第10-1話 呼吸を整える間
文字数 2,407文字
「はぁ…はぁ」
再び静かになった商店街で、和技 は息と心を整えながらスマートウォッチを操作し、手にしているナイフを消した。
「危険なデリートナイフは、すぐにしまっておかないと」
デリートナイフ
通信障害時に使える道具 で、修復士教育期間中、帯論 は真面目な顔で和技に教えてくれた。
「何でも削除できる便利なツールだ。クラスZ(犯罪者)も善人も関係なく。動物や建物までも触ればプログラムの不具合が発生し、触れどころが悪ければ、高層ビルでも簡単に架空世界から消えてしまう」
「諸刃の剣というやつ?」
「そうだな。それに、システム管理側に使用内容を事細かく書いて提出しなければならない。不用意に使用したと判断されれば、修復士としての評価が下がるか、罰金、もしくは謹慎(架空世界にログインできない)処分だ」
「面倒くさい上に、リスクがあるなんて、あまり使いたくないなぁ」
「しかも、クラスZの強者レベルとなれば、プログラムの自己回復して効果のない奴も出てきている」
「まさか使うとは思わなかった……ふぅ」
息を整えた和技は改めて状況を整理する。
「基他 新町は、ジィズマイ達に乗っ取られたと言っても良いだろうな」
リーダー格であるジィズマイが通信障害を起こし、モンスターに変化したガリカルの好き放題になっている。
クラスA(特別な人達)を良く思わない者たち『特別狩り』を制裁するために。
「…」
商店街から出ようとした和技は、近くにモンスター達がいる事に気づき慌てて戻り、身を隠す。
「茶色の奴、遅えな」
赤、青、緑と色こそは違うが同じモップみたいなモンスターが3匹、商店街の外にある道路を歩行者天国のように歩いていた。
「もう、先に行ってるんじゃねぇのか?団体行動したくないって言ってたし」
「あんなのほっておいて、俺らも狩りに行こうぜ」
モンスター達は紐状の手でスマホを絡め、別の一本で操作するという異様な光景なのだが、見たところ彼ら(?)のスマホにも通信障害は起きていないようだ。
3匹が通り過ぎてから、和技はスマートウォッチを操作し機内モードを解除する。圏外レベルの電波状況を表すマークに変化はないが、和議は操作を続けた。
Wi-Fiの機能をオンにして周囲の電波状況を確認すると『ziz-world』という名の項目が一件、検出される。
「……。ガリカル達は独自のWi-Fiを使っていたから、通信障害時でも使えたんだな」
もちろん、パスワード付きなので和技が使う事はできず、スマートウォッチを機内モード(通信障害モード)に戻した。
「少なくともガリカルと呼ばれる奴は4人、4匹以上いるな。ガリカルのスマホが手に入れば、色々と調べられるのに」
茶色いモップモンスターがスマホだけ落として消えてくれる都合の良い話はなく、和議は自分のスマートウォッチを操作し、今度は自分の状況を確認する。
「通信障害時はクラスAの特別な力(管理機能)は使えなくて、姿も このまんまなんだよな。スカートの丈をもう少し長くしとけば良かった」
姿だけではなく、能力の変更もできない。基他新町の異変を考えて運動能力を普通の人達より数値を上げているが、モップモンスターの能力を見る限り、少し不安になる。
「通信障害が回復できるまでの間、使えるのは俺の緊急ログアウトと両刃の剣であるデリートナイフのみか」
その状況の中、『特別狩り』である未縫依 と、その未縫依を探しにきた弟、綿山車粂戸 。情報提供し合流している綿山車の友達。それから和議のAI が向かっているホームセンターに向かい、安全を確保しなければならない。
「……」
和技は息を吐き出した。
体の中に溜まっている二酸化炭素と芳 しくない状況による不安も吐き出して
「行かなければ」
新しい空気を体に取り入れて、和技は走り出す。
「多分、こっちの方向であっているはず」
もともとナビゲーションしてもらう予定だったので、マップは大まかにしか見ていなく、大まかな方向しか分からない。
「近くに行けば看板が見えれば良いんだろうけれども…ん?」
商店街を出て住宅街に入り、しばらく駆け進んだ所で中年男が辺りをきょろきょろしながら歩いていた。パジャマ姿に裸足という近所の者でもありえない状態で。
「あのう」
和技が足を止めて話しかけると、男の不安な表情が緩んだ。
「助かった、ここはどこなんだ?」
「基他新町です」
「基他新町? どこだ、それ?」
「えーっと、あなたは、その、もしかして『特別狩り』の方ですか?」
どう話しかけて良いのか思いつかずストレートに問うと、緩んだ顔が強 ばる。
「違う違う違う。俺はそんな酷い奴じゃない」
『特別狩り』はヘイトを向ける集団なので未縫衣のように公表するのは珍しい。
中年男は否定するものの、視線は和技に合わせようとしないので『特別狩り』のようだ。
「あ、えと。すみません。それはそうと…どうして裸足とパシャで外に?」
否定されると話が進められないので、外見から切り出してみることにした。ここで『近所に住んでいるんだから、別にいいだろう』と、否定されれば、話が詰んでしまうが、男は和技の助け舟に乗ってくれた。
「それが分からない。
朝、目が覚めたらホームセンターにいたんだ」
男の発言は、ホームセンターがイベント会場になっている理由が推測できた。
『未縫衣さんがホームセンターにいたという目撃情報も含めて、ラストメッセージをSNSに投稿した残した『特別狩り』たちは、ホームセンターに瞬間移動させられたようだ』
推測を確定にするため、和技は更に尋ねる。
「ホームセンターに、あなたの様に似たたような人はいましたか? 例えば寝巻だったり、挙動不審だったり」
