第1話 推理? 違う違う! 生き残れ!
文字数 2,531文字
指紋:ゲーム内では
触れた物すべてに指紋が残る
布製品で消すことができる
+++++++++++++
誰も死んでいないどころか、はじめて13人が勢揃いする2日目の昼。
「ようやく席が埋まりましたわ! お1人ずつ自己紹介をお願いできますかしら?」
上座には屋敷といわず島のすべてを取り仕切る女主人 たる姓牙淵 無黒 。才人を集めて……という設定はどうでもいいだろう。
彼女はーー性別はあまり意味がないがーーもっとも成功している殺人 ショーの仕掛け人だ。ハイブランドのモードなスタイルで、ロココ調の調度品に囲まれている。
円卓の0時の場所に鎮座 する姓牙淵は犯人にも被害者にもなり得ない唯一の存在だ。
その右隣、1時の席から手が上がった。
「では、私から。術中 です。シナリオライターをしています」
人気のストーリーでは必ずといっていいほど彼の名がクレジットされている脚本家、術中 百仲 。
フリースタイルモードにプレイヤーとして参戦していることは何を意味するのか。
黒いセットアップを纏 う彼は昨日の夜は姿を見せなかった。
今度は11時側で手が上がる。
「次は私で。知っている者がほとんどだし、主役は後の方がいいだろう?」
姓牙淵の左隣で笑顔を見せているのは殺人鬼の中の殺人鬼。名前は時々で異なるものの、遺体を見ればすぐに彼と知れる。
首も腕も脚もバラバラの血塗れ死体。名刺がわりのど派手な損壊。
なおかつ武器は身体一つ、素手で殺す。
想定外すぎて迷宮入りが相次だ。被害者の数は3桁に及ぶとされるが、立証されたのは半数にも満たないという。
ぴったりしたスーツに身を包む彼は真っ白な手袋をした手で、前髪を掻き上げた。
「野獣でいいんじゃないかな。今回は。仕事はそうだなぁ、人殺し。みんな手合わせよろしく」
野獣 の通り名で参加するとは。
野獣さんに少し遅れて上げた手を再び伸ばしたのは2時の場所に座る半裂 ささら。
ラフなTシャツ姿の半裂もまた手練の殺し屋だ。彼は万物を凶器に変えるマイスターである。
「次は俺でいいですか。半裂っす。うーん、仕事って。じゃあ、職人で。武器つくってます」
次におどおどと手を挙げたのは野獣の左隣、10時の位置には全 音符 。
運営側の人間ではないかと囁かれる有名な被害者。ダイイングメッセージを残す達人である。チェックのワンピース姿でキーボードを奏でていた。即興劇伴だ。
「全です。仕事は作曲家です」
「次は私だね」
半裂の右隣には化狐 。
因縁作りが上手く、アリバイをつくらない立ち回りで事件を翻弄する容疑者だ。終幕の際にお馴染みのポーズで彼だと知れる。化狐は右手で狐をつくって顔の横で振った。
「化狐です。役者はどうだろう?」
姓牙淵がほほえむ。
「よろしいかと」
9時の位置から手があがる。
死体アーティストと称賛される奇人、華満 花橤 。
犯人に協力的で、猟奇殺人や見立て殺人で活躍している注文の多い共犯者である。
現時点ですでに花に埋もれていた。
「華満です。私はアーティストがいいです」
続いて4時の位置から声が上がった。
「はいはーい! 次は俺! サイエンティストです! あ、内田菊苗 でーす!」
進んで探偵の相棒役を務める人気者。証拠がために活躍するので重宝されている。
ツイードのスーツに丸眼鏡。胸ポケットはパンパンに詰まっていた。
ぴしっと8時の席から手があがる。
「はい。わたくし、宣伝 第一と申します。デジタル伝道師とでも申しましょうか。よい商品を広くみなみな様に知っていただきたいのでございます」
広告の一形態である。静かに商品を使用しているだけの場合もあれば、アグレッシブに事件に絡めてくる場合もあり、こうした人間をいかにストーリーに組み込むかは楽しくも厄介な難題である。
青いスーツが光りはじめた。
「ル、ル、ルルバン! みんなが大好き! そうさ、あのルルッとル、ル、ルルバンーー」
アグレッシブな方だ!
