメートは笑い、スマホを手にした。





「……」

 向きが変わったAIの視界に自分と同じ人達が入る。
 パジャマ姿の者もいれば、スウェットの部屋着姿の者。和議がここにいたら、ホームセンターに瞬間移動した『特別狩り』の人達がモップモンスターに飲み込まれ、行動不能にされて、ここに瞬間移動してきた、と理解しただろう。

「2度も瞬間移動するんじゃなくて、最初の瞬間移動で行動不能を自動的に処理すれば良いのに。姐さんは何を考えているんだか」

 不満を口にする やふら は、スマートフォンを操作する。
 AIを行動不能にした武器をしまい、新たなるツールを出現させた。

 病院で見る事のない黒色の金属製の注射器。メモリの代わりに電子画面があり、個人ナンバーが取り出せるクラスZ(犯罪者)の道具(ツール)てある。

「さて、お仕事、お仕事。これをしないと報酬もらえない」

 AIに言っているのか独り言なのか分からないが、やふら は躊躇なく注射器を目を閉じて動くことない『特別狩り』達の首に突き刺し、番号を取り出す。スマホを操作し取り出した注射器をしまうと、再び操作して新たなる注射器を出現させる。

「一体一体手動なんて…本当に面倒くさいって、また、増えた」

 やふら の不満通り、AIの前に目を閉じて身動き一つしない女性が現れたが、AIの記憶にはない、見知らぬ『特別狩り』だった。

「あーもー、最初で全狩りしてくれよな。これだから寄せ集めのモンスター共は…」
「……」

 不満を口にしながら作業をする中、AIは可能な限り目を開けていた。


『…U49580-和技(和議の正式の名前)との通信不可………、により通信障害モードに入…る。可能な限り、視覚…と聴…覚からの記録…通信障害解除あと…送……』

 やふら はちらりと哀れなクラスメートを覗き込んだ。

「あ、やっと目を閉じた」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み