第2-3話 雪熊のアイス屋さん』

文字数 1,264文字

「……」

 架空世界で修復作業をする者たちは顔を見合わせたが、先輩は何事もなかったかのように店員さんに接する。

「何の店かな? と入ってみたら、アイス屋なんだな」
「はい、カラフルで美味しくて、トッピングも豊富ですよ」

 クマ耳のカチューシャを付けた おっさん店員は可愛くスマイルする。

「そうだな…あ、悪い、着信が入った。和技、俺のはバニラアイスを買っといてくれ」

 スマホを手に取った先輩は、店を出て行った。

『店の外装修復と『普通の人達』が入ってこないように見張っておくから、和技は店員さんの修復よろ』

 スマートウオッチにメッセージを残して、先輩はこの場を退出した。

「あの野郎…」

 怒りがこみ上がってきたが、店員さんの存在を思い出し、和技も1人の異変に気づいていない客として接する。

「えと、バニラアイスと、そこのチョコレートで」
「すみませんバニラはないんですが…どうしましょう?」
「じゃあ、そっちにある白いやつで」
「ふんわりチーズケーキの雪解けアイスですね。それとダークベアの悪魔的なチョコレートでよろしいですか?」
「はい…」

 『最近のアイス屋さんは、名前がこっているんだなぁ』と思いながら、和技は先輩の仕返しをする。

「雪解けの方は、キングサイズのトリプルで、SNS映えしそうな派手なトリプルをお任せで、お願いします」
「かしこまりました」

 注文を終えて会計の準備を進めながら、頑固オヤジの姿をした店員さんをどうしたら良いのか、架空世界の修復作業をする者は考えた。

『あの頑固オヤジに強制終了なんて絶対にありえない。しかもおっさんなのは外見だけで中身は年上の女性。いくら手の甲で良くても、初対面の客がやるなんて無理。
 …何かないか…何かおっさんに『ちゅう』しなくて良い方法は?』

 和技は店内を見渡す。マスコットである白いクマのぬいぐるみに、イートインスペースのテーブルに椅子、それから…

「お待たせしました」
「……。…………」

 和技はアイスを受け取る。
 そして…

「U49580-和技が11F48エリアに強制終了のちの再起動を命ずる」




「残念でした、帯論さん」

 頑固オヤジのラーメン屋から可愛いアイス屋に修復された店を出てきた和技は、派手なトッピングが乗ったアイスを渡す。

「店員さんだけではなく、店ごと強制終了したか。修復エネルギーコストがかかりすぎて、俺らの修復作業評価が下がるんだぞ」
「店内にバグを発見できたから、評価に響きませんよ。
 店内の強制終了は店の一部に唇を触れれば良いですからね。アイスも会計前なら店の一部、小声で命令して冷たい口づけすれば強制終了」
「なら良いが…つまらんな」
「俺が、焦りながら頑固オヤジに『ちゅう』するのを楽しみにしていたようですが、そうはいきませんよ」

 いつもより敬語が多いような気がするが、帯論はアイスを口にする。
 それを確認した和技はニヤリと笑った。

「俺が頼んだアイスにチョコチップが付いてたんですが、それがチャーシューだったんですよ。
 帯論さんのも、さぞ美味しいラーメン味のアイスになっているんでしょうね」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み