第12-3話  余興

文字数 1,683文字

 目と唇の色が鮮血のように鮮やかなのは、色白の肌だからだろうか。それとも部下だった者たちの残骸を踏みにじり、公園では見たことのない残忍な笑みを浮かべているだからだろうか。
 それとも…犯罪世界を耳る女帝の関係者だからだろうか。

「ジィズマイ」
「まて、みぬ姉…」

 ジィズマイの裏側を知らない未縫衣(みぬい)は恐れることもなく駆け寄ろうとして弟に止められるが、抗議の声は止まらない。

「どういう事だ8人で町が消えるって?
 その前に私に何をした?」
「何をしたって言われても…あぁ、そうか、君はジィズマイの公園で能力ばらまきイベントに参加した子だね」
「そうだ。そのせいで無意識的に瞬間移動するようになった。
 今日だって、スマホを忘れたのに気づいて、慌てて家に向かっていたのに。突然、ホームセンターに瞬間移動していた」

「……」

 和胡(わこ)は未縫衣を見つめた。
 疑問を口にしたいが『普通の人達』には言ってはいけない秘密が含まれているので、見つめる事しかできない。

「瞬間移動の能力を得たってことは『特別狩り』なのね…そう」

 ジィズマイが目の前から消えた。
 和胡はから見れば高速で移動しただけだが、未縫衣たち姉弟から見れば瞬間移動に見えたことだろう。
 ジィズマイは未縫衣の前に移動すると顎をくいっと上げて、触れそうなほど顔を近づける。

「こんな可愛い娘が『特別狩り』なんて残念…だわぁ」

 言葉に間があったのは、未縫衣を守ろうと駆けつけて攻撃態勢に入ろうとする和胡から逃れるため。
 ジィズマイは助走もなく高く飛び上がり元いた残骸の上に着地する。

「さてと」

 ジィズマイの行動に驚愕する姉弟と、こっちを睨みつける和胡の様子を面白そうに観察してから、話を再開する。

「ジィズ姐さまを喜ばすためにしてもらう余興はね、ジィズマイが即興で考えたゲームだよ。
 君たちがガリカル達を倒すか、それともガリカル達がイベントを完了、いま残っている『特別狩り』8人を消し終わるかが勝敗ね。
 勝ったらご褒美として…そうだねぇ…まあ、町消去はなかったことにしてあげようかな。
 もちろん、参加するよね。まあ、選択の余地はないけれども」

 鮮血色の目が和胡に向かう。ジィズという後ろ盾があるの事を指しているのだろう。

「倒すって、俺たちがあの、化け物を倒せっていうのか? できるわけがないだろ」
「心配しないで弟くん」

 未縫衣を止めるときの呼び方で姉弟と判断したのか、ジィズマイは粂戸に何かを放り投げた。
 手から離れた時は白く小さな固まりだったが、スイカほどのサイズまで膨れ上がり、風船のようにゆっくりと移動する。
 粂戸の両手がそれに触れると、シャボン玉のように破裂し、カラフルな物が手に残った。

「これは…水鉄砲?」
「水鉄砲みたいに見えるけれども…そうね、魔法の水鉄砲…にしておこうかな」

 ジィズマイは、この世界の秘密を隠すため『魔法』という便利な単語を使った。

「モップモンスター、変身していないガリカルにも当たれば倒せるよ。
 もちろん、ハンデありね。そこの『特別な人達』の()は5回当てなきゃ駄目で、弟くんは2回。『特別狩り』の()は1回でOKだよ。
 水鉄砲の方に設定…えーっと特別な魔法を施してあるから、武器を取り替えても無駄だから」

「水鉄砲、4つあるが1個、多いのは、どういう事だ?」
「そこのバックヤードに1人隠れているから、その子の分ね」

 ジィズマイはくすりと笑ってから視線を和胡に向ける。

「もちろん、そのよく切れる武器は使用禁止。使うものなら、ジィズ姐さまからキツイお仕置きがくるよ。
 『特別な人達』である君なら、どういう事か分かるよね」

 強制離脱(ログアウト)を指していると和胡は理解できた。未縫衣たちを置いて現実世界に戻されれば、ジィズマイ達の思う壺になる。

「余興をサクサク進めてもらわないとジィズ姐さまの機嫌が悪くなるから、良い物、貸してあげる」

 ジィズマイは再び高速移動で未縫衣に接近すると、手を取りスマホを握らせる。

「ガリカルがどこにいるか分かる便利なアプリがあるから使ってね。
 じゃあね」

 言いたい事だけ言うと、ジィズマイはその場から消えた。






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