「黙れ!!!」
5時、つまりぼくの右隣から大音声が轟いた。
「黙ります」
宣伝はすぐに大人しくなった。
上品なスーツを着た険しい顔の本拠地 がため息をつく。
「……私は本拠地唯 。職業は探偵だ。まあ、出番はなさそうだが。せいぜい被害者にならないように頑張るよ」
本拠地の怒りは、ぼくの左隣に向けられている。
そうして7時の席に注目が集まった。
「探湯甕 閻羅 、学生。よろしくね」
現実世界において、産まれた時から名を馳せる異質の存在。本名で参加している悪名高き深湯甕家の次期当主だ。
曽祖父は特高のエースと呼ばれ神奈川県で権勢を振い、大正義と名付けられた祖父は事件の発生件数の少なさで名を馳せ、父は関東管区に君臨し、検挙率の高さを誇った。
のちに事件の揉み消しや冤罪事件が明るみになったが、責任を問われることはなかった。
閻羅がいる限り、本拠地が主役になることはありえない。
次はぼくだ。
「山田です。深湯甕の付き添いです」
すかさず半裂が訊いてくる。
「はじめましてかな? 深湯甕くんはいつも1人で参加しているから」
「ええ」
やれやれ。ぼくは値踏みされている。
化狐も続く。
「リアルタイムだから、といったところか」
「まぁ、そんなとこです」
内田が手を挙げた。
「はいはーい! じゃあ、俺は本拠地さんとタッグを組もうかな。深湯甕くんたちと推理バトルしましょうよ!」
「断る」
即答する本拠地の肩を内田が揺さぶる
「えーっ! やりましょうよー!」
客人の紹介は終わったが、まだ一人いる。
メイドとして給仕や掃除などを一手にになう潮尾 だ。
配膳が終わり、姓牙淵がグラスを掲げた。
「さあ、楽しみましょう」
野獣は鋭い視線を姓牙淵に向けた。
「ここはどうかな、姓牙淵さん。このメンバーを選んだ理由を聞かせてもらえないかな?」
いいですねと全。
華満がつぶやく。
「全員がそろうのはこの先これで最後かもしれませんし」
ふふふと姓牙淵が笑う。
「理由だなんて。運命なのよ。みなさんは観客に望まれてここにいるの。活躍が見たい。推理が見たい。戦う姿が見たい。血を見たい。リアルタイムでずっと見ていたいくらい殺し合う姿を望まれているのよ」
怪訝 そうに本拠地が言う。
「宣伝もか?」
「みんな大好きルルバン!」
うなずく姓牙淵。
「そうよ。私たちは才人が大好きなの。才能煌 めく12人による殺人ゲームをはじめましょう!」
触れた物すべてに指紋が残る
布製品で消すことができる
+++++++++++++
誰も死んでいないどころか、はじめて13人が勢揃いする2日目の昼。
「ようやく席が埋まりましたわ! お1人ずつ自己紹介をお願いできますかしら?」
上座には屋敷といわず島のすべてを取り仕切る
彼女はーー性別はあまり意味がないがーーもっとも成功している
円卓の0時の場所に
その右隣、1時の席から手が上がった。
「では、私から。
人気のストーリーでは必ずといっていいほど彼の名がクレジットされている脚本家、
フリースタイルモードにプレイヤーとして参戦していることは何を意味するのか。
黒いセットアップを
今度は11時側で手が上がる。
「次は私で。知っている者がほとんどだし、主役は後の方がいいだろう?」
姓牙淵の左隣で笑顔を見せているのは殺人鬼の中の殺人鬼。名前は時々で異なるものの、遺体を見ればすぐに彼と知れる。
首も腕も脚もバラバラの血塗れ死体。名刺がわりのど派手な損壊。
なおかつ武器は身体一つ、素手で殺す。
想定外すぎて迷宮入りが相次だ。被害者の数は3桁に及ぶとされるが、立証されたのは半数にも満たないという。
ぴったりしたスーツに身を包む彼は真っ白な手袋をした手で、前髪を掻き上げた。
「野獣でいいんじゃないかな。今回は。仕事はそうだなぁ、人殺し。みんな手合わせよろしく」
野獣さんに少し遅れて上げた手を再び伸ばしたのは2時の場所に座る