「いた…と思う。だけれども、それどころじゃなかった。
突然、モンスターが現れて一人、大きな口で飲み込みやがった。
だから周りなんて見ることなく、ここまで逃げて来たんだ」
事態は悪化していた。
再び静かになった商店街で、
「危険なデリートナイフは、すぐにしまっておかないと」
デリートナイフ
通信障害時に使える
「何でも削除できる便利なツールだ。クラスZ(犯罪者)も善人も関係なく。動物や建物までも触ればプログラムの不具合が発生し、触れどころが悪ければ、高層ビルでも簡単に架空世界から消えてしまう」
「諸刃の剣というやつ?」
「そうだな。それに、システム管理側に使用内容を事細かく書いて提出しなければならない。不用意に使用したと判断されれば、修復士としての評価が下がるか、罰金、もしくは謹慎(架空世界にログインできない)処分だ」
「面倒くさい上に、リスクがあるなんて、あまり使いたくないなぁ」
「しかも、クラスZの強者レベルとなれば、プログラムの自己回復して効果のない奴も出てきている」
「まさか使うとは思わなかった……ふぅ」
息を整えた和技は改めて状況を整理する。
「
リーダー格であるジィズマイが通信障害を起こし、モンスターに変化したガリカルの好き放題になっている。
クラスA(特別な人達)を良く思わない者たち『特別狩り』を制裁するために。
「…」
商店街から出ようとした和技は、近くにモンスター達がいる事に気づき慌てて戻り、身を隠す。
「茶色の奴、遅えな」
赤、青、緑と色こそは違うが同じモップみたいなモンスターが3匹、商店街の外にある道路を歩行者天国のように歩いていた。
「もう、先に行ってるんじゃねぇのか?団体行動したくないって言ってたし」
「あんなのほっておいて、俺らも狩りに行こうぜ」
モンスター達は紐状の手でスマホを絡め、別の一本で操作するという異様な光景なのだが、見たところ彼ら(?)のスマホにも通信障害は起きていないようだ。
3匹が通り過ぎてから、和技はスマートウォッチを操作し機内モードを解除する。圏外レベルの電波状況を表すマークに変化はないが、和議は操作を続けた。
Wi-Fiの機能をオンにして周囲の電波状況を確認すると『ziz-world』という名の項目が一件、検出される。
「……。ガリカル達は独自のWi-Fiを使っていたから、通信障害時でも使えたんだな」
もちろん、パスワード付きなので和技が使う事はできず、スマートウォッチを機内モード(通信障害モード)に戻した。
「少なくともガリカルと呼ばれる奴は4人、4匹以上いるな。ガリカルのスマホが手に入れば、色々と調べられるのに」
茶色いモップモンスターがスマホだけ落として消えてくれる都合の良い話はなく、和議は自分のスマートウォッチを操作し、今度は自分の状況を確認する。
「通信障害時はクラスAの特別な力(管理機能)は使えなくて、姿も このまんまなんだよな。スカートの丈をもう少し長くしとけば良かった」
姿だけではなく、能力の変更もできない。基他新町の異変を考えて運動能力を普通の人達より数値を上げているが、モップモンスターの能力を見る限り、少し不安になる。
「通信障害が回復できるまでの間、使えるのは俺の緊急ログアウトと両刃の剣であるデリートナイフのみか」
その状況の中、『特別狩り』である
「……」
和技は息を吐き出した。
体の中に溜まっている二酸化炭素と
「行かなければ」
新しい空気を体に取り入れて、和技は走り出す。
「多分、こっちの方向であっているはず」
もともとナビゲーションしてもらう予定だったので、マップは大まかにしか見ていなく、大まかな方向しか分からない。
「近くに行けば看板が見えれば良いんだろうけれども…ん?」
商店街を出て住宅街に入り、しばらく駆け進んだ所で中年男が辺りをきょろきょろしながら歩いていた。パジャマ姿に裸足という近所の者でもありえない状態で。
「あのう」
和技が足を止めて話しかけると、男の不安な表情が緩んだ。
「助かった、ここはどこなんだ?」
「基他新町です」
「基他新町? どこだ、それ?」
「えーっと、あなたは、その、もしかして『特別狩り』の方ですか?」
どう話しかけて良いのか思いつかずストレートに問うと、緩んだ顔が
「違う違う違う。俺はそんな酷い奴じゃない」
『特別狩り』はヘイトを向ける集団なので未縫衣のように公表するのは珍しい。
中年男は否定するものの、視線は和技に合わせようとしないので『特別狩り』のようだ。
「あ、えと。すみません。それはそうと…どうして裸足とパシャで外に?」
否定されると話が進められないので、外見から切り出してみることにした。ここで『近所に住んでいるんだから、別にいいだろう』と、否定されれば、話が詰んでしまうが、男は和技の助け舟に乗ってくれた。
「それが分からない。
朝、目が覚めたらホームセンターにいたんだ」
男の発言は、ホームセンターがイベント会場になっている理由が推測できた。
『未縫衣さんがホームセンターにいたという目撃情報も含めて、ラストメッセージをSNSに投稿した残した『特別狩り』たちは、ホームセンターに瞬間移動させられたようだ』
推測を確定にするため、和技は更に尋ねる。
「ホームセンターに、あなたの様に似たたような人はいましたか? 例えば寝巻だったり、挙動不審だったり」
「いた…と思う。だけれども、それどころじゃなかった。
突然、モンスターが現れて一人、大きな口で飲み込みやがった。
だから周りなんて見ることなく、ここまで逃げて来たんだ」
事態は悪化していた。
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