第7-1話 ラストメッセージ

文字数 1,714文字

 日曜日の朝。洗面所で七流(ななる)と取り合いになることもなく、和技(わぎ)は洗顔を済ませるが、ため息が出てしまう。

「昨日は久しぶりに絡まれたな……あれ、そうとう飲んでたんじゃないのか?」

 本当の世界に戻った和技は、これから先について話し合いをしようと帯論(たいろん)の部屋を訪れたのだが…修復士の先輩は酔っぱらっていて、会話が成り立たないどころか『理想の修復士』について熱く語り出し長い夜となった。

「まあ、ある程度の管理職の位置にいるから、ストレスはかなり溜まっているだろうけれども…」

 階段を降りていく間に愚痴を終了させて、和技は架空世界での日曜日を楽しむ高校生に切り替える。
 LDKと呼ばれるリビングとダイニング(食事をする所)とキッチンが一緒になった部屋に入ると、人の姿は見当たらないが、明かりとテレビがつけっぱなしになってた。

「あ、お兄ちゃん。ネットが凄いことになっているよ」

 テレビ前のソファーから寝っ転がって見えなかった七流がスマホと顔を出す。

「その前に『おはよう』な。
 一歩外に出たら挨拶は重要なんだからな」
「わかってる、わかってる。それより、ネットだよ」
「また『特別な人達』になる方法か? それとも、どこかの芸能人が炎上騒ぎでも起こしたのか?』

 親の姿はないので、自力で朝食の準備、と言ってもトーストを焼いてホットココアを作るだけだが、進めながら妹のどうでも良い話を聞くことにした。

「大変なんだよ『特別な人達』が次々と変なメッセージを書いて失踪しているんだって」

 思考とマグカップを取ろうとした手が止まる。

「は? なんだそれ?」
「SNSで『特別狩り』の人達が一斉に『さようなら』と書き込んで連絡つかなくなっているんだって。コメント書き込まれても誰一人としてコメ返してこないらしいよ。何か凄くない?」

 何も知らない七流はお祭り騒ぎのように面白がっていたが、和技はそうなれなかった。
 伸ばした手をマグカップからスマホに変えた所でチャイムが鳴る。

「棚島、みぬ姉が来てない?」

 部屋着で飛び出して来たのだろう、黒の上下のスウェット姿のクラスメートが、最悪な事態を口にする。

「落ち着け、綿山車(わただし)
 そもそも未縫依(みぬい)さんがここに来る事はないだろう」
「そうだよな…でも、何か、みぬ姉から聞いてない?出かけるとか」
「俺が未縫依さんに会ったのは…(瞬間移動騒動は隠して)特別な力を見せあった朝だから」
「そうか…」
「連絡は? もしかして、やっぱり通じないのか?」
「通じないも何も部屋におきっぱなしだった」

 『特別狩り』の弟は、ここに来るまでの経緯を話してくれた。

「朝起きて、スマホをイジってたら大騒ぎになっているのを知って、不安になってみぬ姉の部屋に行ったらもういなくて…
 一番上の姉や親達は『日曜なんだから、スマホを忘れて出かけたんだろう』と、とりあってもくれない。というより、みぬ姉が『特別狩り』やっているのを知っているのは俺だけなんだ」

 平日の朝か日曜の夜ならば『失踪』を疑い警察に届け出るのも可能なのだが。今は日曜の朝、早朝から出かける者を不審に思う者などいない。

「………」

 和技も、何も知らなければ『夕方になって帰ってこなければ、疑えば良いんじゃないかと』口にできたのだが、彼女が『特別狩り』でジィズマイの仕業と疑える状況で、それを口にすることはできなかった。

「念の為、みぬ姉の知り合い、スマホからラインしてみようかと思ったけれども…そもそもロックかかっていたから、俺の知り合いに声をかけてみた。
 …でも、考えすぎかな? 本当に出かけだけなのかな?」

 不安をとりあえず吐き出したところで粂戸(くめと)から着信音が鳴る。操作できるところからして本人のスマホだろう。
 何て言葉をかけたら良いのか分からない和技はほっとした。

「…あ、うん…基他新町(きたしんまち)? 基他新町町に行くって? 分かった、ありがとう」

 通話を終えた粂戸は新たなる展開を口にした。

「やふら(粂戸の友達)が、みぬ姉に合ってて、基他新町に行くって聞いたらしい。念の為、捜してくる。急に来てゴメンな。じゃあ」

 泣きそうなほど不安な表情をした、友人のようなクラスメートに和技は声を出さずにはいられなかった。

「俺も行く」



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み