ラフなTシャツ姿の半裂もまた手練の殺し屋だ。彼は万物を凶器に変えるマイスターである。
「次は俺でいいですか。半裂っす。うーん、仕事って。じゃあ、職人で。武器つくってます」
次におどおどと手を挙げたのは野獣の左隣、10時の位置には
運営側の人間ではないかと囁かれる有名な被害者。ダイイングメッセージを残す達人である。チェックのワンピース姿でキーボードを奏でていた。即興劇伴だ。
「全です。仕事は作曲家です」
「次は私だね」
半裂の右隣には
因縁作りが上手く、アリバイをつくらない立ち回りで事件を翻弄する容疑者だ。終幕の際にお馴染みのポーズで彼だと知れる。化狐は右手で狐をつくって顔の横で振った。
「化狐です。役者はどうだろう?」
姓牙淵がほほえむ。
「よろしいかと」
9時の位置から手があがる。
死体アーティストと称賛される奇人、
犯人に協力的で、猟奇殺人や見立て殺人で活躍している注文の多い共犯者である。
現時点ですでに花に埋もれていた。
「華満です。私はアーティストがいいです」
続いて4時の位置から声が上がった。
「はいはーい! 次は俺! サイエンティストです! あ、内田
進んで探偵の相棒役を務める人気者。証拠がために活躍するので重宝されている。
ツイードのスーツに丸眼鏡。胸ポケットはパンパンに詰まっていた。
ぴしっと8時の席から手があがる。
「はい。わたくし、
広告の一形態である。静かに商品を使用しているだけの場合もあれば、アグレッシブに事件に絡めてくる場合もあり、こうした人間をいかにストーリーに組み込むかは楽しくも厄介な難題である。
青いスーツが光りはじめた。
「ル、ル、ルルバン! みんなが大好き! そうさ、あのルルッとル、ル、ルルバンーー」
アグレッシブな方だ!
「黙れ!!!」
5時、つまりぼくの右隣から大音声が轟いた。
「黙ります」
宣伝はすぐに大人しくなった。
上品なスーツを着た険しい顔の
「……私は本拠地
本拠地の怒りは、ぼくの左隣に向けられている。
そうして7時の席に注目が集まった。
「
現実世界において、産まれた時から名を馳せる異質の存在。本名で参加している悪名高き深湯甕家の次期当主だ。
曽祖父は特高のエースと呼ばれ神奈川県で権勢を振い、大正義と名付けられた祖父は事件の発生件数の少なさで名を馳せ、父は関東管区に君臨し、検挙率の高さを誇った。
のちに事件の揉み消しや冤罪事件が明るみになったが、責任を問われることはなかった。
閻羅がいる限り、本拠地が主役になることはありえない。
次はぼくだ。
「山田です。深湯甕の付き添いです」
すかさず半裂が訊いてくる。
「はじめましてかな? 深湯甕くんはいつも1人で参加しているから」
「ええ」
やれやれ。ぼくは値踏みされている。
化狐も続く。
「リアルタイムだから、といったところか」
「まぁ、そんなとこです」
内田が手を挙げた。
「はいはーい! じゃあ、俺は本拠地さんとタッグを組もうかな。深湯甕くんたちと推理バトルしましょうよ!」
「断る」
即答する本拠地の肩を内田が揺さぶる
「えーっ! やりましょうよー!」
客人の紹介は終わったが、まだ一人いる。
メイドとして給仕や掃除などを一手にになう
配膳が終わり、姓牙淵がグラスを掲げた。
「さあ、楽しみましょう」
野獣は鋭い視線を姓牙淵に向けた。
「ここはどうかな、姓牙淵さん。このメンバーを選んだ理由を聞かせてもらえないかな?」
いいですねと全。
華満がつぶやく。
「全員がそろうのはこの先これで最後かもしれませんし」
ふふふと姓牙淵が笑う。
「理由だなんて。運命なのよ。みなさんは観客に望まれてここにいるの。活躍が見たい。推理が見たい。戦う姿が見たい。血を見たい。リアルタイムでずっと見ていたいくらい殺し合う姿を望まれているのよ」
「宣伝もか?」
「みんな大好きルルバン!」
うなずく姓牙淵。
「そうよ。私たちは才人が大好きなの。才能