第3-4話 特別な人達の力 

文字数 1,983文字

 和技は、背を向けて走り出した。

「あはは、無駄だよ」

 笑い声は、すぐ真後ろで聞こえた。置山 帆乃は人間が走る速度を超え、和技の背中に飛びかかる。
 背中にくっついた途端、まるで大岩のように重くなり、和技は体制を崩し転倒した。

「無駄だって言ってるじゃない」

 ありえない跳躍力もだが、ねじ伏せる力も女子高生のを遙かに超えている。

「特別な人達をなめてもらったら困るよ」

 倒れて起き上がろうとする和技の背中に片足を乗せて阻止して力を差を見せつけてから、腰にまたがり馬乗りになった。

「ちょっ…」

 女の子の温かい体温と何よりも太股の柔らかい感触が腰と脇に伝わってくる。

「もしかして注射が恐くなっちゃった? 注射だから ちくっとするだけだよ。
 それとも『楽しい事』におじけついちゃったのかな? 」

 クスクスと笑う置山 帆乃に、和技は振り返り見あげようとしたがそれより先に彼女の膝が見え、その先へ視線が進もうとしたので、慌ててうつぶせに戻る。

「教えてほしい… さっき『何も知らない平和な人達を見下す者達』言っていたけれども、それは どういう事?」

 『普通の人達』が抱くであろう疑問に、置山 帆乃の顔が歪んだ。

「あぁ、この世界の秘密を知りたいって事? いいよ、教えてあげる。
 この世界は『特別な人達』と『普通の人達』がいる」
「それぐらい、知ってる」
「我々は『特別な人達』をクラスAと呼び『普通の人達』をクラスBと区別する。
 そう『特別な人達』は『普通の人達』よりも上なんだよ。
 なのに何も知らない『普通の人達』と同じ待遇だなんてね、おかしいよ。
 君は見て味わっているから、分かるでしょ『特別な人達』の力を」
「すごい速度で走って跳んで俺や綿山車を簡単に押さえつけた力の事?」
「そう。それだけじゃあない。君も耳にした事があるはずだ 『特別な人達』の凄い力を。あれも全てできる。そう我々『特別な人達』は特別な力を使えるんだよ。
 なのにどうだい?『特別な人達』は『普通の人達』と一緒に暮らさなければならない。特別な家でもなければ学校も『普通の人達』と一緒で、テストの点数が悪ければ留年するし、進学も『普通の人達』と同じ待遇で就職先も同じ。
 何もかも外見とコミュニティ力が優先される社会で『普通の人達』と変わらずに生きなければならない。
 こんなのあってはならないんだよ。『特別な人達』になった以上、もっと特別にされるべきなんだよ。
 上の奴らは何にもしてくれない。だからこそ、特別な力で優遇処置を手に入れることにした」
「それがさっきの注射器?」
「そう。ナンバー入り注射器は高く換金してくれる所があって、君みたいなカモ達は、もってこいだよ。
 さて、そろそろ撤退しないと人払い機能に気づかれる。せっかく教えてあげたけれども、君の記憶はイジらせてもらうよ」

 置山帆乃はスカートのポケットから、黒色注射器を取り出す。

「…。もう一つ教えて?
 『特別な人達』の力は何のためにあるの? 悪い敵と戦うため?それとも災害から守るため?」
「どっちもハズレ。悪い敵もいなけば、災害も君たちに直接ふりかからない世界だからね。ここは。
 そうだね、言うならば、君たちを支配するためかな」
「いや、守るためだろ。創られた世界を」

 馬乗りにしている者と同じ声が背後から聞こえた。

「…」

 振り返るよりも早く首筋に親指ほどの固い感触がした。髪の上からなのにジリジリと猛暑の日差しを受けているような痛みがした。
 痛みは首から中の骨へ、さらに奥深く、内部へ

「!」

 置山帆乃…正確には置山帆乃を操作する者は、彼女を操るための回線を切り離脱しようと試みる、が、機械声のエラーが回避できないと返答する。

「個人ナンバーの違法な
世界の維持を崩す者。クラスZと烙印を押す」

 振り返った先にあったのは反転した『烙印』のスマートウォッチの画面と冷酷に見下ろす今も馬乗りにしているはずの少年だった。

「修復士…」

 その者の名前を口にして、置山帆乃を操作していた者は動かなくなった。

『帯論さん』
『こっちの世界の居場所をつけとめ、確保した。
 放課後、校舎を出る前に自分のAIを遠隔操作して囮にする、少しは知恵がついたな』
『ターゲットと同じ方法なんだけれどもね。こっちは『修復士』の称号持ちで違法にならないから』

 脳内での会話を終了して、和技はスマートウォッチを操作する。
 クラスZがちらかした現場を元通りにしなければならない。

「……」

 和技はクラスメイトに視線を向けた。

 この架空世界の秘密を守るため、彼の記憶から事件に関する事すべてデリートする。
 可愛い外見に変わった置山帆乃もそうなら、朝、和技に話しかけた事も、一時的で一方的であったが仲間意識をもてた事も全て

「友達は作っても消えていく。消えていくならいない方が良い」

 少年は ため息をつき、言葉を吐き捨てた。




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