第1-3話 特別な人達

文字数 2,000文字

「え、特別な人達…なの? あなたが?」

 女子生徒は和技を観察する。
 腕にしている時計は年齢にしては高価な気がするが、どう見ても特別感はなく普通の男子にしか見えない。

「そう。特別な人だよ。
 君は聞いた事あるだろう?特別な人達が、どう特別なのか」
「えぇ『特別な人達』は何でも出来るって。
 ヒーローみたいに重い物を持ち上げたり、空を飛んだりと特別な力を持っていて、お店の半額だとか特別待遇されてもいるって」

 女子生徒の返答に和技は、苦笑する。

「…そう見られてしまうようだね。何も知らない『普通の人達』視点だと」
「え? どういう事?」

 和技は中学生にしては高価なスマートウォッチを操作した。

「特別な人達と呼ばれている俺らは、君たち『普通の人達』が本物だと信じているこの世界を管理しているだけだよ。
 さっきの人体模型が良い例え。
 アップデートのし過ぎでバグってしまったのさ」

 新しく出現する情報に女子生徒の頭は混乱していく。

「アップデート? 本物の世界? って…まって、ここは本当の世界じゃあないの?」
「今は2320年さ」
「いやいやいや、それはおかしいわよ。だって今は2021年だよ。おかしい。2320年? そんなに未来ならば、 何でこんなに2021年のままなの? 未来感ゼロじゃない」
「ここの世界が2021年として創られているからだよ。
 君たちは、ここが本当の世界だと信じ込まされているから、疑うことはない。

 でも、良く見てごらん。

 ここは架空世界だと、君なら分かるよ」
「は?……え?」

 女子生徒は違和感を覚えた。

 ここは、いつもの学校で、教室に向かう階段の踊り場…、………

「あれ?」

 床の感触がない事に気づいた。
 目で確認するものの向けても足は床に着いている。

 頭に何かが流れた。
 音でも映像でもなく、緑色の英数字が
 だが、女子生徒にはその文字がプログラムで、自分は学校の踊り場に立っているという意味だと分かった。
 女子生徒は壁に触れる。手の感触からではなく、頭に流れたプログラムで触れている事を知る。

「ここは、創られた世界……ココハ、荒廃した世界ヲ忘れるために創らレタ ネットワーク上の楽園、ユメセカイ…」

 パチンと和技が指を鳴らし、女子生徒は我に返った。

「ご理解いただけたかろうか、この世界の住人さん」
「…………」

 女子生徒は、何も発さず、静かにうなづいた。

「特別な人達は、この世界の秘密を守るため、名乗りを上げることもなく、普通の人達が流す噂を否定する事なく存在している。
 なのに、君には本当の事を話してしまった。どうしてだか、分かるかい?」

 女子生徒は首を横に振った。

「それはね、君は『特別人な人達』でなければ『普通の人達』でもないからだよ」
「え? 」
「君の正体は、300年前と比べて激減してしまった人口を補うために存在する。思考型プログラム。本当の世界に存在しない ただのAIさ」
「AI…」

 AIだと言われた女子生徒から否定の言葉が出てこなかった。
 女子生徒は自分に問いかける『自分は何者だと』その問いに思考が答えたのは、20桁に及ぶ自分のAI番号だった。

「…AIだったね、私…AIだったよ」
「とは言え、AIである君も この世界の秘密は伏せられている。知った状態のままいるのは負担がかかるからね」

 女子生徒は静かにうなづくものの、その表情は不安げだった。

「そうだね。人体模型にしたように、私も何かされちゃうの?」
「秘密を知った記憶だけを削除するだけだよ」

 和技はスマートウォッチを操作しようとしたが、その画面にメッセージが入った事に気づく。

「………分かったよ」

 腕時計に返答した和技は、なぜか女子生徒から視線をそらす。

「えーっと、君の場合は、強制終了して再起動しないといけなくて…さっきの人体模型ではない…方法が必要で…」
「?」

 今までの優越的で落ち着いた態度はどこへやら、和技は両手を合わせて女子生徒に頼み込む。

「お願いだから、10秒、いや30秒だけ目を閉じてて下さい。その間は決して目を開けないでいてくれたら、大変ありがたいんだけど」
「? 目を閉じてれば良いのね、分かった」

 和技の態度に疑問を持つものの、女子生徒は目を閉じた。

「U49580-和技が8F23-UH968-12Y7-AC5D890に強制終了のちの再起動を命ずる」

 女子生徒は夜、眠りにつくように、身体と思考が停止していく感覚を覚えた。
 ただ、その直前に額に生暖かく柔らかい感触があった。

『あれ? もしかして…』

 疑問が頭に出てくるよりも早く、女子生徒は考える事ができなくなっていた。



「あれ?」

 女子生徒は閉じていた目を開け、教室に向かう階段の踊り場にいる事に気づいた。

「あ、ちーちゃん、七流だ。おはよう」

 不思議な体験の記憶を消された女子生徒は、友達に気づいて駆け上がる。
 少し頬を赤らめ階段を下りていく少年に気づく事もなく。

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